字を覚えるのに時間がかかる。
文字を読んだり、書字の練習以外にも効果的な練習方法はないだろうか?
この記事では、より効果的に文字を学習する方法として「なぞり読み」と、その効果にもとづいた知育カードを解説します。
これを読めば鉛筆で字を書くだけでない、違った練習方法のヒントになるでしょう。
特に後半の脳の仕組みは専門職向け。リハビリの専門職に知ってほしい脳科学の内容です。
「なぞり読み」とは字を指でなぞる読み方のこと
「なぞり読み」って検索すると速読方法がでてきますが、ここでは、指で文字をなぞって読むという話です。
「失読」という読めない障害
脳の障害のひとつに「失読」というものがあります。
つまり、読めない障害。
この失読がある患者さんは自分が書いた字でさえ、読むことができないことがあります。でも不思議なことに、文字の形を指でたどらせると正しく読めることがあります。
この現象は、通常は見ることによって行なわれる文字の認識が、他の感覚的な要素を介しても可能であることをしめしています。
読み書きが複数にわたる脳の領域の、複雑なネットワークによって行われている証拠です。
文字を指でなぞる知育教材「指なぞりカード」
この文字を指でなぞるという方法は、わたし自身もリハビリの中で行います。ボンドで文字をなぞって凹凸をつけたり、粘土で文字を作って触ってもらったり。
手作りの教材で行っていましたが、実はこんな知育教材があるのです。
さすが、くもんさんといったところです。子どもの知育教材に関しては、いつもお世話になっています。
この教材の特徴はさわって形を確かめるところ
この指なぞリカードは、カードに凹凸がついていますから、それをさわって学ぶことができます。
目で形をとらえたあとに、指でなぞることで、ゆびの運動と見た情報を頭のなかでマッチングさせることができます。
さらに、文字の部分がでこぼこしているわけですから、指先からの触覚を使って、形とのマッチングができます。
このようにさまざまな感覚や指の運動を使うことによって、形の把握やもじの学習がより効果的に行えます。文字に対して手が動く方向を鉛筆という道具を介してではなく、直接自分の指の感覚と合わせて学習できるからです。
これで形を覚えた後に、鉛筆で字を書く練習につなげていきます。
「ゆびなぞりカード」の詳細はこちらから
「なぞり読み」の脳科学
ここからは、「なぞり読み」の脳の伝達経路についてお話します。
*用語の言い換えが難しいため、専門用語が含まれます。
イメージしやすいように、アニメーションにしました。
①文字を目で見る
目で文字を見る事から始まります。これは、脳の後ろの部分、「第一次視覚野」というところで行われます。視覚野ってのは、見ることをつかさどる脳の領域です。
②見た情報を手の運動に置き換える
目で見た情報は、つぎに運動覚をつかさどる脳の領域に向かいます。目で見た情報をもとにその形に指を動かすよう運動感覚におきかえているわけです。
③指の運動が生まれる
運動の感覚に置き換えられた情報は、実際に運動の命令を出す脳の領域、「運動野」や「運動前野」という領域に行きます。
そして、脳からの命令によって実際に指で文字をなぞる運動が生まれます。
④指からの触覚が脳に戻ってくる
指でなぞると、その運動の感覚やさわった皮膚の感覚の情報がうまれます。その感覚情報が脳に戻ってきます。戻ってきた感覚情報は「体性感覚野」というところにはいります。
感覚情報と運動覚情報のマッチング
感覚の情報は運動覚情報を蓄えている脳の領域に向かい、感覚情報と運動覚情報がマッチングされます。
伝わってきた感覚を文字や意味の情報に置き換わる
さわることでうまれた感覚の情報は、視覚語形領域という文字や単語の形の情報が蓄えられている脳の領域へと向かいます。そこから、さらに意味情報を蓄える脳の領域に進んでいきます。
もう一度、おさらいのためのアニメーションです。
ここまでお読みくださって、ありがとうございました。
まとめ
文字を覚えるためには、目で見るだけでなく、手の運動やさわった感触といった「目からの情報」以外の感覚も大切なことがわかります。
この知識を応用すれば、ゆびで文字をなぞる練習方法の意味と価値がわかるはず!
紹介した「ゆびなぞリカード」。もっと早くしっていれば、自分の子どもにも使ったのになぁと、ちょっと記事を記事を書きながら後悔。。。この気持ちを、わたしが担当する次なる子どもたちのために、つなげていこう!
「ゆびなぞりカード」の詳細はこちらから
引用文献
・岩田誠(1992). 神経文字学の確立にむけて. 安西祐一郎 ら( 編 )認 知科 学 ハン ドブ ック. 共立 出版,pp.393-401
・櫻井 靖久:読み書き障害の 2 重回路説の進展. 神経心理学 34;2-8, 2018
・櫻井 靖久:コミュニケーション障がいとしての読み書き障害. 神経心理学 37;81-87, 2021
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