臨床の場でもあまり見ることがないレアケース
脳梁の離断症候群
わかりやすい資料があまりなかったので、自分用としてまとめたものです。
参考になれば幸いです。
脳梁ってなんですか?
ヒトの脳は右脳と左脳にわかれています。
その左右の脳を繋いでいるのが脳梁と言われる部分です。
脳梁には、およそ2から3.5億本の神経線維があると言われており、前頭葉、側頭葉、頭頂葉を連絡する線維は直径が小さく、視覚野や体性感覚野を結ぶ線維は太くできています。
面白いことに、右利きだけの人よりも、右利きの傾向が少ない人(いわゆる、左手や両利き)の脳梁は厚くなり、また女性の方が厚いと言われています。
また。犬の実験では、脳梁を切断した犬は、片側の脳で覚えた条件付けが、反対側の脳に入る事がないという結果がえられました。
つまり、左と右脳間の情報伝達がなされなかったと言うことを証明したのです。
同じような実験はネコでもおこなわれています。
人に対しては、脳梁を切断すると過去にてんかん発作が片方にしかおこらないということで、てんかんを抑える治療に応用されたこともありました。
このじょうほうこうかんが上手く出来ないことによって、左脳と右脳がそれぞれ働いてしまう。その事によって起こるさまざまな高次脳機能障害が、離断症候群なのです。
どんな症状がでるの?
脳の役割をまず知りましょう
脳は右脳と左脳で役割が分かれています。
右脳は、、、
「左側の視野」の情報が入る
「左手(足も)」の命令を出す
「立体・空間の構成」を把握する
「言葉を用いない思考」
左脳は、、、
「右側の視野」の情報が入る
「右手(足も)」の命令を出す
「言葉の中枢」
「計算」「書字」をつかさどる
大脳は役割分担をしています。そして脳梁という通路を通じて情報をやり取りしています。これが障害されることによって、様々な症状が引きこされるのです。
視覚はどの脳に入るの?
▸ 左視野⇒右大脳半球
▸ 右視野⇒左大脳半球
大脳は対側視野に提示された刺激のみを検出します。同側視野に提示された刺激は検出できません。
これが障害されることを「同名半盲」といいます。
交叉性視覚失調症
右視野にある目標物に対して、右手は指差しができますが、左手では指差しをすることができません。
*左視野の場合は、逆に左手ではできるが、右手ではできなくなる
右視野の情報は左脳にはいります。左脳は右手をつかさどる脳です。
一方、左右の脳をつなぐ連絡路の脳梁が障害されると、左脳にはいった目からの情報を右脳に送ることができません。
右脳は左手をつかさどる脳の領域です。だから、右手はできるけど、左手はできないのです。
交叉性指型再現障害
右視野に出された「指の形」を、右手では再現することができますが、左手では再現できません。
*左視野の場合は、逆に左手ではできるが、右手ではできなくなる
左右の脳をつなぐ連絡路が断たれるたれることで、右視野の情報を「左手」をつかさどる右脳に送ることができません。
したがって、左手では再現ができなくなるのです。
交叉性描写障害
右視野で見ているものを、右手では描くことができるが、左手では描くことができません。
*左視野の場合は、逆に左手ではできるが、右手ではできなくなる
右視野の情報は、左脳に入ります。そのために、左脳がつかさどる右手では描くことができます。
しかし、連絡路がつかえないため、左脳に入った右視野の情報を「右脳」に送ることができないのです。
そのため、「右脳」がつかさどる左手では描くことが難しくなるのです。
左半側失名辞
右視野の入った物品の名称や形状、用途などを「ことば」で説明することができますが、左側の視野に入った場合、「ことば」にすることができません。
左脳は言語の中枢があります。
右視野の情報は「左脳」にはいるので、その情報を使うことができますが、左視野の情報は「右脳」にはいります。連絡路が断たれているために、その情報は言語中枢がある左脳に送ることができません。
だから、左視野でみたときには言うことができないのです。
左半側失語
左視野に提示された「文字やことば」を読解や音読をすることができません。
理由は上記の「左半側失名辞」と同じです。
左視野の情報は「右脳」に入ります。
連絡路が断たれているために、言語中枢がある「左脳」には、左視野の情報を送ることができないのです。
したがって、文字やことばの読解や音読ができなくなるのです。
右手構成失行
右手で図形の模写やタングラムのようなブロックデザイン、構成課題を行うことができません。
目から入った図形の情報は「右脳」で処理されます。「右脳」は形や空間を把握する視空間の中枢です。
しかし、この右脳で処理された情報は、連絡路が断たれているために、「右手」をつかさどる左脳に送ることができません。
だから、右手での図形の構成課題ができなくなるのです。
左手失行
口頭での指示を左手で行うことができません。
耳から入った口頭指示の情報は、言語中枢がある「左脳」で処理されます。
左脳で言葉の意味を理解しますが、その情報を連絡路が断たれているために「右脳」におくることができません。
「右脳」は左手をつかさどる脳です。言葉の情報を右脳に送ることができないため、左手では言われたこと行えないのです。
まだまだ他にもあります!
左手失書
右手では自発的に文字を書くことができますが、左手では思うように書こうとしている文字が書けなかったり、異なる文字を書いてしまいます。
ただし、左手での文字の「模写」は正常です。
これは、書字の中枢が「左脳」にあることに関係しています。左脳は右手をコントロールしていますから、情報をそのまま手の動きに変えることができます。
しかし、左手をコントロールして書字を行うためには、左脳にある書字の中枢から情報を右脳に送らなければなりません。しかし、連絡路が断たれているため情報を送ることができないのです。
したがって、左手で書字をすることが難しくなってしまいます。
小物品の交差性照合障害
閉眼で左右の手に同時に同一もしくは異なる物に触れ、それが同じかどうかを判断する課題ができなくなります。脳梁による左右の情報交換ができないことが原因でおこります。
両手協応動作障害
左右の手を独立に運動される動作される動作をあたらたに学習することは障害されるます。
右手は上、左手は下という動作などができなくなります。
拮抗失行
たとえば、
・右手で服を着る動作をしているとき、左手は脱ぐ動作をおこなった
・左手でパンを取ったが、右手で元に戻した
右手だけの行動の時に、しばしば左手がいじょうな行動をすることが見られています。
一側の手を使うときは、反対側の手が協力して動くように、脳梁を通じて情報交換をしながら制御しています。しかし、連絡路が断たれるとこの情報交換ができずに、制御できなくなるためこうした行動が引き起こされるとしています。
無法の手(他人の手)
離断症候群の患者さん(おおむね右利き)のなかには、自分の制御できない左手を「他人の手」や「よそ者の手」と表現するときがあります。
▸ 目を閉じると「自分の手」と認識することができない
▸ 一方の手が自分で制御できないことを言葉で表現する
▸ 制御できない手(左手)を、別の人物であるかのように扱う
これが「他人の手」と言われる症状の特徴です。
自己批判
勝手に手が動いてしまう、自分で制御できない状況に対して
「左手が勝手にそれをした」
「左手はなぜそんなことをするのでしょう」
「左手はうまくやっていますね」
制御できない左手に患者さん自身が驚いたり、制御できないことにいら立ったりして、ときに他人事のように自分の手を批評することがあります。
障害されないものはありますか?
以下のようなことは障害をうけないとされています。
・単純な動作の左右間伝達(腕を直角に曲げる、もう片方の手で模倣する等)
・振動感覚
・重さ、質量の異同の弁別
・熟練した比較的簡単な両手の同時動作、交代動作
まとめ
左右の大脳をつなぐ連絡路=「脳梁」
この連絡が絶たれることによって、実に様々な障害像をつくりだします。
難しい文献を読んでも理解が難しい内容ですが、できる限りわかりやすく書きました。
読んでいただいた方の参考になれば幸いです。
引用文献
・http://www1.odn.ne.jp/~aag13140/chap12.pdf
・平山恵造:視覚性運動失調(Ataxie optique)の臨床と病態.第5回日本失語症研究会特別講演
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