リハビリ専門解説!私の小児リハビリカルテ

わたしの小児リハビリカルテ。言語聴覚士から作業療法士に相談のあった症例。

リハビリ専門解説!
小児リハカルテ②

 三男の逆上がりが、ずいぶん上達しました。ほんとあと一歩ってところまできています。先日は、地域の防災訓練に参加した後、公園で練習しました。次男が三男に指導してくれました。こういうときは、親よりも兄のほうが冷静に指導してくれます。三男としても、兄は憧れの存在として、受け入れが良いみたいです。

兄弟の教え愛 どうも、ゆーです。
ありがとうございます。

 さて今回のカルテは、言語発達遅滞のお子さんです。このお子さん、最初は言語療法としてリハビリをスタートしたのですが、言語聴覚士から作業療法士にも見てもらいたいとのことで、医師と相談し作業療法が開始された症例です。今回は、初回の評価から遊びの選択、お母さんへの指導などを解説します。

こんな方におススメ!
✧٩(ˊωˋ*)و✧

・小児リハビリはどんなことをするのか知りたい
・お子さんに合わせた遊びを選びたい
・効果的な遊びを選びたい
・療法士の考え方を知りたい

*この症例は実際の経験を踏まえたうえで作成した架空の症例です。(似たような症例をいくつか合わせています)

おこさんの紹介

ここでは仮にBちゃんとしましょう。Bちゃんの基本的な情報を次の通りです。

保育園 (普通園) 年長
男の子
診断名:言語発達遅滞

経歴
作業療法を始める前は、言語聴覚士による言語療法でリハビリが行われていました。しかしながら、課題に集中できない、離席をして動き回ってしまうということから、言語療法が難しいとのことで、作業療法が開始されました。
言語聴覚士からの情報では、発語は無く、口の真似をし始めた段階。絵カードの選択はできることから、ある程度の名詞は理解しているとのことでした。

 では、Bちゃんの初回のリハビリの様子について、以前紹介した私の思考回路「ACPLASH:アクプラッシュ」の流れにそってみていきたいと思います。

A:ACTION(行動・反応)

 お母さんの困り感

・言葉が出ない
・コミュニケーションがうまく取れない、指示が入りにくい
・見たものをすべて出してしまう
・お絵描き(殴り書き)をするが、紙からはみ出して書いてはいけないものにまで書いてしまう

 言葉が伝わらないことによって、お母さんはお子さんとどのようにかかわったら良いのかわからにようでした。実際のお母さんの声掛けの仕方にも特徴がありました。それは、

・○○しちゃだめ! ✖(バツ)だよ!

 お子さんが衝動的に動くことによって、禁止するようなワードが増えてしまったのでしょう。それを言っていてもお子さんには伝わっていない様子です。

私が観察したお子さんの特徴的な行動

 初対面でみた、ありのままのお子さんの様子をみてみましょう。

・あいさつをするが、セラピストに視線を合わすことができない
・セラピストが近づいてあいさつすると、母親に促されると、頭を下げる
・一人で廊下を走ってしまい、歩調を母親やセラピストにあわせることがない
・目に入った物をとりあえず触ってみる
・あそびが点々としている
・待ち時間も動き回っており、母親が付き添っている。子どもの動きに、母親が振り回されている印象を受ける。

カルテ
カルテ

初対面での印象。待ち時間も落ち着きがなく動き回っている。子どもの起こす行動や反応に対して、母親が反応する様子が見られる。母親は禁止、行動を抑制する言動が多い。セラピストと視線をあまり合わせることなく、セラピストが近くであいさつするとこちらをみて、母親に促されて頭を下げる反応を示す。

PL:PLAY(あそび・対応方法)とAS:ASSESSMENT(アセスメント・評価・観察)

最初のあそび

 作業療法の部屋に入って、まず好きなように遊んでもらいました。このお子さんが遊びだしたものは次の通りです。

・ハンドルを回すとカプセルが出てくるガチャポンのおもちゃ
・クレープ屋さんごっこのおもちゃ
・ジャングルジムと滑り台
・大きなボール
・なわとび
・輪投げ
・トランポリン

遊びの様子を観察

遊ぶ様子から次のようなことが観察されました。

・ガシャポンのおもちゃは、ハンドルを回す方向がわからない。一緒に回す介助が必要。出てきたカプセルを開けることはせずに、容器の中に戻そうとする。

・クレープ屋さんごっこは、パーツをはめ込むことができない。セラピストがはめ込んだパーツを押し込むことはできる。

・ジャングルジムや滑り台は、体の動きがぎこちなく、のぼったはいいがどのように降りたらよいのかわからない様子で困っている。セラピストが支えたり、足場を追加する事でなんとか降りることができる。滑り台を滑っているときはたのしそう。

・大きなボールは、大玉ころがしのように転がして遊んでいる。それ以外の遊び方はない。セラピストが大きなボールをつかって大きいビルディングブロックを倒す遊びを始めると、マネしてボールをぶつけることができる。

・倒れたビルディングブロックを重ねることはしない。遠くに散らばったブロックを持ってきてほしいと頼むが、指示が入らず。手渡しして、目的の場所まで誘導すると運ぶことができる。

・トランポリンはうまく飛ぶことができない。

・輪投げは使い方がわからず、セラピストがやって見せることでまねして出来る

・なわとびは出したはいいが、なげて遊ぶ

・目に入った物に対して、次から次へと遊びが移り変わっていく。

 ちょっと情報量が多いですが、特徴的な遊びが見られています。まとめるとつぎのようなポイントがあげられます。

・ジャングルジムやトランポリンなど体を使う遊具でうまく遊べない

・コインを入れる、回す、輪を入れるといった簡単な因果関係の理解や操作は行うことができる

・パーツを選択し、指定されたところに入れるといったやや複雑なものの操作や手先の細かい操作は苦手

・目に入った物を片っ端から遊びだす

・指示理解は入りにくい

カルテ
カルテ

 ジャングルジムや滑り台、トランポリンなどの粗大遊びは、体の使い方にぎこちなさを認める。  
 ガチャポンはハンドルの操作がわからずに、セラピストの介助を必要とする。回してカプセルを取り出すことを繰り返している。コインを入れることは理解できている。
 クレープ屋ごっこは、細かいパーツの操作や理解ができずに、活動のほとんどで介助を必要とする。
 ボールは大玉ころがしのような遊びを行うが、それ以外では遊ぶことができず、セラピストがブロックを倒す遊びを展開するとそれをみてまねて遊ぶことができる。輪投げも同様に遊び方を教えるとまねることができる。なわとびは投げてしまう。
 指示は言葉で入りにくく、動作の誘導が必要。

H:Hypothesis(仮説)

 これら遊びや観察から次のような仮説を立てました。

・自分の体のイメージが上手くできていない

・外部環境からの情報を適切に集めることができない

・うまく環境と自分自身の動きを合わせることができないため、遊具をみても遊び方をうまくイメージできない

・視覚(見る)の情報が強く入る

・簡単な因果関係の理解はできる

・簡単な単語や状況の判断はできる

カルテ
カルテ

遊び方がわからないことから、自分の体の使い方を理解できていないと推測される。外部環境からの情報をうまく取りこむことができず、自分の体の動きと合わせて活動をイメージすることができない。そのために、待ち時間に何をすべきかわからずに動き回る、遊びのバリエーションが少ないといった行動につながっている。指示理解は、たとえば物を取ってきてほしいと言葉でいっても伝わらないが、物を手渡すと運べることから状況を判断して行動している可能性が高い。
・「ちょうだい」とセラピストが促すと、手を合わせてジェスチャーすることから、簡単な単語は理解できていると推測できる。

再びのPLAY (あそび・対応方法)

 これらの仮説から、次のような遊びや対応方法が適していると考えました。

・入れる⇒出てくる、投げる⇒倒れるといった簡単な因果関係のあそびが適している

・直接体に感覚が入る簡単な粗大遊びから、自分の体のイメージを作っていく

・視覚が強いことから、不要な情報は隠す。

・視覚が強いことを利用して、見て楽しむことを遊びに取り入れる。また、指示は言葉と一緒に目から情報を取り入れるようにする

選ばれたのはトンころガッタンでした。

 遊びの方向性が決まったので、これにあった遊びを選択しました。それがコチラ

トンころガッタンです。このおもちゃの特徴は

・玉を入れる、出てくるといった簡単な因果関係がある。
・転がる様子を見て楽しむことができる
・入れるときの手ごたえが適度にある

立てた仮説にピッタリのおもちゃです!

果たして結果は…

・遊びが点々と移り変わることなく、このおもちゃを集中して遊ぶことができた

・転がる様子を見ながら、笑顔が見られた

・一緒に遊ぶセラピストの顔を見るようになった

お子さんの観察やそこから考えた仮説をもとに、Bちゃんにピッタリなおもちゃが見つかりました。

これをきっかけにコミュニケーションにつなげる

ピッタリな遊びが見つかったら、これをきっかけにコミュニケーションややり取りにつなげていきます。私が行った工夫は次の通りです。

・玉をセラピストから受け取る

・受け取るときに「ちょうだい」のリアクションを促し、そこにこちらから「ちょうだい」と言葉で伝えて、行動と言葉のマッチングを促す

・笑顔が見られた時に「たのしいね」「おもしろいね」といった感情を言葉にして返す

 楽しい遊びを中心に、こちらから働きかけをすることで、やりとりを生み出すことができるようになりました。

カルテ
カルテ

仮説をもとに簡単な因果関係と単純なしくみのあそび、視覚的に楽しめる遊びが適していると推測し、トンころガッタンを提供する。転がる様子を見て笑顔が見られる良反応が得られている。また、このおもちゃを集中して遊ぶことができており、遊び込みが可能である。遊びの中にセラピストととのやり取りをとりこむことで、よりセラピストへの注目を促すことができる。

*遊び込みとは、一つのあそびにじっくり向き合うことを言います。遊び込みができることで、その中にセラピストとしての訓練効果を持たせることがスムーズにできたり、その遊びを中心に子ども自身が遊びの幅を広げることができるようになります。

もう一つのセラピー、お母さんへの指導

 Bちゃんのお母さんは、行動に振り回されている様子と行動を制限する言葉が多く聞かれていました。そこで、わたしは遊びながらお子さんとのコミュニケーションの取り方について指導しました。
 ちなみに、この指導を行うために、わたし自身Bちゃんの行動に対して、次のようなルールを設けました。

・時間と遊ぶ場所だけ制限するが、それ以外は危険な行動以外は制限をかけない

・危険な行動以外は禁止するような言葉を使わない

この対応方法を前提としたうえで、次のようなアドバイスをお母さんに行いました。

・指示を出すときは、目で見てわかるような工夫をする。例えば、片付けをしてほしい時は、箱を用意してこの中に入れるように促す

・言葉で伝わらない、見ても伝わらない場合は、直接動きを誘導して理解を促す

・遠くから声掛けをしても伝わらないので、近くで注目を集めて指示を出す

カルテ
カルテ

motherに対して、伝え方の指導を実施する。特に禁止や制限を設けることについては、~してはだめではなく、してほしいことをそのまま伝えるようにする。また、言葉での指示が入りにくいうえ、遠くから子供に対して話しかけて指示を出しているので、近くに行って目から情報をとりこめるような方法をデモンストレーションしながら伝える。
motherはメモを取っており、自宅でも活かしていくとのこと。

A:アクション(リハビリ後の行動変化)

 リハビリを行った後、お子さんの行動(ACTION)にいくつかの変化が見られました。

・セラピストを意識できるようになり、手をつないで廊下を歩くことができた。また、一人で走っていかずに、歩調をなんとなく合わせるようになった

・出したおもちゃを片付けるなど簡単なルールが理解できるようになった

 初回でありながらも、一定の成果を出すことができました。お母さんの子どもに対する見方も、徐々に変化してくることでしょう。困り感を見極めて、作業療法士として専門性を活かしたアセスメントや遊びを展開しました。
 今後は言語聴覚士と連携しながら、言語面と身体機能・行動面、母親指導をそれぞれで役割分担して、「たった一人」のお子さんを支えていきたいと思います。

まとめ

 今回は「初回のながれ」について、架空の症例ではありますが解説しました。初回はお子さんの実態をつかむことが重要となりますが、その中でも改善できるところをみつけアプローチしていきます。

スタートするときは、伸びしろしかありません。

まだまだ、自分自身のアセスメントについては改善の余地がたくさんありますが、子どもと関わることでセラピスト自身も、お母さんも、子どもも一緒に成長していくことができるでしょう。

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