3歳の娘が「ママ、あれして」「これがほしい」とばかり言うようになった——。
言いたいことはあるようだけれど、言葉にできない様子に不安を感じる保護者の方も多いのではないでしょうか。語い(語彙)の発達は、子どものコミュニケーション力や学力、さらには社会性の基盤にもなります。
この記事では、語いの発達の仕組みや影響する要因、効果的な語彙支援方法について、科学的な視点からわかりやすく解説します。
語いとは何か?語彙の定義と種類

■ 語彙とは?——「知っている」+「使える」言葉の総体
「語彙」とは、人が理解したり使ったりできる言葉の集まりのことを指します。
言語学的・心理学的な視点では、語彙は主に以下の2種類に分けられます:
- 理解語彙(受容語彙 / receptive vocabulary):
聞いたり読んだりして意味がわかる言葉。
例:「りんごって言葉を聞いて、頭に赤い果物が浮かぶ」 - 表出語彙(使用語彙 / expressive vocabulary):
実際に自分で話したり書いたりして使える言葉。
例:「おやつにりんご食べたい」と言える
▶️ 一般に、理解語彙のほうが表出語彙よりも数が多いとされます。
子どもはまず「わかる」言葉を増やし、そのあとに「使える」ようになります。
■ 語彙の発達のメカニズム
語彙の発達は、以下のようなプロセスで進んでいきます:
- 音としての認識(音韻認識)
→ 「り・ん・ご」という音がまとまった単位(単語)として聞こえる - 意味の理解
→ 音のまとまりが「赤くて丸い果物」という意味と結びつく - 使用経験
→ 実際に「りんご」という言葉を使ってみる(=表出語彙として定着)
この過程には、脳内での「語と意味の結びつき」を支える認知ネットワークや、前頭葉・側頭葉などの言語中枢の発達が関与しています(後述するセクション2で詳しく述べます)。
■ 年齢ごとの語彙発達の目安
以下は、研究や発達検査(例:日本版CDI:Communicative Development Inventoryなど)をもとにした一般的な語彙数の目安です(※個人差あり)。
年齢 | 表出語彙の目安(平均) | 特徴 |
---|---|---|
12か月頃 | 数語(「まんま」「わんわん」など) | ジェスチャーと組み合わせた発語が多い |
18か月頃 | 約50語 | 「語彙爆発(vocabulary spurt)」が始まる |
2歳 | 約200〜300語 | 二語文(「ママ きた」「ワンワン いた」)が増える |
3歳 | 約1000語 | 会話が成立し始める。文法の発達も伴う |
4歳以降 | 数千語へ | 絵本や日常経験からどんどん語彙が増える |
▶️ 重要なのは「平均」であり、「正確な数」ではないということです。
特に幼児期は、発達に数ヶ月〜1年の個人差があるのが自然です。
■ 語彙の発達と学力・非認知能力との関係
研究により、語彙の豊かさは次のような側面と関連しています:
- 読解力・学力(特に国語・算数)
→ 語彙が豊富な子は文章理解力が高く、学習がスムーズに進む(Gathercole et al., 2004) - 感情調整・対人関係
→ 言葉で感情を表現できることで、行動問題が減る傾向がある(Roben et al., 2013)
参考文献
Hart, B., & Risley, T. R. (1995). Meaningful differences in the everyday experience of young American children.
Fenson, L. et al. (2007). MacArthur-Bates Communicative Development Inventories: User’s Guide and Technical Manual.
Gathercole, S. E., & Baddeley, A. D. (1993). Working memory and language.
Roben, C. K. P., Cole, P. M., & Armstrong, L. M. (2013). Longitudinal relations among language skills, anger expression, and regulatory strategies in early childhood.
語いの発達に影響する脳の仕組み

■ 言葉はどこで生まれる?——脳の中の「言語ネットワーク」
言葉を理解したり話したりするには、複数の脳領域が連携して働く必要があります。とくに以下の領域が重要です
1. 左側頭葉(特にウェルニッケ野)
- 聞いた言葉の「意味」を理解する場所
- 単語の意味のネットワークが蓄えられているとされます
- fMRI研究では、語彙課題中にこの部位が活性化することが多く報告されています
2. 左下前頭回(ブローカ野を含む)
- 言葉を組み立てて話すために必要な領域
- 文法構造の処理や語の選択(語彙検索)に関与
- 幼児の語彙表出が増える時期に、この領域の活動が高まることが報告されています
3. 後部弓状束(arcuate fasciculus)
- 上記の2つの領域をつなぐ神経線維の束
- 音の理解と発話の調整を行う通信路のような働きをします
- この束の発達と語彙の発達は正の相関関係があるとされています(Lopez-Barroso et al., 2013)
■ 乳幼児期の「可塑性(neuroplasticity)」——脳は変わる
◎ 可塑性とは?
脳の神経回路は、生まれた後も経験によって柔軟に変化・発達していきます。この「変化できる性質」を**神経可塑性(neuroplasticity)**と呼びます。
◎ なぜ乳幼児期が重要?
- 特に0~3歳は、言語に関わる神経ネットワークが急激に形成される時期です
- この時期に「どれだけ多く、どれだけ意味のある言語入力を受けたか」が、後の語彙力に大きく影響します
🧠 ポイント:脳が言葉を「吸収しやすい」時期に、良質な言語環境を与えることが語彙発達の土台になります
■ 脳画像研究に見る語彙の発達
◉ fMRIを用いた研究(Weiss et al., 2018 など)
- 幼児から児童期にかけて、語彙理解課題中の脳活動を調べた研究では、
左側頭葉や前頭葉の活動が年齢とともに増加することがわかっています - また、語彙が多い子どもほど、言語ネットワーク全体の連携が効率的であることも示されています
◉ DTI(拡散テンソル画像)による白質の発達研究(Romeo et al., 2018)
- 言語的なやりとりの豊富な家庭環境で育った子どもは、
言語関連の神経線維(弓状束など)がより発達している傾向がある - つまり、「どれだけ言葉を交わしたか」が、脳の構造そのものに影響を与える可能性があるということです
■ 語彙と脳の発達を結ぶキーワード:経験依存性の神経発達
脳の発達は「遺伝」による部分(経験非依存性)と、「環境・経験」による部分(経験依存性)があります。語彙の獲得はまさに後者であり、どれだけ言葉に触れ、使ったかが神経回路に大きく影響します。
このため、**質の高い対話や絵本の読み聞かせなどの「ことば経験」**が、語彙力の向上に直結するのです。
まとめ
- 語彙の理解・使用には、左側頭葉・前頭葉・神経線維のネットワークが深く関わる
- 脳は生後も柔軟に変化し、ことばの経験に応じて神経回路が育つ
- 特に0〜3歳の時期は、語彙発達にとって「ゴールデンタイム」といえる
- 質の高い言語環境は、脳の構造や働きにまで影響を与える
参考文献
Lopez-Barroso, D., et al. (2013). Word learning is mediated by the left arcuate fasciculus. PNAS, 110(32), 13168–13173.
Weiss, S. M., et al. (2018). Functional MRI reveals developmental changes in the neural networks of vocabulary acquisition. Developmental Cognitive Neuroscience, 30, 76–89.
Romeo, R. R., et al. (2018). Language exposure relates to structural neural connectivity in childhood. Journal of Neuroscience, 38(36), 7870–7877.
Kuhl, P. K. (2010). Brain mechanisms in early language acquisition. Neuron, 67(5), 713–727.
語彙の発達を促す環境要因

■ 「ことばのシャワー」だけでは足りない?
赤ちゃんや幼児の語彙が増えるには、ただ聞いているだけでは不十分です。
大切なのは、「どれだけ多くの言葉に触れるか(量)」と「どんなふうに言葉をかけられるか(質)」です。ここでは、語彙の発達に影響する主な環境要因を3つの観点から見ていきます。
① 質と量が未来を変える:Hart & Risleyの有名な研究(1995)
アメリカの研究者 Hart & Risley(1995)は、幼児期に親が子どもに話しかける言葉の量と質が、子どもの語彙発達にどう関係するかを調査しました。
◆ 研究の概要
- 42家庭を対象に、子どもが生後9か月~3歳になるまでの日常会話を記録
- 結果、家庭の社会経済的背景によって、1日に子どもが聞く語数に大きな差があることが判明
家庭の種類 | 子どもが1日に聞く言葉の数 | 3歳時点の語彙の平均数 |
---|---|---|
専門職家庭 | 約2,100語以上 | 約1,100語 |
労働者階級 | 約1,200語 | 約750語 |
生活保護家庭 | 約600語 | 約500語 |
🧠 注目ポイント:言葉の「量」だけでなく、「励まし」や「質問」など対話的な質が高い家庭ほど、語彙が豊かに育つこともわかりました。
この研究は、「語彙の格差は3歳までに始まる」と警鐘を鳴らしたことで有名です。
② 応答的な関わり——「一緒に話す」ことで言葉が伸びる
単に「話しかける」だけでなく、子どもの発信に大人が応える形のやりとりが、語彙を育てるカギになります。
◆ 応答性(responsiveness)とは?
- 子どもが指さし・発声・表情などで何かを伝えたときに、
すぐに適切な返答をする関わり方を指します - これにより、子どもは「ことばでやりとりできる」実感を得ていきます
◆ 研究例(Tamis-LeMonda et al., 2001)
- 12か月時点で母親の応答性が高かった子どもは、
30か月時点での語彙数が有意に多いことがわかりました - 特に、「子どもの興味に合わせた応答」が語彙発達を強く促進するとされています
💡 実生活の工夫:
- 子どもが指さしたら「これはりんごだね」などと名前を教える
- 子どもが何か言ったら、「そうなんだね、◯◯したの?」と話を広げる
③ メディアは語彙にどう影響する?——一方通行の限界
最近では、YouTubeやテレビなどの映像メディアを使った言語刺激も増えていますが、
語彙の発達においては限界があることが指摘されています。
◆ 米国小児科学会(AAP)の勧告(2016)
- 18か月未満の乳児には、ビデオなどの視聴を控えるべき
- 2歳以降も、必ず大人と一緒に視聴し、対話をはさむことが望ましいとされています
◆ 研究例(Zimmerman et al., 2007)
- 8〜16か月の乳児がDVDを視聴する時間が多いほど、
語彙スコアが低くなる傾向があることを報告 - 映像を「見ている」だけでは、言葉を覚える力は十分に育たない可能性がある
◆ 対話があるメディア活用はOK
- 例えば、「絵本の読み聞かせ動画」を一緒に見ながら親が補足して語りかけるなど、
インタラクティブな関わりがあれば、一定の効果は期待できます
■ まとめ:語彙を育てる環境のポイント
観点 | 重要な要素 | 具体的な工夫例 |
---|---|---|
質と量 | たくさんの語彙を、意味ある文脈で | 絵本の読み聞かせ、身の回りの説明 |
応答性 | 子どもの発信に即座に応じる | 「そうなんだ」「これは〇〇だよ」 |
メディア | 一方通行より対話型を | 一緒に見て会話しながら使う |
参考文献
Hart, B., & Risley, T. R. (1995). Meaningful Differences in the Everyday Experience of Young American Children.
Tamis-LeMonda, C. S., et al. (2001). Child development and responsive parenting: a transactional perspective.
Zimmerman, F. J., et al. (2007). Associations between media viewing and language development in children under age 2 years. J Pediatr, 151(4), 364–368.
American Academy of Pediatrics. (2016). Media and Young Minds. Pediatrics, 138(5), e20162591.
科学的に支持されている語い支援の方法

子どもの語彙力を育てるには、日々の関わり方にちょっとした工夫を加えるだけで、ぐっと効果が高まります。ここでは、科学的に効果が実証されている4つの方法をご紹介します。
① ブックシェアリング(絵本の共有読書)の効果
ブックシェアリングとは、単に絵本を読み聞かせるだけでなく、親子がやりとりしながら一緒に読むスタイルのことです。
◆ なぜ効果的なのか?
研究によると、絵本の読み聞かせ中に子どもと対話的にやりとりすることで、語彙の獲得が促進されることが分かっています。
◆ 研究例(Whitehurst et al., 1988)
- 「Dialogic Reading(対話的読み聞かせ)」を導入した親子は、
4週間後に子どもの語彙力が有意に増加 - 単に聞かせるよりも、子どもが発話する機会を作ることが重要とされます
◆ 実際の関わり方
- 「これはなにかな?」と問いかける
- 子どもが指さしたら「そうそう、ぞうさんだね」と応える
- 子どもが言葉を間違えても否定せず、「そうなんだね、これは◯◯っていうんだよ」と自然に言い換える
📘 ポイント:
絵本は語彙を学ぶ「宝箱」。特に抽象語や感情語(例:うれしい、びっくり)が自然に登場するため、日常会話だけでは得にくい言葉も学べます。
② ラベリング(物や行動に名前をつける)
ラベリングとは、子どもの目の前の物・動作・感情などに対して、大人が積極的に言葉をつけてあげる方法です。
◆ なぜ効果的なのか?
子どもは、自分が注目しているものに名前がつくと、その語彙を効率よく覚えます。
これは「共同注意(Joint Attention)」と呼ばれる現象に基づいています。
◆ 研究例(Tomasello & Farrar, 1986)
- 子どもと大人が「同じ対象に注意を向けている」状態で名前を聞いた場合、
語彙習得が促進されることが示されました
◆ 実際の関わり方
- 子どもがコップを持ったら「コップだね。おみず入ってるね」
- 道ばたで犬を見つけたら「わんわん、しっぽふってるね」
- 子どもが泣いていたら「悲しいのかな?どうしたの?」
🗣️ ポイント:
子どもの行動や関心に「即時に」「具体的に」「感情も含めて」言葉をのせると、学習が深まります。
③ 拡張話法(子どもの発話をふくらませる)
拡張話法(Expansion)とは、子どもが言ったことに新しい語彙や情報を加えて返す会話技術です。
◆ 例
- 子:「わんわん!」
- 大人:「そうだね、かわいいわんわんが走ってるね!」
- 子:「ぶーぶー」
- 大人:「赤い車がブーブーって音を立ててるね。速いね!」
◆ 研究例(Girolametto et al., 1996)
- 言語発達がゆっくりな幼児に対して、拡張話法を多く取り入れた親は、
子どもの語彙数・文の長さ(MLU)ともに向上したと報告
🔍 ポイント:
子どもの発話を否定せず、「受け入れた上で、少し難しい表現にして返す」ことで、安心感と学習の両方を得られます。
④ 意味ネットワークを育てる語りかけ
語彙の定着には、単語同士の「意味的なつながり(意味ネットワーク)」を築くことが大切です。
◆ たとえば…
- 「りんご」と「バナナ」は同じ仲間(果物)
- 「大きい」と「小さい」は反対の意味
- 「泣く」と「悲しい」は因果関係がある
◆ なぜ大事なのか?
こうした意味的つながりは、長期記憶への定着を助けたり、新しい単語を推測する力を伸ばしたりします。
◆ 研究例(Beck & McKeown, 2002)
- 語彙教育では、単語の定義だけでなく、使い方・関連語・具体例を示すことで、
語彙の深さが増すことが報告されています
◆ 実際の関わり方
- 「これは果物だよ。果物って、バナナやみかんもあるね」
- 「泣いてるね。悲しいときや痛いときに涙が出るね」
- 「大きいね。昨日見たのよりも、ずっと大きいよ」
🌐 ポイント:
「これは◯◯。◯◯はね、□□ってことなんだよ」と、言葉に意味の広がりを持たせていくことが、語彙の“深さ”につながります。
🔚 まとめ:語彙支援の科学的アプローチ4選
方法 | 内容 | 科学的根拠・研究 |
---|---|---|
ブックシェアリング | 絵本を読みながら対話 | Whitehurst et al. (1988) |
ラベリング | 子どもの注目対象に名前づけ | Tomasello & Farrar (1986) |
拡張話法 | 子どもの発話をふくらませる | Girolametto et al. (1996) |
意味ネットワーク | 関連語や因果関係を語りかけに含める | Beck & McKeown (2002) |
参考文献
Whitehurst, G. J., et al. (1988). Accelerating language development through picture book reading. Developmental Psychology, 24(4), 552–559.
Tomasello, M., & Farrar, M. J. (1986). Joint attention and early language. Child Development, 57(6), 1454–1463.
Girolametto, L., et al. (1996). Facilitating language development in children with developmental delays: The role of responsive interaction strategies. Journal of Early Intervention, 20(3), 230–245.
Beck, I. L., & McKeown, M. G. (2002). Bringing words to life: Robust vocabulary instruction. Guilford Press.
今日からできる!家庭での語い支援のアイデア集

~科学的根拠に基づく、親子でできる“ことばの土台づくり”~
① 絵本の読み聞かせのコツ
─「ことばのシャワー」ではなく「ことばのキャッチボール」に
絵本の読み聞かせは、語いの発達を促す代表的な方法です。ただし、ただ読むだけではもったいない!
語彙の獲得や言語理解のためには「対話的な読み聞かせ(Dialogic Reading)」が効果的とされています。
◆ 科学的根拠
Whitehurst et al.(1988)の研究によると、対話的読み聞かせを取り入れたグループの子どもは、語い力・表現力が有意に向上しました。
以後、30年以上にわたり多くの研究がこの効果を支持しています(Mol et al., 2008のメタ分析など)。
◆ 読み方のポイント:「PEER」と「CROWD」法
- PEER(ピア)法:読み聞かせの基本フレーム
- P(Prompt):子どもに問いかける
- E(Evaluate):答えに反応する
- E(Expand):言葉を広げる
- R(Repeat):広げた表現をもう一度言う
- CROWD(クラウド)法:問いかけのタイプ
- C:Completion(文の穴埋め)「ワンワンが○○してるね」
- R:Recall(思い出し)「さっきのページ、何してた?」
- O:Open-ended(自由回答)「どう思った?」
- W:Wh- questions(5W1H)「どこで?なぜ?」
- D:Distancing(自分の経験とつなげる)「おばあちゃんちでもこういうことあったね」
◆ 絵本の選び方
年齢目安 | 特徴 | おすすめの絵本タイプ |
---|---|---|
1~2歳 | 音・リズム・繰り返しが楽しい | 擬音語の多い絵本(例:『だるまさんが』) |
2~3歳 | 短い文をまねして話したい | 日常生活の絵本(例:『おつきさまこんばんは』) |
3~5歳 | ストーリーの理解が進む | 少し長めの話・感情が描かれた絵本(例:『はじめてのおつかい』) |
② お散歩や買い物での語彙の広げ方
─「ラベルづけ」と「カテゴリー分け」のチャンス
外出は、ことばの宝庫です。
五感で体験したものを「ことば」と結びつける力が、語いの定着をうながします。
◆ どう関わる?
ポイント | 具体例 |
---|---|
ラベルづけ(名詞を教える) | 「あ、ハトがいるね」「これはアジサイっていうお花だよ」 |
分類の言語化(カテゴリー意識) | 「これはフルーツコーナーだね」「これは乗りものだね」 |
形容詞・動詞の導入 | 「お魚、ぴかぴかだね」「カートを押してるね」 |
比喩や比べる表現 | 「こっちの方が大きいね」「このにおい、パンみたいだね」 |
◆ 科学的根拠:
- 語彙は「カテゴリの中で言葉を整理する力」によって効率よく伸びる(Markman, 1989)
- 五感を通じた「体験と言葉の一致」が記憶を助ける(Glenberg & Robertson, 1999)
③ 日常生活のなかで自然に語いを増やすヒント
─ 家事・遊び・会話がすべて教材!
言葉は「特別な時間」ではなく、「ふつうの時間」でこそ伸びます。
特に家庭での親子の会話の質が、語い力に影響することが多くの研究で明らかにされています。
◆ 毎日の生活が“語いの教室”に変わる例
場面 | 語いを増やすポイント |
---|---|
ごはんづくり | 食材の名前、調理法、感触・においを一緒に言葉にする(例:「トマトはぷにぷにしてるね」) |
お風呂 | 体の部位、温度、比喩表現(例:「今日はぬるめのお湯だね」「おふろがポカポカして気持ちいいね」) |
お片づけ | 位置語・指示語を強調(例:「ぬいぐるみは棚の中に入れよう」「それ、あっちにしまおう」) |
おままごと | 役割語彙・感情語・会話形式の練習(例:「どうぞ召し上がれ」「こまったなあ…」) |
◆ 科学的根拠
- Hart & Risley(1995):「家庭内の語りかけの量と質が、語彙力に強く影響する」
→ 3歳までに聞く語の数が、その後の語い力・学力に関係することを報告 - Rowe(2012):「語りかけの質(種類・内容の多様さ)」が重要であり、単なる量よりも効果的
◆ 親が心がけたい3つのこと
- せかさず待つ(待つことで子どもの言葉が出る)
- 子どもの言葉を否定せず、広げて返す
例:「バナナ!」→「そうだね、黄色くて甘いバナナだね」 - 自分から話しかけすぎない、子どもの興味を追いかける
→「今この子が何を見てるか」「何を感じてるか」に共感して言葉を添える
🔚 まとめ:ことばは「暮らしの中」で育つ
実践方法 | キーワード | 科学的根拠 |
---|---|---|
絵本の読み聞かせ | 対話的・PEER法・CROWD法 | Whitehurst, Mol らによる有効性 |
お散歩・買い物 | ラベリング・五感と連動 | Markman(分類)、Glenberg(体験) |
日常のやりとり | 語りかけの質・待つ姿勢 | Hart & Risley、Rowe らの研究 |
☘️ ことばを伸ばすのは、特別な教材よりも、「日々の親子のやりとり」です。
お子さんが「ことばって楽しい!」と感じられるようなやりとりが、語いの芽をすくすく育ててくれます。
参考文献
Whitehurst, G. J., et al. (1988). Accelerating language development through picture book reading. Developmental Psychology, 24(4), 552–559.
Mol, S. E., Bus, A. G., de Jong, M. T., & Smeets, D. J. H. (2008). Added value of dialogic parent–child book readings: A meta-analysis. Early Education and Development, 19(1), 7–26.
Hart, B., & Risley, T. R. (1995). Meaningful differences in the everyday experience of young American children. Paul H Brookes Publishing.
Rowe, M. L. (2012). A longitudinal investigation of the role of quantity and quality of child-directed speech in vocabulary development. Child Development, 83(5), 1762–1774.
Markman, E. M. (1989). Categorization and naming in children: Problems of induction.
Glenberg, A. M., & Robertson, D. A. (1999). Indexical understanding of instructions. Discourse Processes, 28(1), 1–26.
まとめ

~「ことばの育ち」を支えるヒントを、科学的な視点からふりかえる~
📌 本記事のポイント振り返り
セクション | 内容 | 科学的根拠のある重要ポイント |
---|---|---|
1. 子どもの語いってなに? | 「語い」はことばの理解と表現の土台 | 幼児期の語い力が、読解・学力・人間関係の発達と深く関係(Biemiller, 2001) |
2. 語いの発達プロセス | 年齢ごとの語い獲得の流れ | 生後すぐからことばの音に反応し、2歳ごろ語い爆発(Fenson et al., 1994) |
3. なぜ語いが大切なの? | 学力・社会性・自己理解を支える | 幼児語い力は将来の学力・IQとも関連(Lee, 2011) |
4. 語いの遅れのサイン | 気になる兆しと対応の目安 | 3歳時点での語いの差はその後も継続しやすい(Rescorla, 2005) |
5. 支援の基本的な考え方 | 比較せず、その子のペースで関わる | 「量より質」重視の語りかけ(Rowe, 2012) |
6. 家庭でできる語い支援 | 絵本・お散歩・日常会話を活かす | 対話的読み聞かせが語い発達を促進(Whitehurst et al., 1988)、語りかけの質が語彙力を伸ばす(Hart & Risley, 1995) |
💡 なぜ「科学的な語い支援」が大切なの?
子どもは**「意味のあることば」との出会いを通して語いを育てていきます**。
特に幼児期の語いは、単なる「ことばの数」ではなく、「ことばを使って考える力」や「他者と関わる力」の基礎になります。
脳の発達においては、経験に基づく“神経ネットワーク”の形成が重要です。
ことばを聞いて、意味を理解し、誰かと共有する…その積み重ねが、前頭前野(考える力)や側頭葉(言語理解)の発達を促進します(Kuhl, 2004)。
ですから、単に「語いを増やす」ことを目標にするのではなく、ことばが“伝わる・つながる”喜びを一緒に味わうことが、最も科学的で、かつ温かい支援のかたちなのです。
最後に:親子のことばのやりとりこそ、最高の教育環境
親の声に耳を傾け、表情を読み、ことばをまねしながら育っていく子どもたち。
この何気ない日々のやりとりこそが、科学が支持する「ことばの発達支援」そのものです。
✔️ 専門家でなくても、だれでもできる支援がある。
✔️ ことばは、親子の“つながり”のなかで最も育つ。
✔️ 科学とぬくもりを両立させた支援が、子どもを伸ばす。
そんな思いが、この記事から読者のみなさまに届きますように。
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