2022年の2月、小児リハビリでもっともよくつかわれる代表的な小児用知能検査の新しいバージョンが発売されました。
「知能検査って結局、どんなことがわかるのかを解釈するが難しい」
一緒に仕事をする同僚たちからよく言われる言葉です。同じようにお母さんからも
「説明されれば分かるけど、もらった紙に書かれている言葉は難しくてわかりにくい」
確かに知能検査に入っている解釈のマニュアルは、専門家でも難解な言葉がズラリ並んでいます。それを読み解くためには、マニュアルだけでなく様々な知識を持っていなければなりません。
今回は、代表的な小児用知能検査のバージョン5(2022年現在でもっとも新しいバージョン)を中心に様々な論文を紐解きながら、知能検査がどのようなことを測定するのか、知能検査に必要な知識について解説していきたいと思います。
あくまでも、本記事は知能検査の理解をより深めるための一般論として作成しました。
新しい小児用知能検査の検査項目(問題の内容)については、検査結果に影響を及ぼす可能性を考え本記事では紹介および解説は致しません。
知能についての解説は、動画でも学ぶことができます!!
知能検査で測定される各指標の解説も動画で学ぶことができますので、詳しい内容は各指標の項目をチェックしてください!!
そもそも、知能とはどのようなものからできているのか
知能とはいったいなんでしょうか。
目的的に行動し、合理的に考え、そして自分の環境に効果的に対処するための孤児の総合的または全体的な能力
ウェクスラーはこのように定義しています。このウェクスラーさんは知能検査の開発者の一人です。
知能検査には、言葉の理解、視覚から情報を読み解くこと、推理力、記憶力、情報処理のスピードなど様々な能力の検査を行ったうえで、総合的に判断します。
知能というと、「頭がいい」とか「勉強ができる」という学習面に着目してしまいがちですが、それはあくまでも知能の一旦でしかありません。この文面からわかるように、いまおかれている自分の状況や環境に適切に対応するための問題解決能力、推理力、複雑な概念を理解する能力などなど、総合的な能力が知能ということです。
「流動性知能」と「結晶性知能」
チャールズ・スピアマンは、1904年に一般知能因子(もしくはg因子とも呼ばれる)という構想を提唱しました。そしてその後レイモンド・キャッテルにより、一般知能のそれぞれの因子として「流動性知能」と「結晶性知能」という用語を用いて提唱しました。
流動性知能
水が流れる如く。水はその時、その場の状況に応じて流れを変え、その形を変化させていきます。
その流動性をもった知能、それが「流動性知能」です。
過去の経験に頼らず、今起きていることや新しい状況、問題を解決するときに使う能力です。頭の回転のはやさと関連するといわれます。
この流動性知能は、訓練ゃ教育による発達というよりも、もともと生まれつき(生得的)の影響を強くうけます。青年期までは急速に上昇し、その後緩やかに衰退していきます。老年になるとかなり落ち込むと報告されています。
結晶性知能
結晶はいくつかの原子や分子などが、規則正しく配列している固体を意味します。
結晶構造は図のように、分子や原子などが規則正しく配列して物体をつくっています。この結晶構造と同じように知識や経験が蓄積していき出来上がる能力が、結晶性知能です。言葉や知識の豊かさと関連しています。
結晶性知能は生まれつきの物ではなく、これまでの文化的な環境や教育環境と結びついて発達していきます。
流動性が年齢とともに低下していくのに対し、結晶性知能は青年期以降、老年期であっても安定しています。
小児用知能検査 バージョンⅤ(ファイブ)
小児用知能検査 バージョンⅤでは、一般知能をもっともよくあらわしたFSIQ(いわゆるIQ)のほか、様々な能力を測定することができます。これをみると前述の通り、知能は様々な能力の総合力であることが分かります。
これらは主要な検査(検査については後述「下位検査」を参照)を実施することで測定できますが、細かい検査をおこなうことで、さらに次のような能力を測定することができます。
・量に関する理解力や推理力
・聴覚のワーキングメモリーの能力
・言葉を用いない視覚を使う一般知能
・ワーキングメモリーや処理速度の影響を受けない一般的な知的能力(一般知的能力:GAI)
・学習、問題解決、推理力などにおける情報処理の効率
これら能力が、同じ年代の子どもと比較してどの程度能力があるのかを調べたり、どの能力が得意なのか苦手なのかといった「強み」「弱み」を測定値より調べていきます。
ここからは検査を理解するための専門的な言葉の解説や検査数値の意味についてお話していきます。
検査結果によくみられる言葉の解説
「なんか専門用語ばかりで、この言葉が何を意味しているのか分からない…」
ここでは、検査の中で頻繁に用いられる言葉をピックアップして解説します。これを読むと、結果の見方がかわるかも。
下位検査
小児用知能検査のバージョンⅤは、16の検査で構成されています。この16の検査を「下位検査」と呼んでいます。
下位検査のうち、重要なIQや指標数値を出すために必要となる主要な下位検査は10(そのなかでIQを算出するために必要な検査は7)あります。
主要な検査以外の下位検査は、「二次下位検査」と呼ばれ、6あります。この二次下位検査は、主要下位検査が何らかの理由で行えないときの代替検査として用いるほか、より細かい子どもの様子をするために実施されます。
粗点と評価点
「粗点」とは下位検査を実施したときに得られるそのままの得点のことを意味します。
しかし、年齢によって問題にこたえられる程度が異なります。例えば、5才と10歳とでは、こたえられる問題の量や得られる「粗点」がちがうわけです。
この年齢によってばらつきがある「粗点」を、きちんと比較するためには年齢に関係なく均一にしなければなりません。そのために必要なのが基準となる点数が「評価点」です。
「評価点」は粗点と年齢をもとに、特別な表をつかって出すことができます。
つまり粗点が同じ点数であっても、年齢によって「評価点」がちがってくるわけです。
ちなみに、評価点の平均は10、標準偏差は±3です。
つまり、「10点」が同じ年齢集団のなかで平均的な結果であることをしめします。
合成得点
主要下位検査の評価点を合計し、特別な表をつかって出すのが合成得点です。合成得点には、FSIQ(つまりIQ)と指標得点があります。
この合成得点の平均は「100」です。つまり、100点が一番平均的な結果であることを示しています。
IQも、「100」が一番平均的な数値です。
パーセンタイル順位
集団のなかで、獲得した得点の下に何%の子どもがいるのかを示しています。
たとえば、パーセンタイル順位が「91」の場合、その子どもの下には91%の子どもたちがいるということです。逆に、パーセンタイル順位が「5」の場合は、その子どもの下には5%しかいないということになります。
信頼区間
検査で得られた点数や結果は、あくまで推定値です。つまり、ある程度測定のときの誤差を含んだうえで、結果として算出されています。
信頼区間は、子どもの本当の能力値を含む数値の幅を示しています。例えば、信頼区間が100-110という数値の幅だったとします。すると、その幅のどこかに本当の数値が存在しているということです。
信頼区間には90%と95%があります。90%、もしくは95%の確率でその幅の中に数値が存在しているということです。
通常の場合、90%の信頼区間が選択されますが、より厳密に値を出す必要がある場合は95%のほうが選択されます。
相当年齢
各下位検査の粗点が何歳に相当するのかを表したものです。その検査の結果が何歳程度かを示すものではありますが、当然ながら粗点のわずかな差によって年齢が変化してきます。
検査には測定するうえで誤差が生じますから、あくまでも相当年齢だけをみて判断するのではなく、その他の検査結果を合わせて解釈する必要があります。
したがって、この相当年齢で一喜一憂する必要は全くありません。参考程度にとどめておくのがよいでしょう。
有意差
有意差とは、統計的に意味のある「差」が認められることをいいます。つまり、偶然によって生まれた差ではなく、統計的に「高い」もしくは「低い」明らかな差が生まれているということです。
有意差を調べるには、統計的に調べられた有意水準という基準値を使用します。
小児用知能検査のバージョンⅣとバージョンⅤを比較すると、次のようなことがちがいます。
・バージョンⅣから13の下位検査が引き継がれたが、新たに3つの下位検査が開発され加わった。
・バージョンⅣにあった「語の推理」と「絵の完成」が削除された。
・各下位検査の実施方法や採点方法が見直された。
IQ以外の指標をみてみよう
知能検査でもっとも重要となるのが、知能指数(IQ)です。小児用検査のバージョンⅤ等では、10の検査から得られた得点をもとに、FSIQ(Full Scale IQ)という数値を算出します。このIQは知能をもっともよく表すことができる数値ですが、それ以外にも様々な指標があります。
この指標の数値を知ることで、より子どもの特性を理解することができるようになります。
聞く力、言葉の理解力を測定する
子どもが学習した言葉の知識に、脳の中でどのようにアクセスして応用するのかをみる指標です。
ことばの概念形成、ことばを使った推理力、ことばの表現力が求められます。
この能力が高い場合
単語の知識、頭の中での効率的な情報検索能力、言葉による問題を推理して解き明かす能力が発達しています。
この能力が低い場合
言葉や単語の知識が十分に発達していない、学習した情報を思い出すことが難しい、言葉で表現することが苦手、言葉による推理や問題解決が苦手となる傾向があります。
見る力、図形や空間を把握する力を測定する
目から得られた情報を使って、形や空間・奥行を把握したり、形の結びつきなど関係性を理解する能力をみる指標です。
視空間推理、部分と全体の統合と分解、視覚的な記憶力、視覚と運動(目と手の協調)の統合が求められます。
この能力が高い場合
目で見た情報を分析する力、見ている全体と部分的なことを結び付けたり、分解して理解する力、空間を把握する力、見た情報を記憶、推測する力、目と運動の協調性が発達しています。
この能力が低い場合
見て情報を選別する、情報を処理するのが苦手、視覚的な注意力が低い、目と運動の協調性が低い、見た情報から推理することが苦手となる傾向があります。
キューブ型パズルやタングラムなどのおもちゃをイメージするとわかりやすいです。
形を把握したり、それを組み合わせて形を結び付ける能力が、視空間の能力です。
新しい状況に合わせて考える力、応用力を測定する
目から得られた情報からその概念や関係性を探し出し、推理してその法則やルール、パターンを見つけ出して応用する能力を見る指標です。
帰納的推理(*1)、量的推理、視覚知能、同時処理(*2)、抽象的思考(カテゴリー分け)が求められます。
*1 帰納的推理 色々な情報から導き出される傾向やパターンをまとめて推理する。
*2 同時処理 全体から部分を考えたり、全体をとらえたうえで細部を分析する。視覚的な手がかりが優位。
この能力が高い場合
目で見た情報から必要な情報を抜き出して、カテゴリーに分けたり、知識と合わせて効果的に応用していく能力 物事の概念や量の概念なものの理解力が発達しています。
この能力が低い場合
見たものから重要な情報をピックアップすることが難しい、カテゴリー分けや知識と関連付けることが難しい、ものごとの概念や量の概念を理解するのが難しい、推理能力が低い傾向があります。
ミステリークイズや推理クイズ、IQクイズなどをイメージするとよいでしょう。
イラストをみてそこからパターンを見つけたり、推理したり、傾向をつかみとる能力が、流動性推理の能力です。
記憶力、ワーキングメモリを測定する
視覚や聴覚の情報を意識的に記憶し、その情報を整理したり利用したりする能力をみる指標です。
注意力や集中力、視覚と聴覚の弁別、言葉やイメージで記憶する能力、心の中で情報を操作したり、コントロールする能力が求められます。
この能力が高い場合
目で見たもの、あるいは聞いた情報を選別し、それを一時的に記憶しておく力、記憶した情報を問題解決に使う為に情報を整理する力が発達しています。
この能力が低い場合
見たもの、聞いたものの情報を一時的に記憶しておくことが苦手、記憶した情報を頭の中で整理するのが苦手、記憶の貯蔵量(メモリー)が少ない傾向があります。
思考の処理速度を測定する
子どもの視覚的な判断、意思の決定、実行の速度と正確さをみる指標です。
目で情報を探索する能力、見て覚える記憶力、目と運動の協調性、集中力が求められます。
この能力が高い場合
目から得た情報を素早く識別し、スピーディかつ正確に決定する、あるいは決定したことを素早く実行する能力が発達しています。
この能力が低い場合
見た情報を素早く選別できない、決定に時間が掛かる、運動機能に何らかの問題がある、物事を認識する能力が全般的に遅い傾向があります。
指標の数値を比較して強みと弱みを知る
知能検査によって様々な指標の数値を算出したら、全体の検査結果と各指標の数値を比較していきます。そうすることによって、子どもが持つ能力の強みや弱みの詳細を知ることができます。
特に専門家が検査結果や解釈をするときに重要な情報となります。
ここから先の解説は、ちょっと言葉が難しいです…。
言語理解と視空間の比較
言葉による情報の知的処理と目で見た情報の知的処理との比較です。
言語理解 > 視空間 | 言葉や言語を用いた問題解決能力に強みを示します。 |
言語理解 < 視空間 | 目からの視覚情報処理や視空間の情報を理解し応用する能力に強みを示します。 |
言語理解と流動性推理の比較
結晶性能力(「流動性知能」と「結晶性知能」の項目を参照)と、言葉や目からの情報を用いた推理力や流動性能力との比較です。
言語理解 = 流動性推理 | 流動性能力と結晶性能力が同等です。 |
言語理解 > 流動性推理 | 結晶性能力に強みを示します。(学習したこと、知識や言葉の豊かさに富む) |
言語理解 < 流動性推理 | 流動性能力に強みを示します。(新しい課題への対応力、解決能力に富む) |
視空間と流動性推理の比較
目で見た情報の処理や視空間の情報処理(図形や形の把握、頭の中での操作)と、目からの情報を用いた抽象的概念(カテゴリー分け)や推理力とを比較します。
視空間 = 流動性推理 | 視空間の情報処理と、目で見た情報からの推理力が同じレベル |
視空間 > 流動性推理 | 推理力よりも、目で見た情報や空間を認識する情報の処理能力に強みを示します。 (図形を頭のなかで操作したり、空間や形を把握する能力が強い) |
視空間 < 流動性推理 | 目で見た情報と抽象的な概念の関係を理解する能力に強みを示します。 (目で見た情報を使って、量の推測やカテゴリー、パターンを推理する能力が強い) |
言語理解、視空間、流動性推理 3つの比較
言語理解が3つの中で高い 視空間と流動性推理は同等 | 言語推理力に強みを示しますが、一方で問題解決に目で見た情報を使うことには弱みがあることが分かります。 |
言語理解が3つの中で低い 視空間と流動性推理は同等 | 目からの情報を使うことに強みがある一方で、言葉の機能、言葉を用いた問題解決能力、言葉による推理力に弱みがあることが分かります。 |
視空間が3つの中で高い 言語理解と流動性推理は同等 | 言葉や目からの情報をつかった概念理解や抽象的な思考力と比較して、目で見た情報や空間を認識する情報の処理能力に強みを示します。 (図形を頭のなかで操作したり、空間や形を把握する能力が強い) |
視空間が3つの中で低い 言語理解と流動性推理は同等 | 目で見た情報や空間を認識する情報の処理能力と比較して、言葉や目からの情報をつかった概念理解や抽象的な思考力に強みを示します。 |
流動性推理が3つの中で高い 言語理解と視空間は同等 | 視覚や空間の情報を用いたり、言葉を用いた推理力と比較して、目で見た情報からパターンを導き出したり、数量的な関係を理解する能力に強みを示します。 |
流動性推理が3つの中で低い 言語理解と視空間は同等 | 視覚や空間の情報を用いたり、言葉を用いた推理力と比較して、目で見た情報からパターンを導き出したり、数量的な関係を理解する能力に弱みを示します。 |
ワーキングメモリーと処理速度の比較
言葉や目で見た情報を一時的に記憶し、その情報を整理したり識別する能力と、素早い意思の決定や実行能力とを比較します。
ワーキングメモリー > 処理速度 | 情報を用いた意思の決定するスピードと比較して、情報を一時的に記憶しておく、操作する能力が強みを示します。 |
ワーキングメモリー < 処理速度 | 情報を一時的に記憶しておく、操作する能力と比較して、情報を使って素早く決定を行うことに強みを示します。 |
ワーキングメモリーと言語理解、視空間、流動性推理との比較
言葉の理解や推理、目からの情報処理、目からの情報を使った推理力などの能力を効率的に使う為には、ワーキングメモリ―が重要になります。
ワーキングメモリー > 言語理解、視空間、流動性推理 | 様々な問題を解決する能力よりも、情報を頭の中で整理したり、操作することに強みを示します。この場合は、言語理解、視空間、流動性推理の3つの検査成績に影響を与える要因は、ワーキングメモリーではないと考えられます。 |
ワーキングメモリー < 言語理解、視空間、流動性推理 | 3つの指標と比較して相対的にワーキングメモリーが低い場合、問題解決の能力には影響を及ぼしていない可能性があるととらえることが出来ます。 3つの指標がもともと高い値だと、それに比べてワーキングメモリーが低くなってしまうことがあるためです。 |
処理速度と言語理解、視空間、流動性推理との比較
言葉の理解や推理、目からの情報処理、目からの情報を使った推理力などの能力は、素早く考えて的確に決定する能力によってより力を発揮できます。
処理速度 > 言語理解、視空間、流動性推理 | 様々な問題を解決する能力よりも、素早い決定や実行する能力に強みを示します。この場合は、言語理解、視空間、流動性推理の3つの検査成績に影響を与える要因は、処理速度ではないと考えられます。 |
処理速度 < 言語理解、視空間、流動性推理 | 3つの指標と比較して相対的に処理速度が遅くても、様々な問題を解決できるととらえることができます。 |
さらに細かい検査の指標をみてみましょう
量に関する理解力や推理力
量的推理指標(QRI)は、数量の把握や関係性の理解をみます。国語算数などの学力や成績に影響する指標とされています。
値が高い | 算数、量の把握や関係性の理解が発達していることを意味します。 |
値が低い | 算数、量の把握や関係性の理解が不十分であると考えられますが、他にもワーキングメモリ―が弱いなど要因も考えられます。 |
聴覚のワーキングメモリーの能力
聴覚ワーキングメモリ―指標(AWMI)は、聴覚、つまり耳から聞いた情報を覚えるワーキングメモリ―の指標を数値化したものです。
値が高い | ことばや耳から聞いた情報を覚え、それを整理したり操作したりする能力が発達していることを示します。 |
値が低い | ことばや耳から聞いた情報を覚え、それを整理したり操作したりする能力が苦手なことを示します。 聴覚の障害、注意の障害、メモリーの低下など要因がいくつかあります。そのため、他の検査結果と合わせて解釈する必要があります。 |
言葉を用いない視覚を使う一般知能
非言語性能力指標(NVI)は、非言語性、つまり言葉をあまり必要としない知的な能力をみます。絵や図形の組み合わせやタングラムなどあまり言葉を必要としない知的活動が該当します。
値が高い | あまり言葉を使わない絵や図形の組み合わせなどの知的な活動が発達していると捉えることができます。 |
値が低い | あまり言葉を使わない絵や図形の組み合わせなどの知的な活動の苦手さを示します。 結果には知覚の障害、注意の障害、メモリーの低下など要因の影響を受けます。そのため、他の検査結果と合わせて解釈する必要があります。 |
ワーキングメモリーや処理速度の影響を受けない一般的な知的能力
一般知能能力指標(GAI)は、IQよりも、ワーキングメモリ―や処理スピードに頼らない知能の数値が得られます。
値が高い | 言葉や目で見た情報を基にした推理力、問題の解決能力、知覚の処理能力などの知能が発達しているとされます。 |
値が低い | 言葉や目で見た情報を基にした推理力、問題の解決能力、知覚の処理能力などの知能が不十分であるといえます。 |
学習、問題解決、推理力などにおける情報処理の効率
認知熟達度指標(CPI)は、問題の解決や学習など情報を効率よく処理できるかを数値化したものです。
値が高い | 効率よく情報処理が出来ています。 |
値が低い | 効率よく情報を処理することが苦手です。 知覚の障害、注意の障害、メモリーの低下など要因がいくつかあります。そのため、他の検査結果と合わせて解釈する必要があります。 |
FSIQと一般知能能力指標(GAI)の比較
ワーキングメモリーや処理速度などの影響をあまりうけない知能指標GAIと総合的な知能指数FSIQを比較すと、ワーキングメモリや処理速度が知能に与える影響を推測することができます。
一般知能能力 > FSIQ | 総合的な知能指数(IQ)の推定値が、ワーキングメモリーや処理速度を測る検査を含めることで低下していることから、ワーキングメモリーや処理速度を弱みとしてとらえることができます。 |
一般的知能 < FSIQ | ワーキングメモリーや処理速度が、子どもの総合的な知能を底上げしている、促進している強みとしてとらえることができます。 |
ワーキングメモリーと聴覚ワーキングメモリ―指標(AWMI)の比較
ワーキングメモリーについて、視覚が優位なのか聴覚が優位なのかを比べることができます。
ワーキングメモリー > 聴覚ワーキングメモリ― | 様々な情報を目でとらえる事、視覚情報として提示することでワーキングメモリーの機能をよくすることができます。 |
ワーキングメモリー < 聴覚ワーキングメモリー | 様々な情報をことばや聴覚から取り入れる、ことばで提示することによってワーキングメモリーの機能をよくすることができます。 |
プロセス得点と子どもの反応を観察する
小児用知能検査では、プロセス得点がある場合があります。
このプロセス得点は、下位検査の部分点のようなものです。
例えば、図形を完成させる課題があったとします。未完成のまま検査がおわれば通常の得点は0点になりますが、その課題がどの部分までできたのかをプロセス得点として表します。
このプロセス得点をみることで、運動機能面が検査に影響してる可能性や注意力・集中力を保つことが難しかった、意欲を保てたのか、失ってしまったのか等といった精神面の影響を推測することが出来ます。
また、課題に対する子ども自身の考え方の特徴、ワーキングメモリ―の影響、心の中で情報を操作する力、同時に複数の情報を処理できるかどうかについて、検査の他の情報と合わせて解釈する手助けとなります。
その他、子どもが検査中にどのような反応を示すのかを数値化したり、その様子をありまのままを言葉にして記録しています。こういった子供の様子が、検査結果にどのように影響しているのかを考えるうえで大変重要な情報となるからです。
検査結果を支援や生活に活用する
一番わかりやすい解釈「聴覚優位、視覚優位」
ことば(聴覚)が得意か、見ることが得意かを知ることで、指示や学習の方法が変わってきます。
ことばの理解や推理力が高い場合は、耳から聞いた情報の処理が得意なタイプで、聴覚が優位ととらえることができます。
ことばで指示を出す、声に出すなどの方法が理解しやすくなります。
視空間や流動性推理など形を判断したり、頭の中で操作したり、あるいは見た情報から推測するのが得意な場合は、見て情報を処理するのが得意なタイプで視覚優位ととらえることができます。
見て確認する、見たものを分析して自分のなかで解釈するなどの方法が理解しやすいと言えます。
ただし、聴覚が苦手であっても、それがどの部分で苦手なのかを知ることでより詳しい子どもの特性がわかります。
聴覚性の言語理解や語彙力(言葉を知っているか)がよわい
聴覚性のワーキングメモリが弱い
つまり、もともとの言葉の理解が弱いのか、それとも覚えることが苦手なのかによって対処方法が異なってくるというわけです。視覚についても同じことが推測できます。
細かい検査結果をいろいろな方向から解釈する必要があります。
ワーキングメモリ―の弱さが活動に影響を与えている
一度にたくさんの情報を頭のなかにとどめておいたり、あるいはそれを頭の中で整理して、使うといったことが苦手になります。
したがって、伝える、与える情報を小出しにして、ひとつずつ行動を終わらせていくことで、活動しやすくなります。
処理速度の弱さが活動に影響を与えている
入ってきた情報を処理し、決定、実行するのに時間を要する場合があります。本人の理解するスピード、あるいは決定し実行するペースに合わせて対応していくことと生活しやすくなります。
得意な項目を活用する
ことばが得意、図形や形を把握して考えるのが得意、見た情報からパターンを見つけたり、推理することが得意、など本人が得意とする特性を上手に活用することで、自信をもって成長することが出来ます。生活面や学習面でそういったポジティブな面を活かしつつ、サポートが必要な部分はしっかりサポートする。
そのひとつの手助けになるのが「知能検査」なのです。
小児用知能検査の疾患別 一覧
参考までに疾患別の検査の特徴を一覧でまとめました。すべての子どもにこれがあてはまるわけではありません。あくまで、傾向としてお捉えください。
まとめ
とても難しい言葉が並ぶ知能検査ですが、一方で、お母さんからはこんな声も聞かれます。
「いままで漠然と特性についてとらえていたものが、具体的にわかった。子どもの行動の理由が分かって、腑に落ちた」
検査結果からえられた子どもの解釈については、両親にとって子どもの行動や気になる特性を理解するためのひとつのツールとして非常に有益であることがわかります。
IQのような知能指数にどうしても着目してしまいますが、じつは子どもの特性や行動を理解する手助けになる、それが知能検査の本当の役割です。
この記事が皆様のお役にたてば幸いです。
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