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ASDの行動を変えるスイッチ? 脳の“リズム中枢”視床網様核の新たな役割

もっと知りたい小児の知識

■ はじめに

自閉スペクトラム症(ASD)は、社会的なコミュニケーションの難しさや反復行動、感覚の過敏さ、睡眠障害、てんかんなど、さまざまな特徴をもつ神経発達症です。
これまでの研究で、**「視床(thalamus)」と「大脳皮質(cortex)」をつなぐ神経回路(視床皮質回路)**の異常がASDの症状に関係することが示唆されてきました。

しかし、どの部分が、どのようにASDの行動や感覚異常に関わっているのかは、まだはっきりとは分かっていませんでした。

今回紹介する研究(Cntnap2遺伝子欠損マウスを用いた実験)は、視床の中にある**「網様体視床核(Reticular Thalamic Nucleus:RT)」**という領域に注目し、この部分の「過剰な興奮(ハイパーエキサイタビリティ)」がASDの中核的な症状を引き起こしている可能性を示しました。


■ 研究の背景:RTとは何か?

睡眠、覚醒、注意、感覚の処理などに関わっています。

RT(網様体視床核)は、脳の「ゲートキーパー」とも呼ばれる領域で、
感覚情報の流れを制御し、睡眠、覚醒、注意、感覚の処理などに関わっています。

RTの神経細胞(RTニューロン)は**抑制性(GABA作動性)**であり、視床皮質回路(Thalamo-Cortical circuit, TC回路)のバランスを調整する重要な役割を担っています。
このRTがうまく働かないと、感覚処理が乱れたり、脳のリズム(振動活動)が異常になったりすることが知られています。


■ 研究の方法

研究チームは、ASDモデルとしてよく使われる**Cntnap2遺伝子欠損マウス(Cntnap2−/−マウス)**を用いました。
この遺伝子は、神経細胞の発達やシナプス形成、イオンチャネルの配置に関わる「接着分子」をコードしており、ヒトでもこの遺伝子の変異がASDとの関連で報告されています。

このマウスのRTニューロンの活動を電気生理学的手法や光学的測定(ファイバーフォトメトリー)で観察し、行動との関連を調べました。
さらに、薬理学的(Z944投与)および遺伝学的(DREADD法)にRTの活動を抑制することで、行動の変化を評価しました。


■ 主な結果

1. RTニューロンが過剰に興奮していた

Cntnap2−/−マウスでは、RTニューロンの**バースト発火(burst firing)**が増加していました。
これは「短時間に連続的にスパイクを出す」興奮状態を意味し、脳のリズム異常の原因になるものです。

また、RT内での電気的振動(intrathalamic oscillation)も強くなっており、
これが過剰な運動活動(多動)や反復行動の増加社会的関心の低下といったASD様の行動異常と一致していました。


2. T型カルシウムチャネルの活動が過剰

電気的記録から、RTニューロンのT型カルシウムチャネル電流が増加していることが分かりました。
このチャネルは、RTのバースト発火を生み出す主要な要因であり、
「過剰なチャネル活性=過剰なRTの発火」と考えられます。


3. RTの活動を抑えると、行動が改善

研究では、2つの方法でRTの活動を抑えたところ、ASD様行動が改善しました。

  • 薬理的抑制:T型カルシウムチャネル遮断薬「Z944」を投与すると、社会的関心の低下や多動、反復行動が軽減。
  • 化学遺伝学的抑制:RTニューロンを特異的に抑制するDREADD技術でも、同様の行動改善が確認。

逆に、RTを活性化すると正常マウスでも社会性が低下し、反復行動が増えることが確認されました。
つまり、「RTの過剰興奮そのものがASD的な行動を引き起こす」ことが実験的に示されたのです。


■ 考察:RTの異常が示すこと

この研究から、RTの異常興奮が感覚処理・社会的行動・反復行動の異常と密接に関係していることがわかりました。

RTは、感覚入力を制御するだけでなく、感情や社会的認知にも関係する領域(前頭葉、扁桃体、側坐核など)ともつながっています。
そのため、RTが過剰に活動すると、
「感覚過敏」「注意の切り替えの難しさ」「反復的な行動」「社会的反応の低下」といったASDの中核症状が出やすくなると考えられます。

また、RTはパルブアルブミン(PV)を多く含む抑制性ニューロン集団でもあり、
PVニューロンの機能異常はASDの多くのモデルで共通して見られる現象です。
このことからも、RTはASDの「神経回路的ハブ」として非常に重要であるといえます。


■ 限界と今後の課題

この研究では、RT全体を1つの集団として扱いましたが、実際にはRTにも複数のサブタイプが存在します。
今後は、RT内の異なる細胞群(分子マーカーSpp1やEcel1などで区別される)ごとの特性を明らかにする必要があります。

また、T型カルシウム電流の増加がどのような分子経路を通じて起こるのか、
また発達段階でいつからRTの異常が出るのかなども未解明です。


■ まとめと未来への展望

この研究は、次のような重要な知見を明らかにしました。

  • ASDモデルマウスでは、**RTニューロンの過剰興奮(ハイパーエキサイタビリティ)**がみられる
  • それにより、視床回路のリズム異常が生じ、ASD様行動が出現する
  • RTの活動を薬で抑えると、行動が改善する

これらの結果は、RTの異常興奮がASDの神経回路異常の中核であることを示しています。
さらに、**T型カルシウムチャネルを標的にした薬(例:Z944)**が新たな治療の可能性を持つことも示唆されました。

今後の研究では、RTを中心とした脳内ネットワーク全体がどのようにASDの行動や感覚処理を形づくっているのかを解明し、
より**回路特異的・精密な治療法(precision medicine)**の実現が期待されます。


■ まとめの一言

ASDの中核にあるのは「社会性」や「感覚」だけではなく、
それらを支える脳のリズムとバランス
視床の小さな核「RT(網様体視床核)」が、そのカギを握っているかもしれません。

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