子どものリハビリって、いったいどんなことをしているんでしょう?
「ただ、遊んでいるだけ…にみえるけど」
「遊ぶだけで、療法士さん(セラピスト)はなにをしているの?」
一緒に遊ぶだけのセラピストですが、遊びながら頭の中では色々な情報を高速で考えています。
今回は、小児リハビリを見るときのポイントを こっそり おしえます
これから小児リハビリを見学する学生さん、セラピストはもちろん!お母さんも知っておくと目からうろこの「見学ポイント」です!
セラピストの声掛けや援助をみてみよう
セラピストがどのような声掛けをしているのか、耳を澄ましてみてください。
どんな声掛けをしている?
セラピストは言葉の発達や理解に応じて声掛けの内容を変化させています。
たとえば、言語発達が著しく遅れて「発声」しかでない子どもの場合。
セラピストは子どもが発した「発声」をそのまま言っていることがあります。これは「子どもと共感」するため、「子どもに他者を意識させる」ためです。
言葉が出る子どもの場合は、声掛けの内容を抽象的にするか、具体的にするかによって差をつけています。
「○○というおもちゃをとって」と具体的に言うのか、「あれとって」「くるまとって」とざっくりと抽象的に言うのかということです。
これによって、子どもの理解度を測ることができます。
さて、言語発達の程度に関わらず大切なことが3つあります。
- 子どもが体験している感情を一つあるいはそれ以上、ことばにする
「○○しているときはうれしそうだね」
「○○というきもちになったんだね」
いくつか考えられる感情を言葉にして子どもに伝えて、その反応を読み取っていきます。
子どもは感情の理解や概念が未熟であることが多いため、自分の気持ちに気がつくことが難しい場合があります。それをセラピストが代わりに代弁することで、感情の理解を深めていくのです。
- 大人がかってに名前をきめてはいけない
子どもは「おもちゃ」をなにかに例えて使っている場合があります。たとえば動物の人形を自分に置き換えているなどです。このとき「代名詞」をつかって声掛けします。
「それをもってきたんだ」とか「それが…」などです。こうすることによって、子どもの意図が反映されるように気を付けています。
- 行動を実況する
子どもがとっている行動にセラピストは興味をもっているんだよということを伝えます。
行動をできる限り子どもに分かる範囲で、自分の言葉に言い換え伝えています。
「○○をしているんだね」
「○○しているね」
行動を言葉にして子どもに返すことによって、今自分が何をしているのか理解を深めることにつながります。同時に、いまやっていること、つまり現実の世界に子どもたちをつなぎ留めておくことができるのです。
どんなタイミングで声掛けをしている?
指示が入った時と、入りにくい時ではどのような違いがありますか?
何かをやっているときは声掛けが伝わりにくいものです。
つい口を出したくなる、声掛けをしたくなる…。でも、子どもが遊びに夢中になっているときは声掛けしても入りません。
ちょっとまってみてください。一瞬、遊びが止まる瞬間があるはずです。遊びの一区切りがつう瞬間があるはずです。あるいは、遊びをやり終わるまで待つことがあります。
そのタイミングで声掛けをすると、指示がはいりやすくなります。
このテクニックは、家で声掛けするときにも使えます。
どんなタイミングで援助している?
セラピストはできるかできないかのギリギリのラインを狙って「難易度」を調整しています。
ここで大切なのが、いつ援助するのか?
上手のできないからと言って「1から10」まで援助してしまっては、子どもの有能感、自信を損なってしまうことになりかねません。
できる限り見守りながら、うまくできないことときは「上手にできない」という子どもの感情にまず寄り添います。
そしてここからがポイント!
「子どもが助けを求めるかどうか?」
これを見極めます。
あくまでも遊びの中心は子どもです。すぐに援助せずに、子どものアクションを見ながら、必要に応じて援助をしていきます。
でも、すべてではありません。工程の半分だけとか、手を添えるだけとか。できる限り、子ども自身が「できた!」と感じるような援助をしていくのです。
あまりにも手を出しすぎると、あそびの責任がセラピストにうつってしまいます。
つまり、うまくいかなかったとき「セラピストのせい」になってしまうのです。
子どもたちの行先に目を向けてみよう
プレイルームという空間で自由に遊ぶ子供たち。どんなことを観察したらよいのでしょう?
どんなあそびを好むのでしょう?
子どもはどんなあそびを好むのでしょうか。
トランポリンのようなダイナミックな遊び?
ボール入れ?
ビー玉のような手先の遊び?
カードゲーム?
子どもが自分で選択する遊びの中には「いまその子にとって必要なこと」が含まれていることが非常に多いと感じます。
セラピストはその子どもが選択したことを大切にします。
この子どもが選択することは「自主性を身に着ける」ことにつながります。
子どもが遊びたいように遊んでいい、遊び方を決めていいという「決定権」があることを学んでもらうのです。
セラピストはどこを向いているのでしょう?
セラピストは常に子どもに目線を置いています。必要があれば後を追いかけます。
これを「トラッキング」といいます。
「子どもの方向につま先と鼻先を向けること。」
トラッキングにはこのような態度や意識が大事と言われています。
あなたも子どもの動きを追いかけてみて!
どのような態度で接しているのか? 声の大きさは?
指示を出す時などは、あまり大きな声を出す必要はありません。
むしろ「小さい声」のほうが、集中力が高まる場合があります。
この小声のテクニック、お家でも使えますよ!
セラピストの態度は、そのセラピストの個性がでる部分です。私の場合は、わりと感情の起伏が少ないフラットな対応をとっていることが多いです。
それは、子どもが自分の感情や思いを出しやすくするためです。そして「制限」をかけるときにも有効だからです。
制限は遊ぶ場所や時間など、ルールを守ることです。
そのための指示を出す時に、「一貫した態度」で伝える事、「落ち着いて」伝えることが重要になってきます。
慌てふためいて指示を出すと、それによって子どもの不安や不信感を招きかねません。
いつも比較的フラットで接しながら、楽しいときはそれに共感できるような反応をする、好ましくない行動には一貫して反応しないといった態度の工夫や差をつけることができるのです。
子どもに対する声掛けはすべて意図して行っているといっても過言ではありません。
セラピストと子どもが触れ合う瞬間をみてみよう
基本的にはむやみやたらに子どもたちに触ることはしません。
必要がある場合にのみ、子どもたちに触れます。
どんなとき子どもにふれているのでしょうか?
走り回ってしまう子どもがいたら、どうしますか?
そのときに落ち着かないお子さんには、全身をホールドして圧覚や固有感覚を意図的に入れますと、すこし落ち着きます。
手元の操作をするときはどうでしょうか?手元に注目してほしいときは、少し圧迫の刺激を加えたりします。
幼児が靴を履くときに、セラピストはそっと膝の上にのせたり、抱きかかえたりします。
靴を座ってはくときに、後方に姿勢が崩れるのを防ぐためです。体幹を支えてあげることで、靴が履きやすくなったり、そのときの手元に注意を向けやすくさせる効果があります。
子どもにとって、セラピストも外部刺激のひとつです。触り方によって子どもの反応や行動も変化していきます。
だから!!やみくもにさわることはできないのです。
どのような方法でふれているのでしょうか?
この場合の方法とは、「強さ」と「見ているかどうか」です。
たとえば、感覚が過敏の子どもに対して「そーっと」さわったらどうでしょう。
くすぐったい感じがしてしまい、触られることを嫌がってしまいます。こんな時は、ちょっと強めの刺激を入れることで、くすぐったい感じを減らすことができます。
感覚が鈍い子どもの場合はどうでしょう?
やはり、すこし強めの感覚のほうが気がつきやすくなります。
そーっとさわるときはないのか?
そんなことはありません。
どんな強さなら反応がでるのか?これを知るために刺激に強弱をつけます。
もう一つの方法「見ているかどうか」
子どもの目の前で触るのか、それとも見ていないときに触るのか
これも意図的に使い分けています。
目で見てほしいとき、より注意を向けてほしいときは、目の前でさわります。
逆に気がついているか確認したり、違和感に気がつけるかどうか感覚を確かめたりするときは、見えないところで触るのです。
子どもと触れ合うときの立ち位置は?
たとえば、トランポリンを飛ぶときに、子どもの前方にいるのか、後方にいるのかで目的や意図が異なります。
あくまで一例ですが、前方にいる場合は、一緒に飛ぶ相手を見るとか意識する、声掛けをしっかりと聞いてほしいときにつかいます。後方にいる場合は、体幹などの力が弱く姿勢が崩れやすいお子さんに使います。セラピストの体を壁のようにつかって、おこさんの不安定な姿勢をささえています。そうすると、安定感が増し、こわがらずにトランポリンを楽しむことができるようになります。
子どもの視界に刺激となる物や人がいる場合は、セラピストは立ち位置を変えます。自分の体を遮蔽物として利用するのです。
道具の準備と片付けに着目してみよう
小児リハビリでは、子どもに与える情報をセラピストが整理している場合があります。
たとえば、ビー玉を容器に入れるという指先の遊びをするとき、お子さんのなかにはたくさんビー玉をとってばらまくという本来意図している遊び方ではない遊びをする場合があります。そんなとき、わたしはビー玉のすべてを制服のポケットにぶちこみます。そして、一つずつポケットから出して、子どもに手渡していくのです。
たくさんあると、それが刺激となって異なる遊びにつながってしまいます。やってほしいことはビー玉を入れることです。必要なビー玉の数は、一つです。だから、目に見えるビー玉の数を減らして情報をセーブするわけです。
似たような例はほかにもあります。
次から次におもちゃを出してしまうお子さんがいます。本当に遊びたいものが何なのかわからなくなってしまいます。やはり、目から入るたくさんのおもちゃが刺激となっている場合がありますので、事前準備として布などでおもちゃを見えなくしておきます。
もし、たくさん出してしまった場合は、一緒に片づけるか、必要なものだけだしてこっそり机の下や棚の中にしまいます。
必要な時に、必要な分だけ、子どもに提供する。これはご家庭でも応用できますね。布で見えなくしておく、棚の中にしまうといった工夫はすぐにでも出来ます。
ちなみに、私のポケットはコイン、ビー玉、鉛筆、けしごむ、おはじき、おままごとのやさい、クレープ屋ごっこの具材、いろいろ突っ込んで4次元ポケット状態。
子どもと関わるうえでの心得
子どもと関わりながら理解をふかめていくには、ただ目で見るのではなく心や魂で感じ取る ということが大切です。
心や魂を英語にすると「SOUL」
これって、精神論の話ではないのです!
S:サイレント(Silent)
「あれして」「これして」とこちらのペースで動かしたくなります。でも、まずは「静かに」子どもの行動や動きをみてください。
O:観察する(Observation)
静かに子どもの行動や表情、ことば、目線の先、細やかな部分を観察しましょう。
遊びながら生まれる感情も推測することができます。
U:理解する(Understand)
大人が意図しないような遊び(物をばらまく、スイッチを入れたり切ったり繰り返す)をするときがあります。「そんなことしたらダメ!」とは思わずに、そうしたいんだと子どもの視点に立って理解してあげましょう。
L:聴く(Listening)
ただ耳で聞くのではありません。ことばだけでなく態度や表情も含めて、子どもが言いたいことはなんなのかを全身で聴くことが大切です。
SOULは子どもと関わるうえでの心得であり、テクニックです。
まとめ
セラピストは子どもにとって「一つの刺激」として存在しています。この刺激はセラピスト自身が意図的に与えたり、目的を自由に持たせることができるツールです。
小児リハビリを見るときは、セラピストの様子にも注目してみてください。
そこには、子どもと接するためのヒントが、数多く隠されているはずです!!
コメント