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ADHDの“スーパーパワー”とは? 余分な神経接続と脳の仕組み

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「どうしてうちの子は、集中すべきときに集中できず、逆にゲームや好きなことには夢中になりすぎるんだろう?」

ADHDを持つ子どもと一緒に過ごす親御さんなら、一度はこんな疑問を抱いたことがあるかもしれません。学校の授業や宿題では気が散ってしまうのに、好きなことには驚くほどの集中力を発揮する。まるで「ON」と「OFF」のスイッチが極端に働いているように見えます。

実は、この現象には脳の「神経接続の多さ」が関係している可能性があることが、最近の研究で明らかになってきました。特に、ADHDの子どもの脳では、学習や運動、報酬に関わる脳の深部構造と、注意や行動をコントロールする前頭皮質との間に、通常よりも多くの神経接続が見られるのです。

では、この「つながりすぎた脳」は、ADHDの特性とどのように関係しているのでしょうか? そして、この脳の仕組みは、ADHDのデメリットだけでなく、特別な才能を生み出す可能性も秘めているのでしょうか?

この記事では、最新の研究をもとに、ADHDの脳の特徴をわかりやすく解説していきます。

ADHDの脳における「皮質下-皮質ループ」の役割とは?

*ADHD(注意欠如・多動症)**の脳の特性について、多くの研究が行われています。その中でも、Luke J. Norman博士らの研究(2024)は、ADHDの子どもや青年の脳における「皮質下-皮質ループ」の異常な結びつきを明らかにしました

**ADHD(注意欠如・多動症)**の脳の特性について、多くの研究が行われています。その中でも、Luke J. Norman博士らの研究(2024)は、ADHDの子どもや青年の脳における「皮質下-皮質ループ」の異常な結びつきを明らかにしました【1】。

この研究では、ADHDの脳では脳の深部構造(皮質下領域)と前頭皮質との間の結合が通常よりも強いことが確認されました。


皮質下-皮質ループとは?

脳の「皮質下(ひしつか)」と「皮質(ひしつ)」をつなぐ神経ネットワークのことで、情報の伝達をスムーズにし、注意・感情・運動の制御を助ける役割を持ちます。

🔹 皮質下(脳の深部構造)
 脳の深い部分にある「皮質下」の構造は、意識的に感じることは少ないけれど、私たちの身体の基本的な動きや感覚を司る重要な役割を持っています。皮質下にはいくつかの重要な部分がありますが、代表的なものを紹介します

  • 尾状核(びじょうかく):学習や習慣形成に関与
  • 被蓋核(ひがいかく):報酬処理や動機づけに関与
  • 側坐核(そくざかく):快楽や報酬系に関与(モチベーションを左右する)

🔹 皮質(脳の表面の領域)
脳の表面は、いわゆる「大脳皮質」と呼ばれる部分で、ここには思考、感情、言語、記憶などを司る領域が広がっています。

  • 上側頭回(じょうそくとうかい):音声・言語処理に関与
  • 島皮質(とうひしつ):感情や身体感覚の統合に関与
  • 下頭頂小葉(かとうちょうしょうよう):注意の切り替えに関与
  • 下前頭回(かぜんとうかい):衝動抑制に関与

ADHDの脳では、これらの深部構造と前頭皮質の結びつきが通常よりも強まっていることが、脳画像解析によって明らかになりました【1】。


ADHDの脳では「刈り込み」が少なすぎる?

発達中の脳では、「神経の刈り込み(シナプス・プルーニング)」という重要なプロセスが起こります。
これは、不要な神経接続を削減し、効率的なネットワークを作るための仕組みです。

発達中の脳では、「神経の刈り込み(シナプス・プルーニング)」という重要なプロセスが起こります。
これは、不要な神経接続を削減し、効率的なネットワークを作るための仕組みです。

🔹 正常な発達では…

  • 幼児期から思春期にかけて、脳は一度大量の神経接続(シナプス)を作る。
  • その後、不要な接続を刈り込み、必要な回路を強化することで、脳の働きを最適化する。
  • こうして、無駄なく効率的な情報処理が可能になる。

🔹 しかし、ADHDの脳では…

  • シナプスの刈り込みが少なすぎるため、余分な神経接続が残ってしまう。
  • その結果、情報が過剰に流れ込み、脳の働きが最適化されにくい状態になる。

これは、自閉スペクトラム症(ASD)などの神経発達症でも確認されており、発達障害の共通した脳の特徴のひとつである可能性があります【1】。


ADHDと皮質下-皮質ループの異常なつながり

脳の深部構造と前頭皮質の結びつきが増加していることには、いくつかの可能性があります。

1. 過剰な情報の流れ → 注意のコントロールが困難に
本来なら、必要な情報だけを選んで処理するべきところ、余分な神経接続が増えてしまい、情報のフィルターがうまく働かない可能性があります。その結果…
✔ 注意が散漫になりやすい
✔ 必要のない刺激にも反応しやすい

2. 衝動を抑える回路の不具合 → 衝動的な行動をとりやすい
衝動を抑える役割を持つ下前頭回との結びつきが強まることで、かえって不適切なタイミングで反応してしまうことがあります。そのため…
✔ 待つのが苦手
✔ 思いついたことをすぐに行動に移してしまう

3. 報酬系の過活動 → モチベーションの偏り
ADHDの人は報酬に対する感受性が強く、側坐核や被蓋核の働きが強まりすぎることで、楽しいことには夢中になる一方、興味のないことには極端に集中しづらくなります。その結果…
✔ 楽しいこと(ゲームなど)は何時間でも続けられる
✔ 退屈なこと(勉強や片付け)は手につかない


過集中と脳の連結性の向上

ADHDの「スーパーパワー」とも呼ばれる強みもあります。そのひとつが「過集中」です。

ADHDの子どもたちとの生活や子育てには多くの困難が伴いますが、ADHDの「スーパーパワー」とも呼ばれる強みもあります。そのひとつが「過集中」です。

ADHDの人は、自分が面白いと思うことには異常なほど集中する傾向があります。
これは「過集中(ハイパーフォーカス)」と呼ばれ、脳の結びつきが強まることと関係している可能性があります。

🔹 過集中のメリット
興味のあることには驚異的な集中力を発揮する
長時間、疲れを感じずに作業に没頭できる
科学・芸術・医学などの分野で大きな成果を上げる可能性がある

しかし、興味のないことには極端に集中しづらいという特性もあるため、日常生活では「やるべきことが後回しになる」こともあります。このバランスをうまく取ることが、ADHDの人の強みを活かすポイントになります。


まとめ

ADHDの脳では、皮質下-皮質ループの神経結合が通常よりも強まっている
シナプスの刈り込みが少ないため、余分な神経接続が多く残る
情報が過剰に流れ込み、注意のコントロールが難しくなる
報酬系が過活動になり、興味のあることには没頭し、興味のないことには集中できない
過集中という強みがあり、特定の分野で優れた能力を発揮できる


参考文献

【1】 Norman, L. J., Sudre, G., Price, J., & Shaw, P. (2024). Subcortico-Cortical Dysconnectivity in ADHD: A Voxel-Wise Mega-Analysis Across Multiple Cohorts. American Journal of Psychiatry, 181(6).

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