臨床の現場で、愛着に課題をもつ子どもたちに関わっていると、
- いくら褒めても反応が薄い
- 動機づけが極端に低い
- 不安・恐怖が強く、些細な刺激で固まる
といった姿に出会うことがあります。
こうした反応は、
「性格」「甘え」「反抗」では説明がつきません。
近年の脳画像研究は、
不適切な養育(チャイルド・マルトリートメント)に起因する愛着障害では、
脳の発達そのものに特徴的な変化が生じている
ことを示しています。
本記事では、国内研究を中心に、
反応性愛着障害(RAD)をもつ子どもの脳科学的知見を整理し、
臨床支援にどう結びつけるべきかを考えます。
1.「不適切な養育(マルトリートメント)」という視点

現在、欧米を中心に用いられている
チャイルド・マルトリートメントという概念は、
- 身体的・性的虐待
- ネグレクト
- 心理的虐待
を包括し、
「意図の有無」ではなく「子どもにとって有害かどうか」で判断されます。
重要なのは、
👉 明らかな外傷や精神疾患がなくても
👉 発達途上の脳に慢性的ストレスがかかれば
👉 神経回路形成に影響を及ぼしうる
という点です。
2.愛着障害と報酬系機能異常― なぜ「褒め」が効きにくいのか ―

■ fMRI研究が示した特徴
友田らの研究では、
RAD児・ADHD児・定型発達児の3群を対象に、
金銭報酬課題を用いたfMRI研究が行われました。
結果は非常に示唆的です。
- 定型発達児
→ 高報酬・低報酬いずれにも反応 - ADHD児
→ 高報酬には反応、低報酬には反応しにくい - RAD児
→ 高報酬・低報酬いずれにも反応しない
RAD児では、
報酬系の中核である腹側線条体の賦活低下が認められました。
■ 感受性期という重要な視点
さらに重要なのは、
報酬系機能低下には感受性期が存在するという点です。
解析の結果、
👉 1歳前後までに受けたマルトリートメントが
👉 腹側線条体の機能低下に最も強く影響していました。
これは、
- 「褒めれば伸びる」が成り立たない背景
- 動機づけが生理的に立ち上がりにくい状態
を説明する重要なエビデンスです。
3.視覚野の灰白質容積減少― 不安・恐怖が強い理由 ―

RAD児を対象とした別のMRI研究では、
左一次視覚野(BA17)の灰白質容積が約20%減少していることが報告されています愛着障害と脳。
この容積減少は、
- 過度の不安
- 恐怖反応
- 心身症状・抑うつ
と有意に関連していました。
視覚野は単なる「見る」中枢ではなく、
視覚的情動処理に深く関与します。
幼少期に
- 視覚刺激が乏しい
- 表情・まなざしによる情動的フィードバックが少ない
といった環境に置かれると、
活動依存的な神経回路形成が阻害される可能性が示唆されます。
4.発達障害との「見た目の類似」に注意する

愛着障害の子どもは、
- 多動
- 衝動性
- 対人不安
- 感情調整困難
など、
一見すると発達障害と重なる特徴を示すことがあります。
しかし、
RADでは
👉 報酬系・感覚処理系の発達障害が背景にある
👉 ADHDとは神経基盤が異なる
という点が重要です。
この違いを見誤ると、
- 支援が行動修正に偏る
- 関係性・安全性への介入が不足する
というリスクが生じます。
5.脳は変わらないのか?― 可塑性という希望 ―

本論文で繰り返し強調されているのが、
脳の可塑性です。
- 認知行動療法による前頭前野容積の増加
- 養育環境改善によるストレス耐性の回復(動物研究)
など、
経験によって脳が再構築されうることが示されています。
つまり、
愛着障害は
👉 「治らない脳の傷」ではなく
👉 「環境と関係性によって変化しうる発達の偏り」
として捉える必要があります。
6.専門職に求められる支援の視点
脳科学的知見から導かれる支援の前提は明確です。
- 安心・安全な環境の確保
- 心理教育による「理解可能性」の回復
- トラウマを安全に扱う関係性
- 子どもだけでなく養育者支援を含めた介入
愛着障害は、
子どもだけの問題ではなく、関係と環境の問題です。
まとめ 愛着障害を「脳×関係性」で捉える
本稿で示した脳科学的知見は、
愛着障害を
- 道徳的問題
- 養育者の善悪
- 子どもの性格
として扱う危険性に、
はっきりとブレーキをかけるものです。
専門職に求められるのは、
「なぜこの反応が起きているのか」を脳発達の文脈で理解し、
関係性を再構築する支援を設計すること。
それこそが、
愛着理論と脳科学が交差する地点だといえるでしょう


コメント