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知的発達障害(知的障害)のきほんのき 知的能力と適応行動3つの領域

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知的発達障害のきほん

知的障害は、明確に平均以下の知的な能力を持つとされていますが、その定義は様々あります。
今回は知的発達障害の原因やリハビリテーション、そして知的発達障害に対する定義や診断基準についてみていきましょう。

原因

 脳の成長と発達が何らかの原因によって障害をうけますが、その具体的な原因を特定できないこともあります。遺伝子疾患や染色体異常、難病、低栄養、低酸素状態、脳炎、脳しゅよう、事故による頭部外傷などで知的発達障害は見られます。 

知的障害とリハビリテーション

 環境の設定や工夫によって、行動のスキルが変化することがあり、のちに述べる文部科学省の定義でも言われています。この環境の工夫には次のようなことがあげられます。

・集中できるように、周囲の刺激をシャットダウンする
・1つずつ、わかりやすく伝える
・具体的にやって見せる、お手本を提示する
・繰り返し反復して、ゆっくりと学習していく
・本人が処理できる程度の課題を設定する
・言葉(口頭)ではなく、絵や図、文字などを活用する

遊びを通じて基本的な体の使い方やコミュニケーションの土台をつくる

 体の使い方や自分の体と外部環境をきちんと把握できないと、具体的な行動のスキルの学習がスムーズにいかないことがあります。また、人を意識する、人とのやり取りなどのコミュニケーションの土台を作ることが重要です。
 この土台がないと、この後のスキルの学習に時間を要する場合も出てきます。

適応行動3つの領域

 基本的な自分の体、環境を把握する能力、そして人とのやり取りを土台として、が提唱する適応行動の3つの領域スキルを必要に応じてリハビリしていきます。
 おもに日常生活(身辺処理、セルフケア)やルールを守ることなど中心に行いながら、年齢やライフステージの変化によって、就労に必要なスキルの獲得なども行います。
 また、安全を確保するという意味では、とくに女子の場合身だしなみのトレーニングも重要なポイントです

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環境の設定と繰り返しの練習によって、知的障害の程度によってはある程度のスキルを身に着けることが可能となります。

適応行動3つの領域

 知的発達障害は、知能検査による知的能力の低さ、もしくは適応能力の低さによって、言葉や学習への困難さ、日常生活(セルフケア)や就労についてもサポートが必要になることがあります。
 いわゆる知能指数(IQ)だけでなく、適応行動の程度も診断の基準に含まれていることが特徴といえます。この適応行動は、3つの領域に分類されています。

概念的スキル

 言葉の理解、表出、読み書き、金銭管理、自己管理などがあげられます。

社会的スキル

対人関係、責任、自尊心、生活習慣を守る、社会的なルールを守ること、そしてだまされないことや被害に会うことを避けるなどがあげられます。

実用的スキル

食事や排せつ、更衣などの日常生活動作、食事の準備や家事、服薬、電話などの生活関連動作(IADL)、職業のスキル、安全を保つこと(事故にあわない、危険なことを避ける)などがあげられます。

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あとで述べる定義や診断基準においても、従来のIQによる区分けだけでなく、こういったスキルがどの程度できるのかを見ることが重要となります。

ICD-11による知的発達障害の定義と診断基準

ICDとは、WHOが定める国際疾病分類で、現在ICD-11(ver.2021.5)です。
この国際疾病分類の定義や病名によって、日本における診断名も変更することがあります。

ICD-11の中で知的障害は、「知的発達障害」と表記されるようになりました。

知的発達障害の定義

 知的発達障害は、発達期に発症する病因的に多様な疾患群であり、適切に規範化された個別に実施される標準化されたテストに基づいて、平均よりも約2以上の標準偏差(約2.3パーセンタイル未満)の著しく低い知的機能および適応行動を特徴とします。

 適切に規格化された標準テストが利用できない場合、知的発達障害の診断には、同等の行動指標の適切な評価に基づく臨床的判断がより重要となります。

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標準化されたテストの平均よりも2以上の標準偏差という意味は、IQでいうとおよそ70程度です。

ICD-11における診断の基準

軽度の知的発達障害

 発達期に発症し、適切に基準化された個別の標準化されたテスト、または標準化されたテストが利用できない場合は同等の行動指標に基づいて、平均よりも約2~3標準偏差(約0.1~2.3パーセンタイル)低い知的機能および適応行動を特徴とする状態をいいます。
 患児は、複雑な言語概念や学業上のスキルの習得や理解に困難を示すことが多いですが、ほとんどの人は、基本的なセルフケア、家事、および実用的な活動を習得しています。
 軽度の知的発達障害のある方は、一般的に成人しても比較的自立した生活や就労が可能ですが、適切な支援を必要とする場合があります。

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平均よりも約2~3標準偏差(約0.1~2.3パーセンタイル)低いとは、IQおよそ50~70程度を意味しています。

中等度の知的発達障害

発達期に発症し、適切に基準化され、個別に実施された標準化されたテスト、または標準化されたテストが利用できない場合には同等の行動指標に基づいて、平均よりも約3~4標準偏差(約0.003~0.1パーセンタイル)低い知的機能および適応行動を特徴とする状態をいいます。
 中等度の知的発達障害のある人の言語および学業能力の習得状況は様々ですが、一般的には基本的な技能に限られます。一部の者は、基本的なセルフケア、家事、および実用的な活動を習得することができます。ほとんどの障害者は、成人として自立した生活と就労を実現するために、相当かつ一貫した支援を必要とします。

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平均よりも約3~4標準偏差(約0.003~0.1パーセンタイル)とは、IQがおよそ35から49程度を意味します。

重度の知的発達障害

発達期に発症し、適切に基準化された個別の標準化されたテスト、または標準化されたテストが利用できない場合は同等の行動指標に基づいて、知的機能および適応行動が平均値よりも約4以上低い(約0.003パーセンタイル未満)ことを特徴とする状態をいいます。
 患児は、言語能力や学業能力が非常に限られています。また、運動機能にも障害があり、適切なケアのためには、監督された環境での日常的なサポートを必要としますが、集中的な訓練により基本的なセルフケアスキルを習得することができます。
 重度・重度の知的発達障害は、既存の標準化された知能検査では、知的機能が0.003パーセンタイル以下の人を確実かつ有効に区別することができないため、もっぱら適応行動の違いに基づいて区別されます。

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知的機能および適応行動が平均値よりも約4以上低い(約0.003パーセンタイル未満) とは、IQおよそ34以下を指します。

深刻な知的発達障害

 発達期に発症し、適切に規範化された標準的なテストを個別に実施した結果、または標準的なテストが利用できない場合は同等の行動指標に基づいて、知的機能および適応行動が平均よりも約4以上低い(約0.003パーセンタイル以下)ことを特徴とする状態です。
 患児のコミュニケーション能力は非常に限られており、アカデミックスキル(学問をするための技術)の習得は基本的な具体的スキルに限られます。また、運動障害や感覚障害を併発している場合もあり、適切なケアのためには監督された環境での日常的なサポートが必要となります。
 重度・重度の知的発達障害は、既存の標準化された知能検査では、知的機能が0.003パーセンタイル以下の人を確実かつ有効に区別することができないため、適応行動の違いにのみ基づいて区別されます。

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重度と深刻な知的障害の区分けについて、知能検査だけでは判別できないため、行動の違いによって区別をすることとしています。

アメリカ知的・発達障害学会(AAIDD)の定義

アメリカ知的・発達障害学会(AAIDD)は、1876年に設立されたアメリカ精神遅滞学会を前身とした学術団体です。この学会では、次のように定義されています。

知的発達障害(知的障害)は、知的機能及び適応行動(概念的、社会的及び実用的な適応スキルで表される)の双方の明らかな制約によって特徴づけられる能力障害です。この能力障害は、18 歳までに生じます。

文部科学省の定義

知的発達障害(知的障害)について、次のように定義しています。

知的障害とは、一般に、同年齢の子供と比べて、「認知や言語などにかかわる知的機能」の発達に遅れが認められ、「他人との意思の交換、日常生活や社会生活、安全、仕事、余暇利用などについての適応能力」も不十分であり、特別な支援や配慮が必要な状態とされています。また、その状態は、環境的・社会的条件で変わり得る可能性があると言われています。

 知的発達障害については、様々な定義があります。ポイントとなるのは、知的能力の遅れだけでなく、低下と社会参加を含む、行動スキルの獲得について強調して言及されていることから、特に支援者、ご家族にとっても、この適応行動スキルが重要となるでしょう。

まとめ

 アメリカでは、IQによる区分けだけでなく行動やスキルの程度も重要なポイントであることがわかります。知的発達障害があっても、適切な環境の設定やその子に合わせたスキルのトレーニングによって、学習することもできます。

たった一人のお子さんとその家族を支えるために、様々な人の協力と理解が重要です。

引用文献
・河野政樹:発達障害コミュニケーション 初級指導者テキスト.一般社団法人日本医療福祉教育コミュニケーション協会.2016
・WHO.ICD-11
https://icd.who.int/en
・文部科学省:(3)知的障害
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/mext_00803.html
・神山努:American Association on Intellectual and Developmental Disabilities 2016 年次総会参加の報告. 国立特別支援教育総合研究所ジャーナル, 6, 50-54.2017
・American Association on Mental Retardation 2002 Mental retardation: definition, classification,and systems of supports, 10th ed. own.(栗田広, 渡辺勧持共訳 2004 精神遅滞-定義,分類および支援体制,第 10 版. 日本知的障害福祉連盟.)
・田巻義孝他:知的障害の理解についての新しい方向性(2):アメリカ知的発達障害学会の定義に基づいて.Shinshu University Journal of Educational Research and Practice,No.12,pp.213-235,2018
・太田 麻美子他:知的障害児・者の心理・生理・病理的変化測定ツール開発のための構成概念の検討―診断基準の変化と適応行動概念の定義の観点から―.Total Rehabilitation Research, VOL.7 83-94.2019

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