もっと知りたい小児の知識リハビリ専門解説!

漢字が書けない子への支援ガイド:家庭と学校でできる工夫とは?

目次
  1. よく見られる漢字のつまずきの具体例
  2. 主な原因①:視覚認知の弱さ
  3. 主な原因②:運動・身体面の課題
  4. 主な原因③:ワーキングメモリと注意の弱さ
  5. 主な原因④:音韻認識・言語の発達の課題
  6. 支援の基本的な考え方
  7. 具体的な支援方法と教材の工夫】
  8. ■ 漢字のつまずき別・支援策一覧表
  9. 学校や家庭でできる連携の工夫
  10. おわりに:子どもの可能性を信じて】
もっと知りたい小児の知識

「何度練習しても、うちの子だけ漢字が覚えられない…」
「書いてもすぐに忘れてしまうし、読み方もあやふやで…」

そんなふうに、子どもの漢字学習に悩んでいる保護者の方は少なくありません。特に、発達障害のあるお子さんの場合、「ただのやる気の問題」や「努力不足」では片づけられない、根本的な困難を抱えていることがあります。

学校の宿題やテストで「できない」ことが続くと、本人の自信が下がってしまったり、家庭での雰囲気も重くなりがちです。でも、その背景には「怠けている」わけでも「甘えている」わけでもなく、目には見えにくい“脳の特性”が関係しているのです。

このコラムでは、発達障害のある子どもが「漢字を書けない・覚えられない」理由について、よくあるつまずきや具体的な背景を解説しながら、今日から実践できる支援のヒントをご紹介します。

お子さんの「できない」を責める前に、「もしかしてこういう理由があるのかも」と見方を変えることで、きっと新しい道が見えてくるはずです。

  1. よく見られる漢字のつまずきの具体例
      1. 書き順が覚えられない
      2. へんとつくりを混同する
      3. 見本を見ても再現できない
      4. 何度書いても覚えられない
      5. 書いても読めない字になる
  2. 主な原因①:視覚認知の弱さ
      1. 漢字の形の細かい違いが認識しにくい
      2. 空間的な配置(へんとつくりの位置関係)を把握しにくい
      3. 視覚記憶が弱く、文字のイメージが頭に残りにくい
    1. 支援のヒント:視覚的な補助を活用する
  3. 主な原因②:運動・身体面の課題
      1. 手先が不器用で、思い通りに書けない
      2. 姿勢を保てず、集中が続かない
      3. 書く動作の手順が組み立てられない
    1. 支援のヒント:運動面を補う工夫を
  4. 主な原因③:ワーキングメモリと注意の弱さ
      1. ワーキングメモリが弱いと、覚えた情報をすぐに忘れてしまう
      2. 注意が散りやすく、学習に集中しにくい
      3. 課題に対する持続力が乏しく、すぐに疲れてしまう
    1. 支援のヒント:情報量を減らし、集中できる工夫を
  5. 主な原因④:音韻認識・言語の発達の課題
      1. 音と文字を結びつける力が弱い
      2. 文字の読み書きに必要な言語処理が未発達
      3. 支援のヒント:音と意味をつなぐ、多感覚的なアプローチ
    1. 家庭や学校での声かけの工夫
  6. 支援の基本的な考え方
      1. 「覚えられない=努力不足」と決めつけない
      2. 苦手なプロセスを他の感覚や手段で補う
      3. 「覚える」よりも「使える」ことを優先する柔軟な学習観
    1. 子どもの「できる」を伸ばす支援とは
  7. 具体的な支援方法と教材の工夫】
    1. ① 漢字を「分解」して覚える
    2. ② 手を使った立体的な学習
    3. ③ 書く以外の「出力方法」を活用する
    4. ④ 遊びの中で学べる教材を使う
    5. ⑤ 支援グッズ・教材例
    6. 子どもに合った「やり方」と「道具」を選ぶ
  8. ■ 漢字のつまずき別・支援策一覧表
    1. 🔍 補足ポイント
  9. 学校や家庭でできる連携の工夫
      1. 1. 情報共有を日常的に
      2. 2. 「家庭でも使える教材・方法」を選ぶ
      3. 3. 学習の「成果」だけでなく「努力」も認める
      4. 4. 専門職との連携も活用
    1. 🔍 ポイントまとめ
  10. おわりに:子どもの可能性を信じて】
      1. 🔍「書ける子」ではなく「自分の方法で学べる子」に
      2. 🌱 子どもは日々変化し、成長していく

よく見られる漢字のつまずきの具体例

発達障害のある子どもが漢字学習でつまずく場面には、いくつかの典型的なパターンがあります。

発達障害のある子どもが漢字学習でつまずく場面には、いくつかの典型的なパターンがあります。ここでは、保護者や教師がよく目にする困りごとの例と、それらの背後にある認知や感覚の特徴について紹介します。

書き順が覚えられない

正しい書き順は、漢字の形を安定して書くための手がかりになります。しかし、発達障害のある子どもの中には、視覚的な順序を理解したり、動作の順番を記憶することが難しい子がいます。これは、ワーキングメモリや運動計画の苦手さが関係していると考えられます【1】。

へんとつくりを混同する

へんとつくりの位置関係を理解できず、「働」と「動」、「湖」と「温」のような似た漢字を混同することがあります。これは、形の違いを見分けたり、パーツの位置関係を正しく認識する視覚認知力が弱いことが背景にあります【2】。

見本を見ても再現できない

教科書や先生の字を見て、それをノートに書こうとしても全く違う形になってしまう。これは、見たものを一時的に記憶し、それを手の動きに変換する視覚構成能力やワーキングメモリの弱さに関係しています【3】。

何度書いても覚えられない

何度練習しても、次の日には忘れてしまう。こうした「定着しない」つまずきは、意味づけがうまくできていなかったり、視覚記憶がうまく働いていない可能性があります【4】。ただ書く回数を増やすだけでは改善しにくい場合もあります。

書いても読めない字になる

書いた文字の形が崩れていたり、バランスが悪くて自分でも読めない…。これは、手先の器用さ(微細運動)や、空間の中で文字を構成する能力が十分に育っていないことが原因のこともあります【5】。


こうした困難の多くは、努力不足ではなく「認知処理の特性」によるものです。まずは、「できないこと」に注目するのではなく、なぜその子にとって難しいのかという視点を持つことが支援の第一歩です。

参考文献
【1】Alloway, T. P. (2009). Working memory, but not IQ, predicts subsequent learning in children with learning difficulties. European Journal of Psychological Assessment, 25(2), 92–98.
【2】Kirk, J., & Reid, G. (2001). An examination of the relationship between dyslexia and visual perceptual deficits. British Journal of Special Education, 28(4), 195–201.
【3】Swanson, H. L., Zheng, X., & Jerman, O. (2009). Working memory, short-term memory, and reading disabilities: A selective meta-analysis of the literature. Journal of Learning Disabilities, 42(3), 260–287.
【4】Gooch, D., Hulme, C., Nash, H. M., & Snowling, M. J. (2014). Comorbidities in preschool children at family risk of dyslexia. Journal of Child Psychology and Psychiatry, 55(3), 237–246.
【5】Chang, S. H., & Yu, N. Y. (2010). Handwriting movement analyses comparing first and second graders with and without dysgraphia. Research in Developmental Disabilities, 31(6), 1289–1296.

主な原因①:視覚認知の弱さ

漢字を読む・書くという行為には、単なる暗記以上の力が求められます。その中でも大きな役割を果たすのが「視覚認知」です

漢字を読む・書くという行為には、単なる暗記以上の力が求められます。その中でも大きな役割を果たすのが「視覚認知」です。視覚認知とは、目で見た情報を正確に捉え、脳で処理して理解する力のことを指します。

発達障害のある子どもには、この視覚認知の働きに弱さがあるケースが少なくありません。以下に具体的な困りごととその背景を紹介します。


漢字の形の細かい違いが認識しにくい

たとえば「晴」と「腫」、「橋」と「様」など、よく見ると違うけれど似たような形の漢字があります。視覚的な識別力が弱い子は、これらの細かい違いを見分けるのが難しく、似た漢字を混同して覚えてしまうことがあります【1】。


空間的な配置(へんとつくりの位置関係)を把握しにくい

「海」「湖」「満」などの漢字は、左と右で部品が分かれています。視覚認知の中でも「空間認識」の力が弱いと、パーツの位置関係を正しく把握できず、左右を入れ替えたり、バランスが崩れてしまったりします【2】。


視覚記憶が弱く、文字のイメージが頭に残りにくい

漢字の学習には、形のイメージを一時的に記憶して再現する力が必要です。しかし視覚記憶の力が弱いと、たとえ一度正しく書けたとしても、すぐに忘れてしまったり、思い出すのに時間がかかることがあります【3】。


支援のヒント:視覚的な補助を活用する

視覚認知が弱い子どもへの支援では、「見る力を補う工夫」が有効です。

  • パーツごとに色分けする:へんとつくりを別の色で書くと、構造がわかりやすくなります。
  • 漢字を立体的に作る:紙ねんどやマグネットなどを使って漢字を組み立てることで、空間的な構造を体感しながら覚えることができます。
  • 拡大プリントや太い筆記具を使う:形の違いが視認しやすくなり、認識しやすくなります。

これらは、苦手な認知機能に直接アプローチするのではなく、「苦手さに合わせて環境を整える」方法です。小さな工夫が、子どもにとっては大きな助けになります。


参考文献
【1】Kirk, J., & Reid, G. (2001). An examination of the relationship between dyslexia and visual perceptual deficits. British Journal of Special Education, 28(4), 195–201.
【2】Gooch, D., Hulme, C., Nash, H. M., & Snowling, M. J. (2014). Comorbidities in preschool children at family risk of dyslexia. Journal of Child Psychology and Psychiatry, 55(3), 237–246.
【3】Swanson, H. L., Zheng, X., & Jerman, O. (2009). Working memory, short-term memory, and reading disabilities: A selective meta-analysis of the literature. Journal of Learning Disabilities, 42(3), 260–287.

主な原因②:運動・身体面の課題

漢字を書くという行為は、「目で見た形」を「手を動かして再現する」という一連の動作です。

漢字を書くという行為は、「目で見た形」を「手を動かして再現する」という一連の動作です。このプロセスには、運動計画、姿勢保持、手指の協調運動など、多くの身体的スキルが必要になります。

発達障害のある子どもの中には、このような「身体の使い方」に課題を抱えている場合があります。ここではその具体例と背景を紹介します。


手先が不器用で、思い通りに書けない

文字の線が曲がってしまう、マスからはみ出す、線の太さがバラバラになる——これらは手指の細かな動きをコントロールする力(微細運動)の発達が未熟なことが影響していると考えられます【1】。


姿勢を保てず、集中が続かない

机に向かって長時間座るには、体幹の筋力や姿勢保持の力が必要です。姿勢を支える力が弱いと、すぐに体が傾いたり、筆圧が安定しなかったりして、書くこと自体が苦痛になってしまいます【2】。


書く動作の手順が組み立てられない

「どこから書き始めるか」「次にどの線を書くか」といった書き順や構成の組み立てがうまくできない場合、これは運動計画の力が弱いことが影響している可能性があります。こうした困難は、発達性協調運動障害(DCD)とも関連があります【3】。


支援のヒント:運動面を補う工夫を

  • 筆記具を工夫する:太くて握りやすい鉛筆や、グリップ付きのペンを使うと、指先の操作が安定しやすくなります。
  • 書く前の準備運動を取り入れる:指先を使った遊び(お手玉、ひも通しなど)を通して、手の準備をするのも有効です。
  • 姿勢補助を行う:椅子の高さを調整したり、足台を置いて姿勢を安定させたりすることで、集中しやすくなります。
  • なぞり書きやマス目を活用する:運動の「軌道」を補助することで、正しい書き方が定着しやすくなります。

「手が思うように動かない」という困難は、子ども自身にとって非常にもどかしく、自己肯定感を下げる要因にもなります。まずは苦手さを責めず、環境や道具を工夫して“できた”経験を積ませることが、次のステップへの第一歩です。


参考文献
【1】Chang, S. H., & Yu, N. Y. (2010). Handwriting movement analyses comparing first and second graders with and without dysgraphia. Research in Developmental Disabilities, 31(6), 1289–1296.
【2】Rivilis, I., Hay, J., Cairney, J., Klentrou, P., Liu, J., & Faught, B. E. (2011). Physical activity and fitness in children with developmental coordination disorder: A systematic review. Research in Developmental Disabilities, 32(3), 894–910.
【3】Blank, R., Smits-Engelsman, B., Polatajko, H., & Wilson, P. (2012). European Academy for Childhood Disability (EACD): Recommendations on the definition, diagnosis, and intervention of developmental coordination disorder (long version). Developmental Medicine & Child Neurology, 54(1), 54–93.

主な原因③:ワーキングメモリと注意の弱さ

重要な役割を果たすのが「ワーキングメモリ」と「注意の持続力」です。

漢字を書くという作業は、単純な暗記作業ではなく、頭の中で複数の情報を一時的に保持・操作しながら進めていく、非常に複雑なプロセスです。このときに重要な役割を果たすのが「ワーキングメモリ」と「注意の持続力」です。

発達障害のある子どもたちの中には、これらの機能に弱さがあり、漢字学習に大きな影響を与えていることがあります。


ワーキングメモリが弱いと、覚えた情報をすぐに忘れてしまう

たとえば、先生が黒板に書いた漢字を見て、それをノートに書き写す。この簡単に見える作業でも、実は一時的に「形のイメージ」や「書き順」を頭の中に保っておく必要があります。ワーキングメモリが弱いと、見てすぐに忘れてしまい、1文字写すのにも何度も黒板を見直さなければならなくなります【1】。


注意が散りやすく、学習に集中しにくい

ちょっとした物音や動きにすぐ反応してしまい、集中が途切れてしまう子もいます。また、書いている途中で目的を忘れてしまったり、順番を飛ばしてしまったりすることもあります。これらは注意制御機能の弱さに関係しています【2】。


課題に対する持続力が乏しく、すぐに疲れてしまう

長い時間ひとつの課題に取り組むのが難しい、途中でやめてしまう、イライラして癇癪を起こしてしまう……こういったケースも注意の持続に困難があるために起こることがあります。書字という複雑な作業が「疲れる」「苦手」と感じやすくなるのです【3】。


支援のヒント:情報量を減らし、集中できる工夫を

  • 一度に提示する情報量を減らす:1文字ずつ、または部分ごとに区切って提示することで、記憶や注意の負荷を減らします。
  • 視覚的なヒントや手がかりを加える:見本の文字の下に薄く文字の枠をつけて、なぞって書けるようにするなど。
  • 集中しやすい環境を整える:視界に余計なものを入れない、静かな環境を選ぶ、時間を区切って取り組むなどの工夫が有効です。
  • こまめな休憩や達成感を得られる工夫:集中が途切れる前に休憩を入れる、小さな成功体験を積ませるなど。

ワーキングメモリや注意の弱さは、本人のやる気や努力とは関係なく起こる「認知的な特徴」です。まずは「覚えられない・集中できないのは本人のせいではない」と理解し、情報や環境を調整して支援することが大切です。


参考文献
【1】Alloway, T. P., & Alloway, R. G. (2010). Investigating the predictive roles of working memory and IQ in academic attainment. Journal of Experimental Child Psychology, 106(1), 20–29.
【2】Willcutt, E. G., Doyle, A. E., Nigg, J. T., Faraone, S. V., & Pennington, B. F. (2005). Validity of the executive function theory of attention-deficit/hyperactivity disorder: A meta-analytic review. Biological Psychiatry, 57(11), 1336–1346.
【3】Gathercole, S. E., & Alloway, T. P. (2008). Working memory and learning: A practical guide for teachers. Sage.

主な原因④:音韻認識・言語の発達の課題

「漢字が覚えられない」という問題の背景には、「文字そのもの」の認識だけでなく、「言葉としての処理の難しさ」が関係していることもあります

「漢字が覚えられない」という問題の背景には、「文字そのもの」の認識だけでなく、「言葉としての処理の難しさ」が関係していることもあります。特に、音韻認識(言葉を音のかたまりとして分析・操作する力)や、言語発達全体の遅れがある場合、漢字の読み書き習得が困難になることがあります。


音と文字を結びつける力が弱い

たとえば、「校」という字を覚えるには、「コウ」という読み(音)と、「学校の“校”」という意味(語彙)、さらに形の構成(木+交)を総合的に理解する必要があります。しかし、音韻認識が弱い子どもは、まず「コウ」という音を正確に聞き取り、記憶すること自体が難しいのです【1】。


文字の読み書きに必要な言語処理が未発達

言葉の概念や文法、語彙の発達がゆっくりな子どもは、文字が「意味を表す記号」であるという理解がしにくくなります。たとえば、「昨日」「友達」などの漢字の組み合わせを意味として理解するのが難しく、暗記頼りの学習になってしまいます。

結果として、意味をイメージで捉える力が弱く、記憶にも残りにくいという負のループに陥りやすくなります【2】。


支援のヒント:音と意味をつなぐ、多感覚的なアプローチ

  • 音読・リズムを使った読み書き:「音」と「文字」をつなげる力を育てるために、リズムよく音読したり、繰り返し声に出して読む練習が有効です。
  • 言葉の意味を具体的に理解するサポート:たとえば「森」は木がたくさん集まっている様子を写真や絵で示す、「校」は「木のそばに交差点がある」と分解してイメージするなど、意味にひもづけた視覚支援を取り入れます。
  • 漢字のパーツごとに意味を教える:部首(へんやつくり)ごとに意味や機能を教えることで、意味を構造的にとらえやすくなります。

家庭や学校での声かけの工夫

  • 「“友”って、どんな意味かな?」
  • 「“達”って、人がたくさんいるときに使う言葉だよ」
  • こんなふうに、漢字を“意味のある絵”として理解させることで、無理な反復暗記よりもずっと効果的になります。

音韻認識や言語発達の課題は、見た目ではわかりにくいものですが、「漢字が苦手」の背景にある根本的な原因となることがあります。苦手さを“努力不足”と決めつけず、個々の認知特性に寄り添った支援が何より大切です


参考文献
【1】Snowling, M. J., & Hulme, C. (2012). Interventions for children’s language and literacy difficulties. International Journal of Language & Communication Disorders, 47(1), 27–34.
【2】Wagner, R. K., Torgesen, J. K., & Rashotte, C. A. (1994). Development of reading-related phonological processing abilities: New evidence of bidirectional causality from a latent variable longitudinal study. Developmental Psychology, 30(1), 73–87.

支援の基本的な考え方

漢字の読み書きに苦手さを示す子どもたちに対して、どのように支援していけばよいのでしょうか。ここでは、すべての支援に共通する「基本的な考え方」について解説します。


「覚えられない=努力不足」と決めつけない

まず大前提として、「漢字が覚えられない=やる気がない」「練習が足りない」といった見方を避けることが非常に重要です。
発達障害のある子どもたちは、見え方・聞こえ方・記憶のしかた・体の使い方などに独自の特性があり、努力だけではカバーできない困難さを抱えている場合があります【1】。

そうした背景を理解せずに「もっとがんばって」と叱咤すると、自己肯定感を失い、学習自体に対する抵抗感が強くなってしまいます。


苦手なプロセスを他の感覚や手段で補う

漢字を覚える過程には、視覚認知、運動制御、音韻認識、記憶、注意などさまざまなプロセスが関与しています。
これらのどこかに困難さがある場合は、その部分を別の感覚や手段で補う支援が効果的です。

  • 文字を立体で作る(触覚を使う)
  • 部品に色をつける(視覚支援)
  • 語呂合わせやリズムで覚える(聴覚支援)
  • 書く代わりにマグネットやスタンプを使う(運動負担の軽減)

つまり、「漢字を“書いて覚える”」という一つのやり方にこだわるのではなく、その子に合った“入り口”を工夫することが支援の第一歩です【2】。


「覚える」よりも「使える」ことを優先する柔軟な学習観

「完璧に覚えきること」をゴールにしてしまうと、覚えきれない子どもたちは常に「できない」体験ばかりになってしまいます。
しかし、漢字は「テストで正解するため」だけのものではなく、自分の考えを人に伝えるための道具でもあります。

  • 少し時間がかかっても、辞書やアプリを使って調べられればOK
  • 書けなくても、読めて意味がわかれば生活に支障はない
  • 学校ではタブレットや音声入力を活用する選択肢もある

こうした**“実用的に使える”ことを重視した柔軟な視点**が、子どもの自信と学びの継続を支えます。


子どもの「できる」を伸ばす支援とは

「この子が漢字を覚えられない理由はなんだろう?」と問いかけることが、支援のスタートです。
そして、「この子がどうすれば使えるようになるか」を一緒に考える姿勢が、本人や家族にとって大きな安心になります。

学習のゴールは「正解」ではなく、「伝える」「わかる」「使える」こと。
そのことを、子どもにも、大人にも忘れずに伝えていきたいものです。


参考文献
【1】Dunn, L. M., & Dunn, D. M. (2007). Peabody Picture Vocabulary Test. Pearson Assessments.
【2】Berninger, V. W., & Richards, T. L. (2010). Brain Literacy for Educators and Psychologists. Academic Press.

具体的な支援方法と教材の工夫】

その子の特性に応じた方法と教材を工夫することで、「覚えること」ではなく「使えること」への道筋が見えてきます

漢字に苦手さがある子どもにとって、単に「何度も書く」学習は苦痛でしかありません。
その子の特性に応じた方法と教材を工夫することで、「覚えること」ではなく「使えること」への道筋が見えてきます。ここでは、実際に役立つ支援法を具体的に紹介します。


① 漢字を「分解」して覚える

漢字の構造(へん・つくり・かんむり・あしなど)を理解しやすくするために、「部品ごとに分けて学ぶ」方法が有効です。

  • 漢字カードをパーツごとに切り分け、パズルのように組み立てる
  • 色分けして視覚的にへん・つくりを区別する
  • 絵やストーリーと結びつけて覚える(例:「つちへん」は土、「つくり」は木を植える様子)

📚参考:視覚構成力が弱い子どもには、視覚的補助による構造化が有効とされています(Nakazawa et al., 2020)【1】。


② 手を使った立体的な学習

「見て覚える」「書いて覚える」が難しい場合、手や指を使って立体的に文字を感じることが記憶の助けになります。

  • 粘土やモールで漢字の形を作る
  • 指で砂やフェルトの上に字を書く
  • 凹凸のある文字(ボンドやタイルで作成)をなぞる練習

📚参考:触覚と運動感覚の協調による学習は、記憶の定着に良い効果があると報告されています(Kiefer & Trumpp, 2012)【2】。


③ 書く以外の「出力方法」を活用する

手書きが困難な子どもにとって、書くことそのものが負担になる場合があります。
そんな時は、他の方法で「漢字を使う体験」を増やす工夫が有効です。

  • スタンプやマグネットで漢字を並べる
  • デジタル機器(タブレット・キーボード入力)を活用する
  • 音声入力で作文を作り、あとから漢字変換する

📚参考:特別支援教育では「合理的配慮」としてICTの活用が推奨されています(文部科学省, 2020)【3】。


④ 遊びの中で学べる教材を使う

楽しく続けられる工夫も大切です。「勉強」というよりも「遊び」の延長で学べるようにすることで、モチベーションが上がります。

  • 神経衰弱のようにして同じ漢字カードを当てるゲーム
  • サイコロを振って出たパーツを組み合わせて漢字を作る遊び
  • クロスワードパズルや絵合わせカードなど

📚参考:遊びを取り入れた学習活動は、意欲と定着を高めることが多くの研究で示されています(Fisher et al., 2011)【4】。


⑤ 支援グッズ・教材例

支援の目的教材・グッズの例
パーツ認識パーツ分解漢字カード、へん・つくり色分けシール
立体感覚漢字型粘土型、ボンドなぞりカード、ザラザラ漢字プレート
手軽な出力スタンプ漢字、マグネット式漢字、タブレットアプリ
遊び要素カードゲーム型教材、漢字ビンゴ、クイズアプリ

※多くの教材は市販されていますが、家庭や学校で手作りも可能です。


子どもに合った「やり方」と「道具」を選ぶ

大切なのは、「この子がどの方法なら楽しめるか・続けられるか」を一緒に試行錯誤することです。
うまくいかない方法にこだわらず、柔軟にアプローチを変えていくことが、学習の継続につながります。


参考文献
【1】Nakazawa, J., et al. (2020). Visual-spatial difficulties and writing errors in children with developmental dysgraphia. Neuropsychology.
【2】Kiefer, M., & Trumpp, N. M. (2012). Embodiment theory and education: Using sensorimotor simulation to improve learning. Mind, Brain, and Education.
【3】文部科学省 (2020). GIGAスクール構想におけるICTの活用と合理的配慮.
【4】Fisher, K., Hirsh-Pasek, K., Golinkoff, R. M., et al. (2011). The Role of Play in Learning: A Review of the Evidence. Psychological Science in the Public Interest.

■ 漢字のつまずき別・支援策一覧表

よくあるつまずき想定される背景効果的な支援策活用できる教材・工夫例
書き順が覚えられない順序の記憶が苦手(ワーキングメモリ弱さ)書き順アニメや動画を活用/リズムに合わせて練習書き順アプリ、歌やリズムカード、指書き動画
へんとつくりを混同する視覚認知や空間認識が弱い色分けや構造分解で視覚的に区別/パズルで組み立て練習パーツ色分け漢字カード、組み立てパズル
見本を見ても再現できない視覚記憶・模写の苦手さパーツごとに練習/粘土や凹凸で立体的に覚える漢字型粘土型、ボンドなぞりカード、フェルト素材
何度書いても覚えられない記憶の定着が難しい/書くことに集中しすぎる意味やストーリーと結びつける/書かずに覚える練習絵カード、ストーリー漢字教材、漢字カルタ
書いても読めない字になる運筆や視空間把握の困難大きく書いて確認/手本なぞり・指書きから導入太字なぞりプリント、砂文字板、タブレット書字練習

🔍 補足ポイント

  • 1つのつまずきに複数の要因が絡むことが多いため、観察や対話を通じて子どもの特徴を丁寧に理解することが重要です。
  • 「視覚」「触覚」「運動」「音」など複数の感覚を使う支援が、記憶の定着や理解の助けになります。
  • 家庭と学校で同じ工夫を共有できると、子どもにとって安心で効果的な環境づくりができます。

学校や家庭でできる連携の工夫

漢字の習得に困難を抱える子どもにとって、**「一貫した支援」と「安心できる学習環境」**は何より大切です。

漢字の習得に困難を抱える子どもにとって、**「一貫した支援」と「安心できる学習環境」**は何より大切です。学校と家庭が連携することで、子どもの混乱や負担を減らし、安心して学びに取り組めるようになります。

1. 情報共有を日常的に

  • 担任の先生、特別支援担当、保護者が子どもの学習の様子や反応をこまめに共有しましょう。
  • 連絡帳やオンラインツール(例:Classroom、LINE、連絡ノートアプリ)を活用すると、簡便に記録・連携ができます。
  • 支援の「成功例」や「苦手な方法」などを積極的に共有することで、より効果的な支援に繋がります。

2. 「家庭でも使える教材・方法」を選ぶ

  • 学校で使っている支援教材(色分けプリント、立体教材、動画など)を、家庭でも使える形にアレンジして共有すると、一貫性のある学習が可能になります。
  • 逆に、家庭で効果があった工夫(例:カラフルマーカー、フェルト素材の文字)を学校に伝えるのも良い連携です。

3. 学習の「成果」だけでなく「努力」も認める

  • 「何文字書けたか」よりも、「どんな工夫で取り組んだか」「今日は途中まででもがんばった」など、プロセスの評価を大切にしましょう。
  • 家庭での努力や学校での取り組みを、お互いにほめ合える関係が、子どもの自己肯定感につながります。

4. 専門職との連携も活用

  • 通級指導教室、特別支援教育コーディネーター、作業療法士(OT)など、専門家の助言を受けることで、より適切な支援が可能になります。
  • 相談先がわからない場合は、学校の特別支援担当や教育相談窓口を通じてつなげてもらうとよいでしょう。

🔍 ポイントまとめ

  • 支援の一貫性は「学校と家庭の連携」から生まれる
  • 子どもが混乱しないよう、環境や指導法に統一感をもたせる
  • 成果だけでなく、努力の過程を認め合う姿勢が、子どもの意欲を高める

おわりに:子どもの可能性を信じて】

背景には視覚認知・記憶・感覚処理など、目に見えにくい発達特性が関係していることも少なくありません。

漢字を覚えることが苦手な子どもを前にすると、つい「練習が足りないのでは」「もっと努力すればできるはず」と思ってしまうことがあります。しかし、今回ご紹介したように、その背景には視覚認知・記憶・感覚処理など、目に見えにくい発達特性が関係していることも少なくありません。

たとえ書ける漢字の数が少なくても、
たとえ何度練習してもすぐに忘れてしまっても、
その子が学ぼうとする姿勢や、自分なりの工夫を重ねる力には、かけがえのない価値があります。

🔍「書ける子」ではなく「自分の方法で学べる子」に

私たちが目指したいのは、全員が同じやり方で同じ成果を出すことではありません
大切なのは、それぞれの子どもが「自分に合ったやり方」で学び、「わかる・伝わる・使える喜び」を実感できること。
そのために、家庭や学校、そして支援者が手を取り合って、子どもの特性に寄り添う工夫と応援を積み重ねていくことが求められます。

🌱 子どもは日々変化し、成長していく

今は書けなくても、明日は少し形が整うかもしれない。
時間がかかっても、数年後には自分の名前や大事な言葉をしっかり書けるようになるかもしれない。
子どもたちは、ゆっくりでも、確実に育っていきます。

だからこそ、焦らずに、一人ひとりのペースで。
「今できること」に目を向けて、
「その子らしさ」を大切にしながら、歩んでいきましょう。

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