遊びの解説や様々な記事の中に登場する「手と目の協調性」。じつは子どもの発達にとって大変重要な意味をもつ行動なのです。
それは、
「子どもの世界を大きく変える」
からです。
といわれても、ピンとこないですよね。今回は、手と目の協調性について紐解いていきましょう。
手と目の協調=目で見て、手を使うこと
とてもシンプルに説明すると「目で見て、手を使うこと」が手と目の協調性です。
目で物をとらえ、それを操作したり、自分の思い通りに手を動かすことをいいます。
この手と目の協調に重要なことが「感覚」と「身体のイメージ」です。
・見る事=視覚
・手を動かすこと=体性感覚
この感覚情報の連携と、感覚情報をもとに作られた自分自身の体への気づき、つまり身体のイメージの発達によって、手と目の協調性は生み出されています。
これらを獲得するまでの発達の過程は実に興味深いものがあります。なぜなら、この手と目の協調の始まりは、「胎児」からすでに始まっているわけですから。
では、手と目の協調の発達過程を様々な科学的な観点をもとに成長の流れに沿って見ていきましょう。
手と目の協調 発達の過程
胎児のときから、身体のイメージは作られている
お腹の中にいるときの胎児からすべて始まっています。胎児はお母さんのおなかの中で、丸まって過ごしていますね。この時、手と顔、手と足など距離が非常に近いことがわかります。胎児は、自分の手で自分の体を触っているのです。
自分の体を探索する『ダブルタッチ』
この自分の体を自分で触ることを「ダブルタッチ」といいます。ダブルタッチは、胎児から新生児期にかけてみられます。
なぜダブルかといいますと、触った手からの体性感覚(触覚、固有受容覚など体から伝わる感覚)と触られた側の体からの体性感覚、このダブルの体性感覚が脳に入るため、こう呼ばれています。
この行動によって、自分が触った体の部分を学習していると考えられています。
つまり、目がまだ見えない胎児の頃から、体性感覚による自分というものがわかっている可能性があると考えられています。体性感覚による身体イメージがすでにできあがっているわけですね。
在胎24週 指しゃぶりの予期的な口開け
在胎22週頃には、指を口元にスムーズに持っていくようになり、24週の胎児において、ゆびをしゃぶるとき、それを予想して口が開くことが4Dの超音波映像によって確かめられました。
この時期には、体性感覚を使って自分の体への気づきや体のイメージを作り上げている可能性が示唆されているのです。
おそるべき、胎児の感覚!
見ることと意図的に自分の動きを予測できる「2か月革命」
新生児期はさきに述べたダブルタッチの経験を豊富にしていきますが、生後2か月でいろいろな変化が起きてきます。
生後2か月の変化
・睡眠と覚醒のリズムが確率する
・他者への顔へ注意を向けることができる
・社会的ほほえみの出現 (自分の意思で笑うことで、保護者があやしたり、いないいないばあをしたりしたときなどに見せる笑い)
お気づきになりましたか?そうです。「見る」という大きな変化が生まれてくるわけです。
そして、もうひとつ特徴的な変化が、
自分が行う行動によって起こる結果を学習し、それを予測することができるようになってくる。つまり、意図的に自分の体をイメージすることができるようになるということです。
この大きな変化は「2か月革命」とよばれています。
生後3か月 目で見える自分の体を発見する
生後3か月ごろになると、自分の手をまじまじと見つめる行動がみられます。これは「ハンドリガード」と呼ばれています。この時期には、自分の手を見て確認しようとする傾向があることが科学的な実験で明らかにされています。
つまり、「目で見える自分の体を発見する」ということです。
これによって、もともと持っている体性感覚のイメージと目から入ってくる自分の体を照合させていくわけです。目からの情報と体から伝わってくる情報がマッチングして、新たな自分の体のイメージを作り上げていくのです。
生後4~5か月 見えるものに手を伸ばすリーチング
生後4か月ころになると、周囲の環境に対して興味が出始めて、見たものに対して手を伸ばし始めます。これは「視覚的リーチング」と呼ばれます。ちなみに、視覚誘導によるリーチが5~6か月頃に機能的になり、7~8か月にピークに達するとされています。
この視覚的リーチングを行うためには、まず目で物を見て、その物と自分の手の位置を把握しなければなりません。その時に必要となるのが、先ほどのべた目と体性感覚がマッチングした自分の体のイメージなのです。
この外部の世界に触れるという経験は、自分が自分自身をコントロールして外部に変化を起こすことができるという発見でもあります。
子どもにとってこの経験は大きな大きな世界の拡大につながるわけです。
ようやく、手と目の協調した運動が表れました。
記事にすると長いですが、生後4か月でこれらのことができるようになるってことは、驚くべきことです!!
だから、リハビリでは自分自身を把握することに着目する。
自分の動きをコントロールしたり、自分が外部に働きかけて変化をもたらすことは、自己効力感を高める事でもあります。
自分の周りの環境を知るためには、まず自分自身の身体や感覚がわかっている必要があることは発達段階を紐解くことでお分かりかと思います。
そして、自分の思い通りに手が動かせるように、おもちゃを上手に操作するためには、視覚からの情報と自分自身の体性感覚がマッチしていないといけないわけです。
だから、小児リハビリでは自分自身を把握することや目で見て操作することに着目して、いろいろな遊びをするわけですね。
手と目の協調を促す意味と価値は、ここにあります。
手と目の協調が上手くいかない理由は「体性感覚と視覚のミスマッチ」「注意」「眼球運動」
これが上手くいかないときを考えてみましょう。
「テレビみながら食べるから、こぼすんでしょ!」
「手元をちゃんとみなさい」
よくある場面です。視覚からの情報が来ないので、手元が狂っちゃうわけですね。
発達障害のお子さんの中には、上記のようにそもそも「手元を見ない」お子さんがいます。これは「注意機能」の苦手さも関係しています。
また、見た情報と自分の体の感覚を上手に照合できないお子さんがいます。これは視覚の問題というよりも体の感覚の問題とも考えられます。
さらに、物体を的確に目でとらえることができない、眼球運動そのものに苦手さのあるお子さんいます。
・視覚の問題(視力の問題)
・眼球運動と手の動きのミスマッチ
・手元に注意が向かない、注意機能の影響
・見た情報と体性感覚との照合が上手くできない
お子さんの何が苦手で、手と目の協調がうまくできないのかを把握することが大切であり、それには専門家の「目」が必要です
まとめ
手と目の協調は、自分自身の体を思い通りに動かせるだけでなく、子どもの世界を大きく広げるきっかけになっていることが、発達を紐解くことでわかってきます。赤ちゃんの頃から、なにかをさわってあそぶことが大切で、手が届くところに好きなおもちゃを置いたり、寝ている上からぶら下げてみても良いかもしれません。様々な遊びの中で、お子さんの手を使う体験を増やしてみてはいかがでしょうか。
お読みくださいまして、ありがとうございました。
引用文献
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・浅野大喜:リハビリテーションのための発達科学入門.共同医書出版.9-39.2012
コメント
[…] 指定されたブロックを使って、だれが一番早くブロックを積むことができるのかを競うゲームです。逆に、時間を決めてどれだけ高く積めるかを競ってもよいでしょう。 この遊びは、手先の操作(手と目の協調性)と集中力を高めるメリットがあります。 […]
[…] 脳の機能障害から生じる、聞く、話す、読む、書く、計算するまたは推論する能力のうち特定のものの習得や使用に困難さをしめす障害をさし、全般的に知能は保たれています。 文部科学省の報告によれば、普通級に在籍する児童のうち2.5%程度に読みと書きの困難さがみられると推定されています。 どんな症状があるのでしょうか 例えば、文章をたどたどしく一文字ずつ読む。(これを「逐語読み」といいます。)また、指を使ってゆっくりと拾い読みするといった「流暢さや読み速度」の問題があげられます。 あるいは、単語や行を飛ばして読んだり、助詞や動詞の読み誤り、言葉を違う意味にとらえてしまう「読みの正確さ」の問題などがあります。 読みが上手くできない要因としては、言葉をひとまとまりとして認識するための語彙、つまり言葉のボキャブラリーの少なさや、字や行を見るための眼球運動、視知覚の問題などがあります。 書くことの困難さとしては、文字の書き写し、板書、聞き取りしながらの書字、作文などにいちじるしく時間がかかったり、書き直しが多い「書きの流暢さや速度」の問題があげられます。 また、鏡文字や促音、長音などの誤表記、漢字で線が抜けるもしくは線が多いなどの誤字といった「書くことの正確さ」の問題があります。 書くことが上手くできない要因としては、漢字を構成する要素や関係性が学習されていない、文字や音と漢字がマッチングしていないといったことのほかに、手の運動発達や鉛筆をもつという運動発達の遅れ、目と手の協調運動、形をとらえる能力とそれを運動に変換する能力に困難さがある場合があります。 アプローチの方法はさまざまありまして、ここに書ききるには限度があります。 代表としては、 ひらがなの文字や読みを一致させたり、絵柄をみてその絵の名称のひらがなを順番に選択して文字を構成していく、言葉の音をひとつひとつ分解していく、もしくはひとつひとつのものを合成するなどです。 あれ?子どもの頃、やりませんでした? グリコとかいうあそび。「ぐりこ」なら3つ、「ちよこれいと」6つ、階段をのぼっていく遊びです。 […]
[…] 4.判断力ゲーム 形の識別トレーニング(動画あり) ボタンが光り、ある形を作り出します。3つの形が順番ででてきたあと、問題となる模様が光ります。問題の形が何番目に出てきたかを、答えるゲームです。 【子供に与える効果】 これは視覚を用いた記憶力を養うと同時に、形をとらえる空間認識も養います。また、ボタンひとつひとつを見るのではなく、そのボタンをひとつの集合体、形としてとらえる情報処理が必要になります。これを同時処理といいます。 同時処理の認知機能を養うことができます。 5.推理力ゲーム 時間測定チャレンジ 10秒、20秒などの目標タイムに対して自分の体内時計が、その程正確に測れるかを試すゲームです。 【子供に与える効果】 時間的な感覚 待つという経験ができる 落ち着きのないお子さんや、待てないお子さんなどは、体内時計や時間的把握能力が苦手なおこさんがいます、こういったおこさんにピッタリなゲームです。 6.瞬発力ゲーム ピコピコもぐら・かえってきたピコピコもぐら(動画あり) これは光るボタンを素早く押す、もぐらたたきのようなげーむです。 【子供に与える効果】 以前記事にした眼球運動のトレーニングや素早い目と手の協調性なども養うことができます。また、光るボタンの位置と自分の手の位置を把握する空間認識やボディイメージ、運動イメージも非常に必要なゲームです。 […]
[…] では、分析してみましょう。 【子供に与える効果】 ・目と手の協調動作の促し ・指の身体図式、身体イメージを養うことができる。 […]
[…] 【子供に与える効果】 ・目と手の協調を促すことができる。 […]
[…] ・目と手の協調動作の促し ・手の動きを学習、運動発達の促し ・両手動作の促し […]
[…] ・目と手の協調動作の促し・空間を把握する能力、図形を構成する能力を養うことができる・指の身体図式、身体イメージ、運動イメージを養うことができる。・注目、集中する注意力や適切な情報を選別する注意機能を促すことができる。・作り方や手順、縫い方などを覚える記憶する力を養う・裁縫のスキルアップ! […]
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