感覚に敏感さを持つ子どもの中で、その敏感な感覚から能動的に感覚をさけようと行動する特性を「感覚回避」と言います。
この特性を持つ子どもは、特定の刺激に対して敏感に反応し、時に不快感を感じてその感覚から逃げようとします。
刺激の変化をあまり好まず、同じ感覚を好み安定を図ろうとします。それが時にこだわりに見えてしまうこともあるのです。
この「感覚回避」の特性を持つ子どもをどのように支援したらよいのでしょうか?
感覚の観点から具体的な支援方法を紐解いていきましょう。
今回は「あそび」に焦点をあてて解説していきます。
あそびを感覚から支援する
聴覚からの支援
音のボリュームや種類をコントロールできる玩具を使う
音楽や音を出すおもちゃを使用する場合、音量を調整できるものや、刺激的でない柔らかい音が出るものを選びます。子どもが自分で音量を操作できると、安心感が得られます。
例: 電子ピアノで、音を極小に設定できるものや、自然音を再生するスピーカー。
ゲームや遊びに静かな音を取り入れる
風鈴のような落ち着いた音が出るおもちゃや、木製の玩具など、優しい音が出る道具を使って遊ぶことで、子どもの聴覚をリラックスさせることができます。
例: 木製のシロフォンや、鈴の音が優しく鳴る手作りのガラガラ。
聴覚を刺激しない遊びの時間を確保する
聴覚刺激が少ない活動を計画し、無音または限られた音の中で遊ぶ時間を設けます。絵を描く、粘土遊び、またはブロックを積むなど、静かに集中できる遊びが適しています。
例: 砂遊びや、水を使った遊び(適度な音しかしないもの)。
音を遮断するだけでなく、心地よい音を提供する
完全に音を排除するのではなく、子どもが心地よいと感じる音楽や環境音を提供することで、不快な音をマスキングできます。心地よい音に焦点を当てることで、周りの不快な音を気にしなくなることがあります。
例: 穏やかなクラシック音楽や、海の波の音が流れる部屋で遊ぶ。
音が少ない環境でのグループ遊び
他の子どもたちと一緒に遊ぶ際に、静かな活動を一緒に行えるようにします。絵本の読み聞かせやパズル、ブロック遊びなど、みんなで静かに取り組む活動は、聴覚的に過敏な子どもにも参加しやすいです。
例: 絵本を静かにみんなで見る「お話の時間」や、低音のヒーリングミュージックを流しながらブロック遊びをする。
適度なヘッドホンやノイズキャンセリングデバイスの使用
耳栓に加えて、ノイズキャンセリングヘッドホンや音量を調整できるヘッドホンを使い、子どもが自分にとって心地よい音環境を自ら作り出せるようにします。これにより、聴覚的な安心感が得られます。
例: 周囲の音を程よく遮断するヘッドホンをつけて、お気に入りのリラックス音楽を聴きながら遊ぶ。
プレイエリアの音響環境を調整する
プレイエリアの床や壁に吸音材を使用し、反響音や騒音を減らします。これにより、子どもにとってより静かで安心できる空間を作り出すことが可能です。
例: 防音カーペットや吸音パネルを設置し、音の反響を最小限に抑えたプレイルーム。
視覚からの支援
余計な視覚刺激を排除する
遊ぶ場所には、できるかぎり何も置かないようにしましょう。
また、散らからないように使わないおもちゃはすぐに片づけます。片付けを行うときは、視覚におもちゃが入らないよう、扉のついた棚や戸棚にしまうようにしましょう。
あそぶおもちゃは、ひとつだけに限定するとさらに効果的です。
遊び場所の光の調整
強い光やまぶしい照明は視覚過敏の子どもにとって負担になることがあります。柔らかい間接照明や、自然光が穏やかに入る場所で遊ぶようにします。また、必要に応じて光の強さを調整できる調光式の照明を使用することも有効です。
例: 部屋にカーテンを引いて光を柔らかくしたり、ライトを間接的に使ってまぶしさを軽減した遊び空間を作る。
色味を抑えた遊び空間のデザイン
カラフルなインテリアやおもちゃは視覚的に過剰な刺激となる場合があります。視覚過敏の子どもには、淡い色や中性的な色合いを基調とした空間やおもちゃを提供し、視覚的な負担を軽減します。壁や家具の色も、落ち着いた色調にすることが効果的です。
例: 白やベージュなど、優しいトーンのカーペットや壁紙を使った部屋で遊ぶ。
シンプルな形状の玩具を選ぶ
視覚的な刺激を抑えるために、シンプルな形状の玩具を選びます。派手な色や複雑なデザインの玩具は避け、基本的な形状と落ち着いた色調のものを選ぶことで、子どもが過度に視覚に引き込まれることなく遊べます。
例: 白や木目調のおもちゃや、単色でシンプルな積み木など。
視覚的に区切られたスペースを提供する
遊び場所を視覚的に区切ることで、子どもが一度に見える情報を減らし、集中力を高めます。仕切りやスクリーンを使って、子どもが遊ぶスペースを限定的にし、過剰な視覚情報を遮断します。
例: プレイマットや仕切りを使って、遊ぶスペースを明確に区切る。
テクスチャや素材感を考慮した遊び環境
テクスチャや素材感の違いによっても視覚的な負担が生じることがあります。光沢の強い素材や派手なデザインのものは避け、マットな質感や自然素材を使ったものを提供します。
例: 木製のおもちゃや、布製のシンプルなおもちゃ。
視覚刺激の少ない外遊び場所を選ぶ
視覚的に過剰な刺激のない、自然豊かな場所や落ち着いた公園で遊ぶことで、視覚的負担を軽減できます。緑豊かな環境や、シンプルな空間で遊ぶことで、リラックスした時間を過ごせます。
例: 静かな公園や、自然散策ができる場所での遊び。
固有受容覚・前庭覚からの支援
遊びに予測可能性を持たせる
運動活動に予測可能なパターンを持たせることで、子どもが動作の流れに慣れ、安心感を得られるようにします。ルーティンに沿った遊びや活動を行うことで、不安を軽減しやすくなります。
例: スタート時に必ず同じ準備運動を行い、遊び終わる前に必ず同じ終わり方をする(例:ストレッチで始め、ストレッチで終わる)。
ゆっくりとした動きやリズムを活用
運動活動の際、急な動きや速い動作を避け、ゆっくりとしたリズムで体を動かすようにします。これにより、過剰な前庭覚への刺激を抑え、安心感を持って動けるようになります。
例: ゆったりとした音楽をかけて、それに合わせて体を左右に揺らすリズム遊び。
小さな動きから始め、大きな動きに移行する
大きな動作や体を激しく動かす前に、座ってできる小さな動作から始め、徐々に少しずつ動きの範囲を広げるようにします。これにより、突然の動きに対する不安を軽減できます。
また、座ってできる遊びを推奨し、できたらほめるとよいでしょう。
例: 手だけを動かす軽い動作(例:ボールを手で転がす)から始め、ゆっくりと立ち上がって大きなボールを転がす動作に移行する。
安定したサポートを提供する
子どもが動きの際に不安定さを感じないよう、物理的なサポートを提供します。たとえば、手を支える、背中を軽く押さえるなど、体を安定させるサポートを行うことで、子どもが安心して動けるようになります。
例: バランスボールや揺れる遊具を使用する際に、大人が背中や肩に軽く手を置いてサポートし、安心感を与える。
遊びの間に定期的な休憩時間を設ける
運動活動の途中に、意識的に定期的な休憩を挟むことで、子どもが疲れすぎたり、感覚的な負担が増えるのを防ぎます。特に、動きを要求する遊びの間には静かな時間を取り入れます。
例: 短い運動のあとに、座って本を読む時間や静かな音楽を聴く時間を挟む。
安定感のある動作や運動具を選ぶ
安定した動作や、安全に体を動かせる遊具を使用することで、前庭覚への刺激を最小限にします。揺れたり跳ねたりする遊具は避け、ゆっくりと動く遊具を選びます。
動きのある遊びには、決まった動作や繰り返し動作があるものを選択するとよいでしょう。
例: ゆっくりと前後に動くロッキングチェアや、座りながら軽く押すと動く滑らかな乗り物など。
触覚からの支援
選べる触覚刺激の範囲を広げる
触覚回避の子どもが自分で好む素材や感触を選べるように、さまざまな触感の物や道具を用意します。子どもが触りやすいものを自ら選ぶことで、感覚的な負担を減らします。
例: ぬいぐるみ、ビーズ、布、ゴムなど異なる素材のおもちゃや道具を揃えて、子どもが自分の好きな感触のものを選んで遊べるようにする。
優しい感触の遊具を選ぶ
柔らかい素材や滑らかな感触を持つ遊具を選び、子どもが不快に感じにくい環境を作ります。触ることが心地よいと感じられる素材を使用することで、触覚に対する不安を和らげます。
例: シルクのスカーフ、ふわふわのクッション、柔らかいスポンジボールなど、肌に優しい素材を使った遊具を提供する。
洗浄や拭き取りがすぐにできる準備をする
触覚回避の子どもは手や顔が汚れることを非常に嫌がることがあります。汚れた際にすぐに手や体を拭いたり洗ったりできるように、濡れタオルやウェットティッシュを手元に用意しておくと、安心して遊ぶことができます。
例: 手で触る遊びをする際に、すぐに拭けるようにウェットティッシュをそばに用意しておく。
着替えや保護具の利用
子どもが遊びや活動中に服が汚れたり、直接肌に触れる感触を避けたがる場合、簡単に着替えられるエプロンや作業着を準備し、汚れや不快感を最小限に抑えます。また、触覚的に敏感な部分(手、腕、足など)をカバーできる衣類やアクセサリー、手袋などを提供します。
例: 塗り絵や粘土遊びの際に、長袖のエプロンやスモックを着せることで、肌に触れる感覚を和らげる。
柔らかい素材の敷物を利用する
床や座る場所の触覚刺激を軽減するために、柔らかいカーペットや敷物を使って、子どもが安心して座れる空間を作ります。特に硬い床は触覚過敏の子どもにとって不快なので、触り心地の良いものを選びます。
例: 厚みのあるラグやクッションマットを敷いて、子どもが座ったり遊んだりする際の触覚刺激を減らす。
一度に触るものを限定する
複数の感触を同時に感じることが子どもにとって負担になる場合があります。遊びの際、一度に触るものや使う物の数を制限することで、過剰な刺激を避けます。
例: 粘土遊びでは、最初に少量だけを使わせ、複数の道具を一度に出さないようにして、子どもが自分のペースで触覚に慣れる時間を持つ。
予測可能な活動を行う
触覚に敏感な子どもは、何が触れるか予測できない状況に不安を感じることがあります。どのような触覚刺激があるかを事前に説明し、予測できる活動を行うことで、不安を和らげます。
例: 「これから柔らかいスポンジで遊ぶよ」「この絵の具は水で簡単に洗い流せるから安心してね」などと、具体的に説明してから活動を始める。
嗅覚からの支援
無香料のおもちゃや遊具を選ぶ
使うおもちゃや遊具、素材に香りがついているものは避け、無香料のものを使用します。特に、プラスチックやゴム製のおもちゃは独特の匂いがあることが多いため、香りの少ない素材を選ぶことが重要です。
例: 無臭の木製や布製のおもちゃを選び、化学的な匂いが少ない安全なおもちゃを提供する。
香りがないまたは低刺激のクリーナーを使う
掃除や消毒を行う際、強い香りのするクリーナーや消毒液を避け、無香料または低刺激のクリーナーを使用します。これにより、空間に残る匂いを軽減し、子どもが安心して遊べる環境を整えます。
例: 無香料のアルコール消毒や、自然由来の低刺激クリーナーを使用して遊び場を掃除する。
空気の流れを良くする
換気をしっかり行い、室内の匂いがこもらないようにします。特に遊びの前後で窓を開けて空気を入れ替えることで、子どもが敏感に感じる匂いを最小限に抑えます。
例: 遊び始める前に部屋を十分に換気し、空気清浄機を使用して室内の空気を清潔に保つ。
遊び場周辺の香りを制限する
遊び場の近くで香りの強いもの(芳香剤、アロマ、香りつきキャンドルなど)を使用しないようにし、嗅覚への刺激をできるだけ減らします。特に室内では、無意識に使われている香りのものを見直します。
例: 遊び場やプレイルームでは、芳香剤やアロマを使用せず、空気清浄機を使って匂いを抑える。
外遊びの環境を調整する
外遊びを行う際、特に季節や環境によって匂いの変化が大きい場所では、子どもが敏感にならないようなエリアを選ぶか、無理に香りの多い場所で遊ばせないようにします。例えば、強い花の香りがする公園や、芝生の匂いが強い場所を避けます。
例: 匂いの少ない砂場や木陰のスペースで遊ばせる。
まとめ
これらの支援は、触覚過敏の子どもが安心して遊べる環境を整え、触覚的な不快感をできる限り減らすための工夫です。子ども自身の反応を見ながら、どの支援が最適かを調整し、心地よい触覚体験を提供することが重要です。
コメント