意味性認知症と自閉スペクトラム症には共通する症状が多く報告されています。ここでは、これらの疾患の症状を比較し、共通点を明らかにします。
この共通点を考えると、自閉症スペクトラムの症状の要因となっていることが、明らかになるのです。
意味性認知症とは?
進行性の意味記憶障害を主とした神経変性疾患です。進行性とは症状が進行していきます。意味記憶とは、言葉の意味とか知識を記憶する能力をさします。それが障害されるのが意味性記憶障害。その原因となるのが、神経変性、つまり脳の細胞が変化することで引き起こされるわけです。
自閉スペクトラム症とは?
自閉スペクトラム症は先天性の発達障害で、主に以下の症状が見られます:
・コミュニケーションの質的な低下
・社会性の低下
・常同行動(同じ行動を繰り返し行う)
・強いこだわり
・感覚の過敏さや鈍感さ
このふたつの病気に共通していることってなんだろう?
大人で起こる意味性認知症と発達期にみられる自閉スペクトラム症、この二つの疾患で共通している部分を書き出してみましょう。
行動面の共通点
一方的な話し方
・自閉スペクトラム症
興味があることを一方的に話し、相手の反応や意見を気にしない。
・意味性認知症
同様に、相手の感情や思考を共感することが苦手で、社会性の低下が見られます。
こだわり
・自閉スペクトラム症
興味のあることに没頭し、自分が決めた行動に強いこだわりを見せます。
・意味性認知症
同様の行動パターンが認められています。
興味があることに没頭する、自分が決めた行動にこだわりをみせる。
認知面の共通点
認知面とは、外部環境からどうやって情報をえるのか、情報を処理するのかといった頭の中の働きのことをいいます。
言葉や物の細部へのこだわり
・自閉スペクトラム症
単語一つ一つにこだわり、会話全体を把握するのが難しい。物に対しても、細かい部分に注目し過ぎるため、全体の意味を理解しにくくなる。
・意味性認知症
例えば、患者は白いプラスチックのしゃもじは「しゃもじ」と認識できますが、木製の茶色いしゃもじは認識できません。このように、形や色に過度に反応し、本質的な意味を理解しにくくなります。
こだわりや社会性の低下の原因は、細部へ注目しすぎてしまうこと
同じものだけど、違う物
上記でしめしたしゃもじの例を改めて考えてみましょう。
しゃもじはごはんをよそるときにつかう道具ですから、いろいろな形や色はあれども、その道具がもつ本質は変わりません。
しかし、細部にこだわりすぎてしまうと、しゃもじがもつ本質的な道具の意味ではなく、
・形
・大きさ
・色
といった具体的なことに過度に反応してしまいます。
その結果、違う色や形はしゃもじではないと判断してしまうのです。
木のスプーンと鉄製のスプーン
別の例で考えてみましょう。
おなじ食物をすくって食べる道具という本質、属性は同じですが、色や形は違いますね。でも、私たちは同じスプーンであると認識できます。でも、細部にこだわるとちがうものとして認識してしまいます
つまり、カテゴリー分けや抽象的に考えることができなくなるのです。
これが、「こだわり」の原因のひとつと考えられます
こういった全体が読み取れないと、文脈を読み取れない、ものごとを関連付けてかんがえることが難しくなります。下の記事に続きます。
場面や文脈の理解の困難と情報処理のちがい
・自閉スペクトラム症
会話をするときに通常ですと言葉の意味を理解しつつ、全体を意識しながら内容を把握しているが、会話の全体を把握できず、場面や文脈を読み取るのが難しくなる。
・意味性認知症
同様の症状が現れる。それは、状況把握にも起こりうる。例えば、「日中に家にお父さんがいる」状況を見て、関連付けて考えることが難しくなります。これにより、「仕事を休んでいるのかな」「具合が悪いのかな」といった想像ができなくなります。
ものごとを関連付けることができないと、「日中」、「お父さん」、「そこに(家に)いる」というばらばらの状況把握しかできず、いろいろな想像や思考の選択ができなくなってしまいます。
これによって相手への配慮に欠ける行動だとか、相手の感情に共感できないとか社会性の低下が起こってしまいます。
自閉症スペクトラムの症状である「社会性の質の低下」は、細部に注目しすぎてしまい、会話の全体を把握できなかったり、物事を様々に関連づけて考えることが苦手であることから引き起こされています。
情報処理のちがいが、症状となって表れているのです。
まとめ
コミュニケーションやこだわり、社会性の低下は、情報処理の仕方から引き起こされる可能性があります。意味性認知症と自閉スペクトラム症に共通点があるということは、両方とも脳の機能が原因で引き起こされていることを示唆しています。
特に細部に注目しすぎてしまうこと、これによって自閉症スペクトラム特有の社会性の低下やこだわりを招いているのです。
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