リハビリ・スポーツにも共通する、運動を作り出すシステムです。
この基本的な知識を応用すると、遊びの分析や子どもの運動を分析しやすくなります。さらに、スポーツの技術を教えるときにも役に立つなど、実に様々なことにつかうことができます。
このシステムを知るメリットは?
このアノーキンの機能システムを一言でいうなれば、
コツをつかむための、近道
体育でも、スポーツでも、自転車でも。運動を覚える、運動を学習するということは、すなわち「脳の回路」がつくられるということです。
自転車を例に出しましょう。転んで、転んで、うまく乗れない状態がずっと続きますが、ある時急にコツをつかんで乗れるようになります。経験ありますか?
このコツをつかむとは、脳の中の専用回路が出来上がるということです。
今までの練習やリハビリでは、何回も同じ動きを繰り返して覚えていましたが、このアノーキンのシステムを理解することで、イメージを使いながら「より効率よく」学習することができるのです。
練習方法が、激的に変化します。
これだけ押さえればOK 5つのポイント
とても複雑でわかりにくい運動を作り出すシステムですが、重要なポイントだけ5つにしぼってピックアップしてみます。
・感覚を脳が認識する
・認識した感覚の情報をもとに、運動や感覚のイメージを作り出す
・イメージした運動や感覚を記憶しておく(遠心性コピー)
・実際に運動を実行すると、そこから新たな感覚の情報が生まれる
・運動から生まれた感覚の情報と、記憶しておいた運動イメージや感覚とを照合させる
この機能システムをどうやって使う? 分析の具体例
たとえば、こんなお子さんがいたとします。
明らかに飛べるはずがないような遠い距離を「飛べる」と考えています。
この子どもの判断は「結果」です。
この結果を導き出した、その要因は主に「3つ」あります。
・自分の位置と目標地点の距離感覚をじょうずに把握できていない
・自分の体や動きの感覚をじょうずに把握できていない
・あやまった感覚の情報をもとに、運動をイメージしてしまっている
実際に動いている自分の体と脳が感じ取っている自分の体の感覚やイメージにズレが生じているわけです。その結果として、誤った情報をつかって、誤った運動をイメージするため、結果的にあやまった判断をしてしまうということになります。
アノーキンのシステムでいうところの、感覚を読み取るところとその情報をもとに運動を計画するところにエラーがあると考えられます。
したがって、まずは自分のからだから得られた感覚を修正できるような遊びを行う必要があると、判断できます
・トランポリンを使って同じ位置で飛び続ける
・フリスビーやキャッチボールなどで、力加減や距離感を学ぶ
・短い距離から目標物に向かってジャンプする
運動だけではない頭の中の出来事をも推測することができます。
なにか運動を行うときは、運動イメージや感覚のイメージが重要です。
アノーキンの機能システム
感覚を認識する段階
私たちは体中のセンサーから、つねに情報を集めています。目で見たり、音を聞いたり、自分の体の動きを感じたり。生きている限り、感覚の情報は無くなることはありません。そして、脳はその感覚を認識した後、必要な情報をまとめます。
運動のプラン(計画)が生まれる段階
脳が認識した感覚の情報をもとに、今から自分が行おうとする運動の計画を立てます。つまり、運動をイメージするのです。
また、運動を行った結果、どのような感覚が生まれるのかについてもイメージします。
解説画像のあかちゃんでたとえると、「おもちゃ」に手が届いたとき、「おもちゃの硬い感じがする」「音が鳴る」など、どのような感覚が生じるのかを予測しているのです。
作り出した運動のイメージを記憶しておく段階
計画した運動のイメージや結果の予測を頭の中にコピーしておきます。これを、遠心性コピーといいます。
脳から運動の命令が出される段階
計画した運動を行うために、脳から運動の命令が筋肉に出されます。命令は、脳の「運動野」というところから出されます。
運動に伴って感覚が生まれる段階
運動をすると、筋肉の動きを読み取る「固有受容覚」や皮膚からの「触覚」、見ている光景の変化「視覚」など、色々な感覚が生まれます。この生まれた感覚を脳が読み取っていきます。
生まれた感覚と運動の計画が照合される段階
自分が計画した運動のイメージや結果の予測と、運動したことで生まれた感覚を頭の中で照合させます。つまり、自分が思った通りの動きができたのか、予測した通りの感覚が得られたのかを、モニターしているのです。
この照合した結果、予測通り・計画通りに動くことができれば、その運動は完了となります。
補足:運動のプラン(計画)を新たに作り出す
一方で、計画した通りに動かなかった場合、予測した通りの感覚が得られなかった場合は、得られた感覚の情報をもとに、あらたな運動を計画していきます。
自分が行いたい運動のイメージする、結果を予測する
↓
実行する
↓
頭の中で実際の動きとイメージを照合させる
この繰り返しによって、運動を学習していきます。
つまり、効率よく運動学習するためには、積極的に運動のイメージを促していくことが必要なのです。
自分でくすぐると、くすぐったくないのは「予測」しているから。
感覚を予測して、記憶しておく。そして、その結果を照合するという流れを解説しました。
この予測は、自分の運動によって生まれる感覚情報をフィルターするのに使われます。
自分で予測した場合、予測される結果と実際の結果との間の誤差は少ない
一方で他者を含む外から与えられた感覚についてはどうでしょうか。
他者を含む外から与えられた感覚は、予測されたものではないため、実際の結果との差が大きくなる。すると、自分で予測した運動の感覚は弱くなる。
自分で予測したイメージよりも、外からの感覚との差がおおきいため、そっちを優先するということです。これによって、わたしたちは「自分」と「他人」との区別ができているのです。
くすぐりに関して、自分でくすぐった場合は、運動と与えられた感覚の結果に大きな差は生まれません。だから、くすぐったくないのです。
逆に、他人からくすぐられた場合は、その差が大きく、自分の感覚よりも外からの感覚を優先するために、くすぐったく感じるというわけです。
私たちは、人間であると同時に「生物」でもあります。生き物はさまざまな環境の中で生き抜かなければなりません。時には天敵に命を狙われることもあるでしょう。
この環境に適応するために、まずは周囲の環境を把握せねばなりません。それが「感覚」です。この「感覚情報」を使って私たちは行動を作り出し、自分と他者を見分けているのです。
まとめ
今までのリハビリやトレーニング、スポーツの練習では、力が弱いから動かない、上手にできない。じゃあ筋トレをしよう!とか、できない動きは繰り返しやれば覚えることができると、何度も反復して練習する方法がとられてきました。もちろん、それによって結果がでているので、効果があるでしょう。
しかし、「運動」にばかり目が向いて、頭の中でどのように動きをとらえているのか、どのように運動を考えているのかということまでは考えられていなかったように感じます。
このアノーキンの機能システムは、目に見える「運動」を結果ととらえています。その「結果」を導くための「脳の働き」に着目した考え方です。
もし、今までのリハビリやトレーニングで「壁」にぶつかっていたら、この考え方を取り入れてみてください。
あなたの壁に突破口がひらけるかもしれません!!
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