私の小児リハビリカルテ

母が変われば大人だって変われる!成人の高次脳機能障害の症例から。

高次脳,症例,家族支援 私の小児リハビリカルテ

「子育てはいつだって、やりなおせる」

 私がモットーにしている言葉です。
 最近、大人の患者さんではありますが、これを実感する患者さんを担当しました。

 高次脳障害をおってしまったある男性の話です。
 
 *実際に体験した症例をもとに構成していますが、名前や年齢等は架空の症例です。

ある日、突然倒れた男性とそのお母さん

 Fさん(40才)は、その日も元気に仕事に向かいました。一人暮らしでしたから、見送る人はいません。

 いつものように家を出て、仕事に励んでいました。その時、突然意識を失って倒れてしまったのです。

 「脳梗塞」でした。すぐに職場の仲間が救急車をよんで緊急搬送され、入院となりました。

 一命はとりとめたものの、軽い右半身の麻痺と脳にある障害が残りました。

特定の脳の機能が低下する「高次脳機能障害」

Fさんに後遺症として現れた高次脳機能障害は次のようなものです。
・言語障害
(ことばをうまく話すことができなくなりました)

・記憶障害
(道を覚えたり、自分の行動を覚えるのが苦手になりました)

・注意障害
(集中力が落ちたり、自分の周囲や自分の体に注意を払うことが苦手になりました)

・意欲低下
(自分から何かをしようとする意欲ややる気が落ちてしまいました)

 障害は残ったものの、自分で歩くことができたり、身の回りのことはできるようになったので、一人暮らしの自宅に退院したのでした。

 しかし、Fさんは仕事をする気になれず、一日中家の中で過ごすようになりました。外来で通っていたリハビリも拒否が強くなり、やめざるを得ない状況に…

そんな毎日のなかで、退院後にお母さんがFさんにかけた言葉は

母

「もっとしっかりしなきゃダメでしょ」

母

「もっとがんばりなさい!」

これ、しつけでいうところの「過度な期待 教育熱心な母」と同じ心境です。

(しつけのパターンに関してはコチラをクリック→あなたはどのタイプ?しつけのパターン

病気は良くなった。
歩いて自分ひとりで生活もできる。

だから、リハビリをして頑張れば仕事にも復帰できるんじゃないか!

こういった心理状況が「もっとがんばりなさい」という言葉につながったんではないでしょうか

でも実際のところお母さんもまた悩んでいたのです。

子どもの病気がわからない

 歩いて一人暮らしもできている。なのに、働こうとしない。家から出ずにゴロゴロしているばかり。

 お母さんとしては本当にどうしちゃったのかしら。本人の頑張りがたりないんじゃないのか

 子どもの病気が本当にわからない…どうしていいのか、わからない…

 こんな気持ちでお母さんも悩んでいたのです。

気持ちは絶望感へ

 この時の気持ちをお母さんはこのように話してくれました。

母

突然倒れて、動けなくなって絶望でした。

 昨日まで元気に仕事に行っていた息子が、ある日急に病気で倒れて動けなくなりました。
 その後、体の回復はしたものの「脳に障害」が残った状態で退院したのです。

 お母さんの気持ちは「深い絶望感」にさいなまれていたのでしょう。

 しかしながら、子を思う親の気持ちは押さえられず、強めの言葉で本人を鼓舞していたのでした。

お母さんの気持ちを変えるセラピー

 私はこの時点で解決策は「お母さんにある」と確信しました。

 取り組んだセラピーはそう「家族支援」です。具体的には次の二つをまず徹底して行いました。

①お母さんの気持ちに寄り添う

 徹底的にお母さんの気持ちの寄り添う声かけをしました。絶望した当時の気持ちを理解し、それで一生懸命支えたことをねぎらいました。

 お母さんがいるから、息子さんは安心して一人で生活できることも伝えました。

 とにかく、お母さんだって一人で踏ん張ってきたんです。誰かにねぎらってもらったり、慰めてもらったりしてほしかったはず。その気持ちをセラピーしたのです。

②病気の実態を理解してもらう

 高次脳機能障害はなかなか目に見えない脳の病気です。それを「見える化」する必要がありました。

 様々な検査をFさんに行い、数値化することに努めました。特に「意欲の程度」を表す検査は目に見えない意欲ややる気を数字にあらわすことができます。

 検査の結果、前述したとおりFさんは「病気によって意欲が落ち込む」意欲低下という状態を引き起こしていたことが数値で表されました。

 これをもとにお母さんに説明したところこんなことを言いました。

母

本人の性格とかじゃなくて、病気でそうなっていたんですね…。

 仕事に復帰できない、意欲的に行動できない理由が「病気が原因」であるということを、はじめて理解した瞬間です。

リハビリで出来たポジティブな面を説明する

 Fさんは私のリハビリを受けることになりました。そこでは簡単な作業をしたり、右手を使う練習を繰り返し行いました。その中で「出来たこと」にスポットライトを当てて、お母さんに説明したのです。

 お母さんの中で「ひとつひとつ」できることが積み重なっていきます。息子が回復していくことへの「よろこび」につながっていったのです。


 じつは、この支援は順番も大事なのです。なぜなら…

お母さんに気持ちの余裕がないと、病気を説明しても頭に入っていかないから。

 絶望の淵にいるお母さんにいくら病気を説明しても、それを受け止めるだけの心の余裕がないと無理です。

 実際、お母さんは次のような事を言っておられました。

母

入院していた病院では、全然病気の説明をしてくれなかった

 この言葉をうのみにしてはいけないのです。病院では必ず「インフォームドコンセント」、治療方針について必ず患者とその家族の同意を得てから治療を開始するのが決まりです。
 したがって、説明されないことは、まずありえません。そうなると、お母さんに話を聞くだけの余裕がなかったと捉えるのが妥当だと考えられます。

 まずは「心の余裕」をつくる順番が大事なのです。

「絶望」から「よろこび」へ

 このお母さんの心境の変化を考えるうえでわかりやすいツールがあります。

 それが「大井式感性スケール」です

感性,感性スケール
大井先生の感性スケール

(出典:やなせたかし原作 大井静雄監修 アンパンマン育能ドリル

 息子が病気を発症した直後は「レベル5」の絶望感にいました。

 それが、リハビリを進んでいくにつれてできる事が増えていく。気持ちを理解してくれる支援者がいる。その結果「プラスの感性:うれしい、よろこび」に気持ちが変化していったのです。

 感性は支援次第で変化させることができます。支援する側は、家族の気持ちを理解するためにも「見える化」することが大事です

 それにはこのような「感性スケール」がうってつけです

本人を変えた家族の変化

 リハビリを続けていくうちに、お母さんの気持ちは変化し、声掛けの仕方にも変化がありました。

母

無理に声をかけることをやめたんです。

母

本人ができることをやって、できることを認めるようにしました

 お母さんは「息子ができること」に注目するようになり、本人の気持ちに寄り添いながら支えるようになりました。時には厳しいことも言いますが、それ以上に本人の行動を尊重して、一緒に歩みだしたのです。

教育熱心から民主的なしつけに

 あまりにも強い期待をしすぎたことで、Fさんはおおきなストレスを抱えていました。それ以上に「お母さん自身」も期待した結果が得られない状況にストレスを抱えていたのです。

 それが気持ちの変化によって解放されることによって、Fさんの気持ちを尊重できるようになっていったのです。

 まさに「民主的なしつけ」にあるように、息子と話をしながら一緒に回復に向かって進んでいけるようになったのでした。

自分が受け入れられる体験が、息子を受け入れる態度に

 これには大事なステップがあります。それは

「お母さん自身が気持ちを受け入れられる体験をする」

 自分が体験しないと、受け入れられた時のうれしさや安らぎは理解できません。お母さん自身が体験したことによって、自分の息子の気持ちを受け入れる「こころの余裕」がうまれ、寄り添うことの意味や価値を実感できたのではないでしょうか

おおきな変化があった、あるリハビリの日

 ある日のリハビリ、Fさんは大きな変化をふたつもたらしました。

① いつもは迎えに行っても支度が出来ていないが、その日はすべての支度を終えて玄関で待っていた

② 右手を積極的に使うようになった

 Fさんにとっても、お母さんにとっても、私にとっても「おおきな おおきな 変化」となりました。

些細なことかもしれませんが、今まで見られなかった姿を見ることができたのです。

すぐさま、担当の医師に報告です。

医師
医師

リハビリや家族の支えがきっかけになって「意欲」があがってきたのかもしれない。

右手を使うようになったのも「意欲」がひとつの要因だったのではないでしょうか

お母さんと一緒に、喜びを分かち合った日となりました。

まとめ

 現在もFさんはリハビリを継続しています。社会復帰に向けて、仕事ができるように徐々に複雑な作業を行っていけるよう頑張っています。

 お母さんは「ちいさなよろこび」を「おおきなよろこび」として捉えられるようになり、よりいっそう支えてくれることでしょう。

 大人でも「お母さん」の関わり次第で変化することができます。わたしがいつも言っている

子育てはいつだって、やりなおすことができる

改めて、これを実感した症例でした。

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