今回のカルテは、知的障害、発達障害のお子さんです。運動全般の苦手さと手先の不器用さを主な理由としてリハビリの依頼がだされました。このおこさんの初回の評価から遊びの選択や考察までのながれをワークシートを使って解説していきます。
こんな方におススメ!
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・小児リハビリはどんなことをするのか知りたい
・お子さんに合わせた遊びを選びたい
・効果的な遊びを選びたい
・療法士の考え方を知りたい
*この症例は実際の経験を踏まえたうえで作成した架空の症例です。
おこさんの紹介
ここでは仮にCちゃんとしましょう。Cちゃんの基本的な情報です。
・小学校 低学年 女の子
・診断名 知的障害(IQ70~60程度)、発達障害
・経緯
手指の動きや、縄跳びのジャンプなどの運動全般の苦手さを感じたお母さんが専門医を受診し、当院を紹介されました。コミュニケーションは、大きな問題なく、あいさつやありがとうも場に応じて言うことができました。好きな遊びはお絵かきとのこと。
医師の診察やリハビリの場面で、新しいものや慣れていないものをやってもらおうとすると、恥ずかしがって、なかなかやろうとしない様子がみられました。
Cちゃんの初回のリハビリの様子について、いつものように思考回路「ACPLASH:アクプラッシュ」の流れにそってみていきたいと思います。
思考回路「ACPLASH:アクプラッシュ」の記事を読むと、もっとわかりやすくなりますよ!
ワークシートを使って かんがえてみよう!
ちなみに、今回はワークシート付です。実際のリハビリや療育場面でも使えるように、記述式のワークシートを作ってみたので、それをもとに解説していきます。
ワークシートで考えると簡単! 3つのステップ
ものごとの点と点を線で結ぶ作業を、頭の中だけで行うには、つねにその考え方を意識していなければできません。つまり、ある程度、思考にも訓練が必要なわけです。
しかし、自分の頭のなかの思考を「見える化」することで、客観的にものごとをとらえることができます。このワークシートは、簡単な3つのステップで、あなたの思考を見える化することができます。
ワークシートは、図のような構造になっています。
ACTION | 行動や反応をありのままに書きます。 |
PLAY | どのような遊び(訓練)を行うか、もしくは行ったのかを書きます。 |
ASSESSMENT | どのようなことを知りたいのか、どのような検査や評価を行う、もしくは行ったのかを書きます。 |
HYPOTHESIS | わかったことや観察されたことから、仮説を立てます。推測したことを書きだしてみましょう。 |
今回のワークシートには、「WORRIES:心配事」と仮説を次につなげるための項目を追加しています。
では、Cちゃんのリハビリについて、ワークシートを使いながら解説していきましょう!
ワークシートを用いた リハビリ解説
STEP① 行動と心配事(ACTIONとWORRIES)
ステップ①は、「ACTION」です。お子さんの気になる行動や反応をかきます。また、困りごととして挙がっていることを書いても良いでしょう。
Cちゃんのお母さんは、運動全般や手先の動きを気にしていました。そして、そのなかで特に気になったのが、
「普通のお箸が使えない」
「周りの子は使えるのに、うちの子だけ使えないんです。」
ちなみに、私が気になったのは「とにかく恥ずかしがる」です。なにをするにも恥ずかしがって、さいしょは「いや!」から始まります。やってしまえば、普通にできるんですけどね…。なぜでしょうか?あとで仮説を立てます。
さて、ここからどんなあそびやアセスメントをすればよいのでしょうか?
STEP② あそびとアセスメント(PLAYとASSESSMENT)
ステップ②では、どのような遊び(訓練)を選択したのか、どのようなことをしりたいのか(評価、検査)を書きます。
あなたは、どんなあそびを選択しましたか? あたなは、なにをしりたいのですか?
考えがまとまったら、まずは実行してみましょう!
実行したことで、見えてきたことやわかったことがあるはずです。すかさずにそれを記入しましょう。たくさんになってしまってもかまいません。
Cちゃんには、体全体の動きをみるためのトランポリンやサーキット遊びを行いました。また、手先の動きやお箸につながる指先の発達を見るために、好きなお絵描きやなぞり書きを行いました。
さらに、指先の力をみるために洗濯ばさみをつまんでもらう遊びを実施しました。
その結果、トランポリンでは飛ぶタイミングが合わずにバランスを崩したり、空中で姿勢を崩す様子がみられました。また、体の使い方や動かし方にぎこちなさがありました。
一方、指先の動きに関しては、親指、人差し指、中指の3本で鉛筆やペンを持つことが出来ていました。三本の指の動きを使って鉛筆を操作することも出来ていました。ですが、ひらがなは書くことが出来るが、大きさのバランスをとることが苦手で、線を描と、ぐにゃぐにゃした線になってしまう時もあります。
※見やすくするために、参考図には一部しか記載していません。
わかったこと、みえたことを書くときは、自分の推測を入れずありのままを書くのが、コツです!
STEP③ 仮説を立てる(HYPOTHESIS)
観察ができたら、そこから推測できることを出来る限り上げていきます。
正解 / 不正解は ありません!
ここでは、出来る限り自分が思いついた推測でかまいません。なんでも記入してください。
考察とは?
ここで重要なポイントがもう一つあります。それは、経験則で考えたことと科学的な根拠があることを明らかにすることです。
リハビリの世界では「考察」という言葉をよく使います。本来の考察とは、科学的な知見に基づいて、自分が観察したことがどのように関係しているのか、論文に書かれている結果と比較したりすることをいいます。ですので、観察結果や検査の結果をまとめた場合は、「考えのまとめ」です。
「考えのまとめ」から推測したことなのか、それとも科学的に根拠があることから「考察」したことなのか、しっかり見極めましょう。
Cちゃんの場合、トランポリンやサーキット遊びの中では、バランスを保つことが出来なかったり、体の使い方にぎこちなさがあったりすることから、上手く自分の体の動きをイメージ出来ていないと推測しました。だから、新しい遊びに不安を抱き、恥ずかしいという表現でごまかしている可能性が考えられます。
一方、指の動きについては、親指・人差し指・中指の三本の指でもつことが出来ており、かつ動きを出せることから、いわゆる「動的な三指握り」を行える程度に手先が発達していると推測されます。また、四角形をなぞり書き、模写が可能でした。
文献によれば、
・標準的な持ち方において、特に開閉する側の遠箸には、親指、人差し指、そして中指の3指が用いられる。
・4歳前後のころには四角の模写ができるようになり、そのころから箸の持つ位置も変化する。
と報告されていることから、次のことが考えられます。
普通のお箸が、もてるんじゃないか?
結果は果たして?
この結果をもとに、お箸の使い方や指先の動きをみるために、あらたな「PLAY:あそび」を考えました!
・パペット人形にご飯をあげる ごっこあそび
その結果は?
Cちゃんは親指、人差し指、中指をつかって、普通のお箸をもつことができました。そして、そのお箸をつかって、ご飯にみたてた小さな消しゴムをつかんだのです。
みごと、パペットにお箸でご飯をあげることができました!その楽しそうな表情といったらありません。
もちろん、持ち方については、まだ大人のような持ち方はできないため練習が必要であるもの、実用的に使える程度の持ち方はできました。また、丸いものや滑りやすいものは、まだうまく把持することが出来ませんが、さきの小さな消しゴムのような角ばったものや滑りにくいものは、持つことができました。
パペットに食べさせるというあそびにしたこともありますが、普通の箸を使ってもらっても、恥ずかしがったり嫌がる様子はなく楽しんで遊ぶことができました!
出来るという自信をもってお箸を使ったことで、恥ずかしさや不安もなくなったんですね。
お母さんの反応です。
普通にお箸がもてるんですね!
今日から、しつけ箸を使うのをやめて、普通のお箸にします!
ACTION:行動 が変化した!
お子さんの実態把握と適切なリハビリテーションによって、行動を短時間で変化させることができました。
逆の視点から物事をみてみよう
Cちゃんは、わたしのリハビリを受けるまでしつけ箸を使っていました。時々、お箸の練習をすることはあったみたいですが、うまく使えなかったのであまりやらなかった様子。
これが、逆に功を奏したとも言えます。
もし、お母さんが無理に箸の練習を進めていたら、お箸の練習が嫌になってしまっていたかもしれません。しつけ箸を使い続けたことによって、ネガティブな感性が育つことなく、お箸に対しては抵抗なく練習をすることができました。
また、結果的には手の発達をしっかり、じっくりと待つことができ、スムーズにお箸を持つことができるようになったと考えられます。
その時の判断で、その時にできることを精一杯やれば、結果としては良い方向に結びつきます。
結果オーライ!! 子育てに、失敗はありません!
あなた自身の判断を信じて、大丈夫!!
まとめ
今回は、しつけ箸を使い続けたことによって、お箸を持つタイミングを逃してしまったということが考えられます。
逆に言えば、とても良いタイミングでリハビリを受けることができたとも考えられます。お母さんの直感というか、行動に移すタイミングはいつでも神がかっていますね。驚きます。
お母さんが箸の持ち方や手の発達について、詳しく知らないのは当然です。それでよいのです。
だからこそ、専門職がいるのですから。
ワークシートはしばらく無料でダウンロードできるようにしておきます。もし、考察や考えがまとまらないときは、だまされたと思って使ってみてください。頭の中が整理できて、患者さんのリハビリに活かせますよ!
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