もっと知りたい小児の知識

愛情の器を満たす支援とは何か【前編】― 年齢別対応と基本の声かけ ―

もっと知りたい小児の知識

愛着障害の支援において、
もっとも陥りやすい誤りは

「どうやって行動を変えるか」

から考えてしまうことです。

しかし、第3回で整理したように、
愛着障害とは

愛情が不足している状態ではなく、
愛情をため、使い、調整する学習が成立していない状態

でした。

つまり必要なのは、
行動修正ではなく

愛情の器が満ちる経験の再学習です。

本稿では、そのための基本原則と年齢別支援を整理します。


1.支援の順番を間違えない

❌ よくある支援の順番

  1. ルールを徹底する
  2. 約束を守らせる
  3. 行動を評価する
  4. 反省させる

これは前頭前野中心の支援です。

しかし、愛着障害の子どもでは

  • 扁桃体の過敏性
  • 安全感の不安定さ
  • 情動の急激な高まり

が先に存在します。

情動が荒れている状態で
認知的統制を求めるのは、
空の器に「ちゃんと使いなさい」と命じることに等しいのです。


✅ 正しい順番

  1. 安全をつくる
  2. 感情を受け止める
  3. 関係は切れないと示す
  4. 落ち着いてから行動を整える

この順番が崩れると、
支援は不安定になります。


2.愛情の器を満たす「基本の声かけ」

ここでは全年齢共通の原則を整理します。


① 感情を先に言語化する

例:物を投げたとき

❌「なんでそんなことするの?」
❌「ダメでしょ!」

⭕「悔しかったんだね」
⭕「思い通りにならなくて腹が立ったんだね」

これは行動の肯定ではありません。
情動の存在を認めることです。

情動が言語化されると、
神経系は徐々に鎮静します。


② 行動と人格を分ける

❌「あなたは乱暴だ」
⭕「叩く行動は困る」

人格への攻撃は、器に穴を開けます。
行動の修正は可能でも、
自己否定は回復を遅らせます。


③ 関係は切らないと明示する

「でも、先生はあなたを嫌いにならない」
「怒っても、味方だよ」

これは甘やかしではありません。
安全基地の再学習です。


3.年齢別支援


🔹 幼児期(3〜6歳)

特徴

  • 情動調整は他者依存
  • 身体感覚が重要
  • 言語理解が限定的

支援原則

  • 声のトーンを一定に保つ
  • 身体距離を近づける
  • 長い説明をしない

具体例

【場面】順番を待てず押してしまった

❌「順番守れないなら帰るよ」
⭕(抱き寄せながら)
「待つの、むずかしかったね」
(落ち着いてから)
「順番は守るよ」

👉 幼児期では「理解」よりも
「落ち着く経験」を優先します。


🔹 学童期(7〜12歳)

特徴

  • 試し行動が増える
  • 表面的な反抗
  • 自己評価が揺れる

支援原則

  • 公の場での叱責を避ける
  • 1対1の時間を意図的に作る
  • 小さな成功を強調する

具体例①:宿題拒否

❌「いつやるの?」
⭕「やりたくないくらい疲れてる?」
(間を置く)
「10分だけ一緒にやる?」

👉 器が満ちると、行動は後からついてきます。


具体例②:嘘をついた

❌「嘘つき!」
⭕「本当のこと言うの、こわかった?」

嘘はしばしば、
関係を守るための防衛です。


🔹 思春期

特徴

  • 無関心を装う
  • 過剰な自立
  • 感情否認

支援原則

  • 詮索しすぎない
  • 選択肢を与える
  • 尊重を前面に出す

具体例

【場面】「別に」と返す

❌「ちゃんと話しなさい」
⭕「話したくない日もあるよね」
「話したくなったら聞くよ」

👉 思春期では
「尊重される経験」そのものが器を満たします。


4.やってはいけない関わり(前編まとめ)

  • 条件付きの愛情
  • 他児との比較
  • 罰での統制
  • その場しのぎの過剰な優しさ

これらは一時的に従わせても、
器は満ちません。


まとめ

愛着障害の支援とは、

  • 行動を変えることではなく
  • 安心を積み重ねること

です。

器が満ちれば、
自己制御はあとから育ちます。


後編では、

  • 試し行動がエスカレートした場合
  • 攻撃が続くケース
  • 無関心・鈍麻の長期例
  • 養育者面談での具体的やりとり
  • 支援者が感情的になった場面の修正

までを扱います。

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