みなさん、読み聞かせってしていますか?
我が家では、子供たちがまだ小さい時は、寝る前に本を読んであげていました。
その時に読んでいたのは、保育園から借りてきた本や無料配布されていたボノロンという絵本です。ボノロン長男が好きで、よく読んでいました。懐かしい…。
さて、今回は読み聞かせが子どもに与える効果について、いくつかの論文をもとに紐解いていきたいと思います。読み聞かせの効果によって、ときに子どもは障害をも越える力を発揮します。記事の最後にその体験もお話しますね。
では、どうぞ
読み聞かせの価値
・文字などに対する関心を高める。言葉の理解や表現する力を養う。
・実際の体験と言葉を結び付けて、実体験をより豊かにしていく。
・相手の話す言葉を聞こうとする意欲や態度を育て、友達同士とのコミュニケーションを促す。
・絵本や物語を聞くことで、想像力やイメージする力を養う。
・親子のスキンシップとなり、安心感・愛情を育む。
このことからもわかる通り、読み聞かせは決して「言葉」だけではなく、感覚・関心・感情・コミュニケーションなど様々な発達と密接に関係していると言われています。
これらの価値について、研究結果などを踏まえながら解説していきましょう。読み聞かせの驚くべき効果がわかりますよ!
文字などに対する関心を高める。言葉の理解や表現する力を養う。
絵本には、色々なバリエーションの本がありますね。絵だけのものもあれば、文字が書いてあるもの、仕掛けがあるものなどなど。いずれも共通していることは、言葉を読んで聞かせるということです。つまり、聞く力(聴覚)を養うわけです。文字がついていれば、音と文字の形をマッチングさせることもできます。「絵本を媒介にして幼児の言葉のもつ意味やイメージを育てる」と報告する論文もあります。
読み聞かせには学習効果がある!
ある調査では、読み聞かせと学習との関係において「言葉を覚えられた」「文字を早く読むことができる」といった回答が得られ、子ども自身も学習と絵本の読み聞かせが結びつくことを自覚していると考えられています。
さらに別の研究では、読み聞かせを積極的にした子どもと消極的であった子どもの学力を調査したところ、
読み聞かせを積極的にした子どものほうが、
小学生については国語B問題、算数B問題、中学生については国語A問題・B問題の正答率を有意に高める結果が示された。
と報告されています。
つまり、言葉を知っている語彙力、言葉を理解する読解力などが、こういった学習をするうえで影響を与えていると考えられます。
実際の体験と言葉を結び付けて、実体験をより豊かにしていく。
絵本や物語は非現実的なこともあれば、現実的な内容のものもあります。
小児リハビリでは、自分の体に入ってくる感覚、自分の行動、そして感情を言葉にして子どもたちに伝えるということを積極的に行います。
つまり、物語や絵本の内容やでてきた言葉と実体験を結び付けることができると考えられます。
物語を聞いて、自分の実体験を想像したりすることで、さらに次に起こりうる体験を、言葉で表現できるようになったりと、実体験がどんどん豊かになっていきます。
ちょっとたとえがちがうかもしれませんが、「英語」を覚えるとき、実生活を想像したり結び付けたりして言葉を覚えますよね。さらに、英語が理解できると、英語で書いてあることが理解できる、英語の映画がわかるなど、世界が格段に広がった感覚を覚えると思います。
きっと、お子さんも言葉が実生活とつながることで、世界が広がる体験をできるのではないでしょうか。
・自分が感じる感覚
・行動
・感情
これら実体験と言葉がむすびつくことで、この先の未来に起こりうる体験を、より豊かにしてくれます。
相手の話す言葉を聞こうとする意欲や態度を育て、友達同士とのコミュニケーションを促す
読み聞かせの効果の一つに「共感し、共同の態度の芽生えを培う」と報告されています。
またある研究では、読み聞かせの途中でその内容に関する質問を行ったところ、4歳ごろから他の児童が話す内容に誘発される発話が増え、5歳になると他の児童の発語に対して、自ら発話を返しながら内容が発展していくと報告しています。また、5歳ころでは集団での読み聞かせのマナーを心得た態度もみられると報告されています。
絵本を通して、お友達の話に共感する、話し合う、笑いあうといった体験をすることができ、共感性や友達を意識することを養えると考えられます。
ADHDや自閉症スペクトラム症のお子さんにも良い影響がある
ADHDは繰り返し読み聞かせることが有効
ある研究で、ADHD児に対して「連続して2回読み聞かせる」ことを行ったところ、1回目よりも2回目のほうが感情表出が多く認められ、初めて面白いと捉える反応も認められたと報告しています。
つまり、1回目の読み聞かせがあることで、絵本のどの部分に注意を向ければよいのか、どこがおもしろいポイントなのかといった情報を整理することができ、2回目はより集中して物語を楽しむことができるということだと考えます。
これを上手に利用することで、注意をどこに向けたらよいのかといった自分の中での情報の整理を養ったり、集中して話を聞くことを養うことができます。
自閉症スペクトラム症は、好きな事に関連した絵本が有効
自閉症スペクトラム症のお子さんは、コミュニケーションの質的な問題があり、他者への関心の少なさや集団活動の苦手さなどがあります。
ある研究では、好きな事に関連した絵本を繰り返し集団で読み聞かせをしたところ、次第に「集団の視線への追従」が見られるようになったと報告があります。
好きな内容の絵本であることによって、みんなと一緒にいる体験ができたこと、読み聞かせという環境は無理なく集団の中に出たり入ったりすることができることによって、他者へ意識を向けるきっかけを作ったと考えられます。
絵本や物語を聞くことで、想像力やイメージする力を養う
物語を聞く力とは、物語という絵に見えない世界を、自分の心の中に見えるようにする、イメージする力と言われています。
このイメージする力を養うには、読み聞かせのみならず、絵本の内容に関する質問やコメントといった、読む側と聞く側の相互作用と関連が認められています。また、適切な質問は、読み聞かせをより楽しむことを促進することにつながることが報告されています。
つまり、読む側が子どもたちに働きかけることがイメージを養うために必要だと考えます。
親子のスキンシップとなり、安心感・愛情を育む
ある調査によれば、読み聞かせが自分にとって良い影響を与えたその要因の一つに、次のような自由回答(自由に意見を述べる)が得られています。
それは、
「母とのいい思い出」
親子関係と読み聞かせについては、様々な研究によって明らかにされており、読み聞かせのよってさまざまなコミュニケーションが生まれることが、親子の絆を深めると言われています。
ここで読み聞かせと親子関係について印象的な文章を紹介します。
読み聞かせということは、大人の子どもに対する愛情の行為であり、子どもにすれば、愛されていることの喜びを感じるひと時なのです。読み聞かせは大人と子どもたちの心が目に見えない一本の言葉の意図で結ばれます。絵本を読む大人自身も、あせりや、いまわしい邪念から解放され、純真な子どもと同じ気持ちになり、なんとも言えない幸福な時を持つことができます。
梅本妙子 (1989)
この親子の愛情は、時に障害をも越える力があるのです。
母親とふれあいが障害をも越える
これは大井先生が考案されたスキッパーを使ったリハビリテーション方法の研究からの引用です。(大井式スキッパーについては、コチラ)
3歳の男の子がいました。障害は知的障害、運動発達の遅れ、そして弱視です。
弱視とは、極端に視力が弱い状態であり、お子さん自身は見る事よりも、手の感覚や音を敏感に感じ取って生活していました。
このお子さんに対して、大井式スキッパーを行い、好きな事と興味があることを分析しました。すると次のようなことがわかりました。
好きな事は、「ピアノや音楽を奏でる」と「絵本を見る」の2つ
音楽を奏でる事は、生育歴や病歴から見る事(視覚)よりも、耳(聴覚)が発達していることが理由で好きになったと考えられました。
しかし、「絵本を見る」が好きという結果には驚きました。弱視ですから、見ることが苦手なはずです。どうしてだろう??
絵本を見るという活動には、母親との触れ合いや読み聞かせが含まれていることがわかりました。
つまり、
読み聞かせやスキンシップという、母親との良質な関わりが絵本を見ることに対してポジティブな感性を育んでいったと考えられる
と結論付けました。
弱視という障害があるにも関わらず、それを読み聞かせと母親の愛情によって乗り越えていったのです。その結果、絵本を読むことが好きになったというわけです。
現在(2021年)も、お子さんは変わらず絵本が好きです。最近では、視覚も徐々に発達し、自分で好きな絵本を開いて見ているようです。
まとめ
「絵本の読み聞かせは良い」と、わたしたちは知っています。でも、具体的にどのような効果があるのか、科学的な根拠はどこにあるのか、これを知ることでさらに読み聞かせの意味と価値を実感することができます。
そして、最後に紹介した症例では、お母さんの深い愛情と頑張りによって、お子さんにとても良い効果が得られたことがわかります。実際の症例だからこそ、説得力がありますね。
ぜひ、お子さんと一緒に、絵本を読む時間を作ってみましょう!
引用文献
・梅本妙子 :『ほんとの読み聞かせをしていますか えほんとほいく』.エイデル研究所.1989
・荒木啓史絵本の読み聞かせが、子供の学力を伸ばす――全国学力・学習状況調査からの示唆https://synodos.jp/opinion/education/10862/
・野崎 美衣 他:絵本の読み聞かせ時における挿入質問が幼児に及ぼす影響.とやま発達福祉学年報 10.41-49.2019
・會澤 のはら 他:幼児を対象とした集団における絵本の読み聞かせに関する研究動向.岡山大学教師教育開発センター紀要 第9号 別冊.215-228.2019
・小寺玲音・瀧川光治・玉置哲淳:「保育実践における絵本の持つ意味に関する考察―幼稚園教育要領・保育所保育指針および保育内容「言葉」のテキスト類の比較からみた保育者の役割―」エデュケア 25.31-45.2005
・高橋順子 他: 幼児教育における集団での絵本の読み聞かせ. 埼玉大学教育学部附属教育実践総合
センター紀要(4).165-176.2005
・近藤文里・辻元千佳子:「絵本の選択がADHD児の読み聞かせに及ぼす効果(4)―繰り返し読み聞かせることの意義について―」滋賀大学教育学部附属教育実践総合センター紀要20.9-15.2012
・近藤えみ子・山本理絵:「集団での絵本の読み聞かせを通しての自閉症スペクトラム幼児の発達支援」保育学研究51(3).318-330.2013
・松居直 :絵本とは何か .日本エディタースクール出版部.1973
・文部科学省:「幼稚園教育要領解説」2018
・秀 真一郎:絵本の読み聞かせにおける一考察─感情の有無からくる影響─.吉備国際大学研究紀要(人文・社会科学系)第28号.1−11.2018
・浜崎隆司 他:絵本の読み聞かせがその後の人生に及ぼす影響― テキストマイニング法を用いて ―.鳴門教育大学研究紀要第32巻.86-92.2017
・秋山雄太、大井静雄他:新たな小児リハビリテーションの方法論の提唱-患児の個性趣好及び個性評価(Scale for Kid’s Personality & Aptitude:[Oi-SKiPA versionⅠ.])に基づくテーラーメイド・リハビリテーション-.Journal of kid’s Brain Science.vol1 No.1 66-73.2018
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