はじめに ― サ行が「た」になるのは、なぜ?

「さかな」が「たかな」になったり、「すいか」が「ちいか」になったり。
幼い子どもの発音には、大人から見ると不思議な言い間違いがよく見られます。
多くの場合、こうした発音は成長とともに自然に消えていきますが、
保護者の方や支援に関わる人にとっては、
- これは様子を見ていいの?
- 練習したほうがいいの?
- どうして同じ年でも違いがあるの?
と気になることも少なくありません。
この記事では、1978年に発表された日本の研究をもとに、
子どもの発音の「言い間違い」は、実はとても筋の通った発達の途中の姿である
ということを、できるだけやさしい言葉で解説します。
発音は「1つずつ」覚えているわけではない

大人はつい、
「この音が言えない」「あの音が苦手」
と、発音を一つずつ見てしまいがちです。
しかし研究によると、子どもは音をバラバラに覚えているのではなく、
いくつかの音をまとめた“グループ”として扱っていることがわかってきました。
たとえば、
- さ・す・せ・そ(サ行)
- つ
- ざ・ず
といった音は、大人には別々に聞こえますが、
子どもの中では「まだ同じ仲間」として処理されていることがあります。
言い間違いは「でたらめ」ではない

この研究で詳しく調べられたのは、
サ行や「つ」「ず」など、少し難しい音でした。
すると、次のようなことがわかりました。
- 間違い方は、その子の中でとても一貫している
- たまたま失敗しているわけではない
- 同じ種類の音が、同じように言い換えられている
たとえば、
「さ → ち」「す → ち」「つ → ち」
のように、
似た音がまとめて同じ発音に置き換わることが多かったのです。
これは、
「まだ発音が下手だから」ではなく、
その子なりに整理された“発音のしくみ”がある
と考えることができます。
発音の発達には「段階」がある

研究では、子どもたちの発音のしかたをいくつかのタイプに分けています。
ここで大切なのは、
どのタイプが良い・悪いという話ではないという点です。
どの子どもも、その時点では
- 自分なりに安定した発音のルールを持っていて
- そのルールの中では、ちゃんと一貫して話している
ということがわかりました。
つまり、言い間違いは
「ぐちゃぐちゃな状態」ではなく、
**成長途中の“まとまった状態”**なのです。
ある日、急に言えるようになる理由

子どもの発音を見ていると、
「昨日まで言えなかったのに、急に言えるようになった」
ということがあります。
この研究は、その理由も説明しています。
発音は、
1つずつ少しずつ増えるのではなく、
ある大事なポイントを越えると、まとめて変わることがあります。
たとえるなら、
- ピースが1つ増えたら
- パズル全体が一気につながった
というようなイメージです。
だから、
- サ行がそろって言えるようになる
- つ・ず・さが同時に安定する
といった変化が起こるのです。
「聞こえていないから言えない」わけではない

よくある誤解に、
「正しい音が聞こえていないから、言えないのでは?」
という考えがあります。
しかし研究では、
多くの子どもが
- 正しい音と
- 自分の言い方の違い
を、ある程度は聞き分けられていることが示されました。
つまり、問題は
- 耳ではなく
- 口や舌をどう動かすか
- そして、その動きをどう整理しているか
にあると考えられます。
大人にできる大切なこと

この研究から、私たち大人が学べることがあります。
無理に直さなくていい時期がある
発音のしくみがまだ育っていない段階で、
「違うよ、こう言って」
と繰り返し直させても、
うまく定着しないことがあります。
発達の流れを見ることが大切
1つの音だけを見るのではなく、
- 似た音がどうなっているか
- 全体として変化してきているか
を見ることで、
その子の発達段階が見えやすくなります。
おわりに ― 言い間違いは、成長のサイン
子どもの発音の言い間違いは、
「できていない証拠」ではありません。
それは、
ことばのしくみを一生懸命つくっている途中の姿です。
焦らず、比べすぎず、
その子なりの発達の流れを見守ること。
それが、
ことばを育てる一番の近道なのかもしれません。


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