「愛着障害」という言葉は、近年、臨床・教育・保育・福祉の現場で急速に広まりました。一方で、
- 診断名のように用いられてしまう
- 子どもの問題として固定化される
- 養育者責任論にすり替わる
といった危うさも同時に孕んでいます。
北川(2013)は、こうした混乱の背景に、アタッチメント理論の基礎研究と臨床実践の乖離があると指摘しています。
本稿では、アタッチメント理論の中核概念を整理しながら、専門職が「愛着の問題」をどう理解し、どこに介入焦点を置くべきかを概観します。
1.アタッチメントは「特性」ではなく「関係性の組織化」である

アタッチメント理論において、愛着は子どもの内的特性ではありません。
それは、
養育者との反復的相互作用の中で形成される
対人関係の調整システム
です。
ボウルビィの言う「安心の基地(secure base)」とは、
- 探索行動を可能にする背景条件
- 情動調整を他者に委ねられる関係構造
を指します。
この視点に立つと、
✔ 行動問題
✔ 感情調整の困難
✔ 対人関係の不安定さ
は、「愛着スタイル」そのものではなく、
関係性の中で形成された適応戦略として理解されます。
2.愛着の個人差を生む3つの親側要因

基礎研究の蓄積から、子どもの愛着の質に影響する親側要因として、以下の3点が中核に位置づけられています。
① 親の内的作業モデル(Internal Working Model)
親自身がもつ、
- 他者は信頼できる存在か
- 自分は助けを求めてよい存在か
といった無意識的対人表象です。
成人アタッチメント研究では、この表象が養育行動に影響することが示されています。
② 親の敏感性(Sensitivity)
子どものシグナルを
- 正確に察知し
- 適切なタイミングと形で応答する
能力です。
多くの介入研究では、この敏感性が最も直接的な介入ターゲットとされてきました。
③ 親の内省機能(Reflective Functioning)
Sladeらが提唱した概念で、
自分や他者の行動を
「心的状態」に基づいて理解しようとする能力
を指します。
重要なのは、
- 内的作業モデル → 敏感性
の関連が”中程度にとどまる(伝達ギャップ)”という知見です
このギャップを説明する概念として、
内省機能が独立した媒介因子として注目されてきました。
3.介入は「何に」「どの程度」焦点を当てるべきか

北川(2013)は、欧米の代表的介入プログラムを、
| 介入焦点 | 代表的プログラム |
|---|---|
| 敏感性 | VIPP |
| 内省機能 | MTB |
| 敏感性+内的作業モデル | COS |
という軸で整理しています。
短期・焦点化介入 vs 長期・包括的介入
ここで重要なのが、
「どの介入が優れているか」ではなく、
「どの対象に、どの介入が有効か(What works for whom)」
という視点です。
- 低〜中リスク群
→ 敏感性に焦点化した短期介入でも効果が出やすい - ハイリスク群
→ 内省機能・情動調整・支援関係そのものへの介入が必要
と整理されています。
4.なぜ「ビデオ・フィードバック」が有効なのか

多くのアタッチメント介入で共通して用いられるのが、
親子相互作用のビデオ振り返りです。
理論的背景は以下の通りです。
- 愛着は言語以前に
→ 手続き記憶として形成される - そのため
→ 言語的説明だけでは変化しにくい - 映像による振り返りは
→ 無意識的相互作用パターンを「可視化」する
特に、
- 子どもの行動をまず「記述」する
- そこから心的状態を推測する
という構造化は、
歪んだ内省や過度な意味づけを修正する足場になります。
5.支援者自身が「安心の基地」になるということ

ボウルビィが強調したように、
介入が機能する前提条件は、支援関係そのものの安全性です。
COSプログラムでは、
- 事前アセスメントによる仮説的理解
- 親の防衛とその背後にある不安への共感
を通して、
支援者が「親にとっての安心の基地」となることが重視されています。
これは単なる態度論ではなく、
介入効果を左右する構造的要因と考えられています。
まとめ
愛着支援において専門職に求められるのは、
- ラベル化しないこと
- 子ども単体で評価しないこと
- 「関係」「文脈」「支援環境」を含めて見立てること
そして、
変化可能性を前提にした支援設計です。
愛着理論は、
「問題の原因探し」ではなく、
関係を再組織化するための理論である。
それが、本論文が臨床家に投げかけている、最も重要なメッセージだといえるでしょう


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