自閉症のリハビリテーション
小児のリハビリで依頼が多いのが、いわゆる「自閉症スペクトラム障害」と診断されたお子さんです。リハビリではどのようなことを行って、どのような工夫をしているのでしょうか。
感覚をつかったやり取り遊び
自閉症スペクトラム障害の特徴のひとつに、コミュニケーションの苦手さがあげられます。
他者に対して注目が向きにくいために、指示が入りにくかったり、人のマネをすることが苦手になってしまいます。
さらに、言語発達の遅れがあると、さらにコミュニケーション取りにくく、周囲の人もどう接してよいのかわからなくなってしまいます。
そんなときは、「感覚をつかったコミュニケーション」を用いて、やり取りや他者への意識をトレーニングします。これを、「センソリーコミュニケーション」とも言います。
センソリーコミュニケーションを行うためには、好きな感覚や遊びを見極める必要があります。これは3つのステップで知ることができます。
1. いろいろな遊び(ダイナミックな遊び、見て楽しむ遊び、聞いて楽しむ遊び、触覚を楽しむ遊び)をためして、反応が良い、長く遊べる遊びをピックアップして遊びます。いろいろな体を大きくつかうものから、手元での遊びまでいろいろなものを試してみましょう。
2. その遊びをいったんやめてみる、感覚を強くしたり弱くしたりして反応をみます。感覚に強弱をつけてどんな反応が出るかを、観察します。
3. 「もっとやってほしい」 「つづけてほしい」こんな反応がでたら、当たりです!
好きな遊びはお子さんによって違います。音が好きな子もいれば、嫌いな子もいます。
おとなの型にはめず、好きな遊びを見つけましょう!
好きな遊びに「人とのやりとり」をプラスする
自閉症は文字のごとく「自分に閉じる」と書きます。じつはこの表現はあまり好きではありませんが…。ただ、実際にマイワールドに没頭しやすかったり、人とのコミュニケーションが苦手です。
リハビリでは好きな遊びを積極的に行いますが、その遊びにある工夫をすることで、意味のある遊びに変化します。
それが画像にある、「お願いをする」と「さん にい いち」の掛け声です。
①お願いをする
物を入れる、取る、タッチする、ちょうだい、どっちだ…。その遊びのなかに含まれるものなら何でもよいです。お願いをしたら、子どもの反応を待ちましょう。
お願いに応えてくれたら、ほめます!
②「さん にい いち」の声掛け
遊びのスタートや感覚を与えるタイミングで声掛けをします。しばらく続けていくと、子どもたちは、カウントダウンの後になにか楽しいことが起こるのではないかと期待して待つようになります。そうすると、期待してまったり、声をかける人に注目するようになります。
この工夫によって、ひとりの遊びから誰かがいるということを意識させます。
ほんのちょっとでも、こっちをむいてくれたら
もう、大喜びです!
刺激のコントロール
お子さんの中には、感覚(味覚、触覚、聴覚、視覚)が私たちが感じている以上に敏感に感じたり、あるいは鈍く感じるお子さんがいます。
敏感なお子さんは「暑い・寒い・風が吹いた」などのちょっとした環境の変化によって不調をきたし、場合によってはパニックを起こす引き金になることもあります。
感覚をどのように感じているかを把握し、お子さんに合わせた対応を取ると生活しやすくなります。
感覚をチェックする検査もあります!
JSI-R
(Japanese Sensory Inventory Revised)
ホームページでも公開されている検査です。
気になった方は検索してみてください。
伝え方を工夫しよう!
人に注目しにくいことから、聞くことが苦手なお子さんもいます。指示の入りにくさに加えて、複数の指示をしてもひとつひとつの情報の前後を関連付けて理解したり、覚えたりすることが苦手です。見通しがつきにくいのも、このためです。
情報が紐づかないので「あれ」「それ」の代名詞は理解できません。
この特徴を踏まえて、情報は具体的にして、一つ一つ伝えます。言語の遅れがあるお子さんも含めて、イラストや文字にすると理解しやすくなります。
○○してはダメと禁止するよりは、具体的にしてほしいことを言い切ってしまうほうが理解がしやすくなります。
自閉症スペクトラム障害のお子さんの見ている世界を理解することが重要です。
後半にそのお話をします。
繰り返しで、パターン化された作業
遊びや軽作業のなかで、繰り返しでパターン化されたものが有効です。
・手順を示して、その通りに行うあそびや作業
・ひもとおし、ストロー入れ、ビー玉入れ
・アイロンビーズやアクアビーズなど
・仕分け作業、色分け作業
決まったルーティンやこだわりによって、決められたことをしないと不安になってしまうお子さんもいますが、逆にいうと決められたことを、その通りに行うのが強みです。それをじょうずに活用することで、将来の仕事にもつながる活動となります。
ただし、知的なレベルや理解力、集中力など、お子さんに合わせて作業を選択する必要があります。
自閉症の特徴
自閉症スペクトラムというのはひとつの概念です。
重度の自閉症から高知能自閉症、アスペルガー障害や特定できない広汎性発達障害を含めて自閉症スペクトラム障害としています。
英語表記はAutism spectrum disorder:ASDです。
有病率一万人に対しては約60人、0.6%程度とされています。
ウイングの自閉症の3兆候
1.幼少期までに「社会性の質的障害」が出現する。
2.コミュニケーションの質的な障害が出現する
3.行動、興味、様式の情動・反復(こだわり)が出現する
自閉症のお子さんがみている世界は、いつでも「新規」の世界
自閉症スペクトラム障害のお子さんの特徴を知ると、どのように世界を見ているのかを理解すると、苦手とする社会性やこだわりの理由がわかります。
いまと過去が結びつかない。新規の世界!
私たちは、自分が経験した事と過去に経験した事が結びつくことで意味を理解したり覚えたり、あるいはそれを活用したりできます。
自閉症スペクトラム障害のお子さんは、この現在と過去を関連付けることが苦手です。ですから、前に経験したことを活かして、似たような作業をするといったことができず、いつも一からのスタートになってしまいます。
これは、言葉を覚えるときも同じです。過去の見た「犬」というものと、今見ている「犬」を結び付けることが苦手です。その結果、犬を見ても「犬」という単語に結びつきにくいわけです。
どうしてこのようなことが起こるのでしょうか?さらに深く掘り下げてみましょう。
全体を捉えることが難しく、細部に注目しすぎてしまう
自閉症スペクトラムのお子さんは、全体を捉えることが難しく、細部に注目しすぎてしまうという独特の情報処理をしているためにこれら症状が引き起こされています。
また、会話の全体を把握するのではなく、断片的に細部にこだわって聞いてしまうため、前後関係がわかりにくくなります。
単語一つ一つ、細部にこだわってそれにとらわれてしまうことで、会話の全体が把握できず、結果的に場面や文脈を読み取ることが苦手になってしまうのです。
カテゴリー分けが苦手
いろいろな事柄の共通点を見つけ出すことが苦手であるということも、自閉症の症状のひとつの大きな要因と考えられています。
物の類似性、カテゴリー分けをすることができずに、そのものをあるがままを捉えているのが自閉症スペクトラム障害(ASD)のお子さんの情報処理の仕方です。
カテゴリーに分けることができないと、そのもの意味の理解の妨げにもなってしまいます。これによって言葉の発達にも影響がでてきます。
「こだわり」は「こだわりに見える」だけだった。
上記の説明をまとめると
・全体を捉えることが難しく、細部に注目しすぎてしまう
・共通部分を見つけにくく、カテゴリー分けが苦手
これを遊びに置き換えてみましょう。ここでは「車のおもちゃ」で遊ぶことを例にしてみます。
一般のおこさんであれば、「車」という意味を理解し、色や形が違っても「車」として捉えて遊ぶことができますが、自閉症のお子さんは細部に注目して共通部分を見つけることができません。
したがって、自分が知っている「車」は、決まった色、決まった形が「車」なわけです。
もうひとつ、例を出してみましょう。これはべつの記事にも書いた話です。
ここに、銀のスプーンと木のスプーンがあります。
銀色のスプーンと、アイスクリームを食べる時の木べらみたいなスプーン、おなじ食物をすくって食べる道具であることは共通している部分です。色や形は違いますが、私たちは同じスプーンであると認識できます。また、カテゴリーは食器ととらえることができます。
しかし、自閉症スペクトラム障害のお子さんは、細部に注目しすぎてしまい「銀色」「この形」をスプーンと学習すると、色や形が異なる「木のスプーン」はちがうものとして認識してしまいます。カテゴリーを理解できなくなるわけです。
私が知っているスプーンは「銀色」「この形」それ以外はスプーンではない!となってしまうのです。
これらのことは、他人がみれば「こだわり」と見えてしまいます。こだわりは、細部に注目しすぎてしまうことと共通点をみつけにくいことから生まれてきます。
まとめ
自閉症スペクトラム障害のおこさんやは、その独特な情報処理、感覚の捉え方、経験の仕方で成長しています。その世界を理解することが、その子が生活しやすい環境をつくる第一歩なのではないでしょうか。
私たちがお子さんに歩み寄っていくことが、重要となります。
お読みくださってありがとうございました。
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引用文献
・丹治和世:成人発達障害のコミュニケーション障がい.Japanese Journal of Neuropsy chology37.pp37-pp97.2021
・河野政樹:認定発達障害コミュニケーション初級指導者テキスト.こころ印刷.2016
・小松則登 他:センソリーコミュニケーションと自閉症.OTジャーナル 35.721-723.2001
・佐久田静 他:神経発達症と意味記憶障害.神経心理学36.189-196.2020
・Hiroyuki Watanabe et al : Semantic memory and abstract attitude. Japan Journal of Neuropsychology 36.197-207.2020
・Kazuyo Tanji : Communication difficulties in adults with neurodevelopmental disorders. Japan Journal of Neuropsychology 37.88-97.2021
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