1から学ぶスポーツ医学リハビリ専門解説!

ボディイメージと運動イメージを知ると、運動の理解が深まります。

ボディイメージと運動イメージ 1から学ぶスポーツ医学

 体育や運動が苦手っていわれるお子さんの多くは、自分の体への理解、使い方がよくわかっていないんですね。運動をうまくイメージできない。だから、苦手意識が生まれやすいんです。

 かといって、体育の先生は教えてくれませんでした。なんか見よう見まねでやってみろみたいな。あまり昔の教育を批判してもしょうがないので話を進めましょう。

 私たちは、「運動」を指導したり、実際に行うときに意識することはなんでしょうか。
 どのように体を動かしているのか、目で見て確認します。

 じつは、あなたの目に見えている「運動」は結果なのです。料理に例えるならば、完成した料理そのものをみていることになります。

 運動が生み出されるために、脳はさまざまな働きをして運動の命令をだしています。その結果、いま目に見えている運動が導き出されているのです。

 つまり、目にみえる「運動」ばかりを意識していてもダメなのです。
 脳の中で、運動を導くためにどのようなことが行われているのか。それを知ることで、運動そのものを効率よく変化させていくことができます。

 今回は、その運動を導くための最重要ポイント「体のイメージ」と「運動イメージ」の2つのイメージについてお話します。

 目に見えない脳の働きを知ることで、あなたに関わる子どもの運動を改善させるヒントがみつかるかもしれません!

体のイメージは2つに分けることができる

身体図式とボディイメージ

 一般的にボディイメージということばで、体のイメージは言われることがありますが、実はこのイメージは2つにわけることができます。

身体図式(body schema)

 自分の体の暗黙の枠組みを意味しています。自分の体をどのように動かせばよいのか、空間においてどこに位置しているのか、どのような姿勢になっているのか、こういったことを直感的に知るための潜在的な基準です。
 
 これには、自覚を伴いません。自分の自覚や意識しないところで自分の体の認識が作り上げられてきます。

 発達の段階では、おぎゃーと生まれてすぐのあかちゃん。赤ちゃんは脳が未発達です。さまざまな運動や感覚を経験することや自分とその周りにある環境とのやり取りによって、体に関する情報に貯金していきます。

身体イメージ(body image)

 自分の体を意識の志向対象としてのイメージを意味しています。一定の注意を求められる複雑な動作や他者から求めに応じてある動作を行うときなどは、意識して自分の体をイメージする必要があります。

 つまり、意識して自分の体をイメージすることです。「私の体」という意識を作り出しています。

 発達の段階では、あかちゃんが成長し、脳が発達しはじめると、今度は経験したことを意識して、あるいは意図的に想像することができるようになります。

ゆー
ゆー

身体図式は意識下・潜在的なもの、身体イメージは意識的なもの。

このような違いがあります。

身体図式は滑らかな運動に関与する

 習慣化された動作のように意識しない場面において、身体図式はより滑らかに機能すると言われています。例えば、歩くとき、いちいち足の動きを意識してイメージしながら歩きません。
 意識をしなくても自分の体を扱うことができるわけです。これは、人間が生活するうえで、効率よく行動するための機能といえます。

ゆー
ゆー

考えながら動かすと、タイムラグが生じて、反応が遅くなってしまいます。

新しい運動へ誘う身体イメージ

 一方で、自分の体を意識しなければならない場面においては、身体イメージが重要となります。
たとえば、体育の授業で先生に指示されたことをする。「足をあげなさい」「手をあげなさい」
すると、あなたは自分の足をあげるイメージを意識的に始めます。

 つまり、なにか行動をシミュレート(自分が矛盾なく想定できる範囲で)するときや新たな運動をイメージするときに身体イメージは使われます。

ゆー
ゆー

新しいことを覚えるときは、自分の体を意識して使いますよね。

「コツをつかむ」=身体図式がアップデートされる

  身体図式と身体イメージは、運動学習と密接に関係しています。

身体イメージに合わせて意識的に身体を動かしている状態から、身体図式の水準で全身が自発的に動く状態への運動の質の転換

 難しく書かれていますが、簡単にいうと「コツをつかむ」ということです。コツをつかむと、意識しないでも運動をすることができるようになります。
 たとえば、自転車にのることを考えてみましょう。最初はだれでも乗ることができません。しかし、「コツをつかむ」と途端に乗れるようになります。しかも、乗り方を忘れてしまうことはありません。

これが運動学習にとってもっとも大事な点です。

コツをつかむには次のことが必要です。

・正しい身体イメージや運動を作り出すこと
・完成された運動のイメージに沿って身体を動かそうとする意識
・実際に運動をする

 練習を続けていくと、身体イメージや運動のイメージと実際の身体の動きが、たまたま一致する瞬間が訪れます。

「できた!」「わかった!」あの瞬間です。

 すると、いままで持っていた身体図式にあらたな運動が加わり書き換えられます。身体図式がアップデートされたわけです。

身体イメージを利用して、身体図式をアップデートする

 ここまで書いていくと、身体図式は身体イメージをつくるもとになるのに、身体図式を更新するには身体イメージが必要って、卵が先か、鶏が先かみたいな話になってしまいます。
 私なりに情報を整理してみたいと思います。

・未学習のベースとなる身体図式は、直接体から感じる遊びを通じて養う。

・学習された身体図式は、意識の下に潜んでしまうため、一度身体イメージを通して意識のもとに引っ張り出してくる。そして、新たな運動イメージを使って、実際の運動と一致する瞬間をつくりだしてアップデートする。

 つまり、赤ちゃんや低年齢のまだベースとなる身体図式を作り上げている段階のお子さんは、感覚遊びや直接体を使って遊ぶことで身体図式を構築していきます。それには、よりよい豊富な経験が必要になります。
 一方、ある程度学習が進んだ段階で、誤った身体イメージをしているお子さんに対しては、意図的に身体イメージをさせるような遊びを選んで行います。


 ここからは、運動イメージについてお話していきましょう。

運動イメージのひみつ

運動のイメージは2つの種類に分かれる

運動イメージっていうものは、そもそもどのようなものでしょうか?
 「実際に運動することなく、心的に表象する能力」
「心的に表象する」という意味は、心の中・頭の中で思い浮かべるといったことを言います。
つまり、運動イメージは実際に運動をしないで、頭の中(心の中)で運動をイメージすることです。

この運動イメージは二つの種類にわかれます。

筋感覚的イメージ(kinesthetic motor imagery)

筋感覚的イメージとは、実際に運動した時の力が入った感覚、関節が動く感覚といった、自分の体を動かしたときに発生する感覚をイメージすることです。

視覚的イメージ

視覚的イメージとは、運動した時の様子を目で見た映像でイメージすることです。自分が運動している映像をイメージする一人称的視覚イメージと第三者からみた目線で映像をイメージする三人称的視覚イメージに分類されることもあります。

ゆー
ゆー

ちょっとやってみましょう。
手を挙げる、つまりバンザイする運動をイメージしてみてください。実際に運動はしないでくださいね。

どうですか?できましたか?
 もし運動をイメージするときに、自分の手が上がっている映像、目で見た映像をイメージしていたとするならば、それは視覚的なイメージです。
 自分の手が上がる力の入れ具合や、その感覚をイメージした場合、それが筋感覚的イメージです。

イメージトレーニング等で運動のスキルを獲得するためには、筋感覚的イメージを行うほうが有用であると考えられています。
 ここでは、主にこの筋感覚的イメージを運動イメージと称して話を進めていきます。

運動イメージは、実際に運動したときとほぼ同じような脳の領域が働いている

 運動イメージをしたときに働く脳の領域は、実際に運動したときとほぼ同じような脳の領域が働いていることが研究からわかってきました。
 運動をイメージすると運動を頭の中で計画するために必要な運動前野、補足運動野、頭頂連合野、被殻、小脳といった部分が働きます。

運動イメージをしたときに活性化する脳の領域を解説。運動前野、補足運動野、頭頂連合野、被殻、小脳です。
運動イメージと脳

直接的に運動の命令を出す脳の領域、第一次運動野ですが、運動イメージをしているときにも働く説と働いていない説の両方があります。近年では脳の活動をより詳しく見れるようになったことで、第一次運動野が活性化していることがわかり、運動イメージによる運動のスキル獲得に重要な役割を果たす領域であるという説も存在しています。(それに反論する論文もあるようで、諸説あります)

ただ、運動に関わる領域が働くことは科学的な事実です。

運動イメージによって、筋力は増大する!?

 大変興味深いはなしです。だって、運動しないのに、筋力が変化するわけですから。
この理由としては、運動イメージをすると、運動を行うための脳の領域、運動野が活性化されます。その結果、一次運動野から脊髄、そして筋へ送られる運動指令が増大することで筋活動レベルが高まったためと考えられています。

 実験では、運動イメージを続けた対象者たちは、実験前よりも23%筋力増強効果が認められたそうです。一方、同じ運動を実際の運動でトレーニングした対象者たちは30%の筋力増強がみられたそうです。

ゆー
ゆー

実際に運動をしていないにも関わらず、運動をイメージすることで、末端の筋肉にまで実際的な影響をあたえるとは…。

おそるべし運動イメージの力。

全く行うことができない運動はイメージの効果がない

 一方で、まったく行うことができない運動では、運動イメージによるイメージトレーニングをしても、運動スキルを獲得することは難しいという研究結果もあります。
 この、まったく行うことができないとは、言い換えると「動かし方がわからない」ということです。逆を言えば、動かし方がわかれば運動イメージによる効果が見られたようです。

ゆー
ゆー

体の使い方を知る、そのために運動を経験するということが大切になってきます。

運動イメージのトレーニングの効果を高めるポイント

「見る」 イメージする運動を目で確認する

 自分の体の動きをじっくり見る機会って、ありそうであまりないと思います。

 例えば、あなたは自分がどんな姿で歩いているかイメージできますか?

 なかなか思い出せませんよね。まずは自分自身の姿を客観的にみる機会を作ります。いまはスマホで簡単にみることができますからね!これを利用します。また、人形などを使って動きをシミュレーションしてみせるのも効果的です。

 運動を観察すると運動前野、下頭頂小葉が活性化されることがわかっています。この脳の領域は、運動イメージを行った時も、同じようなところが活性化するため、運動イメージと合わせて動きを観察することで効果を高めることができると考えられています。

「マネする」 模倣をじょうずに活用する

 目から取り込んだ情報を、今度は自分の体の運動イメージに変えていきます。イメージした運動と実際の運動を照合したり、比較することで運動イメージの精度を高めていきます。

 これを効果的に行うにはマネをするのがおすすめです。

 最初は、写真やイラストなどの静止したポーズをまねるとよいでしょう。自分の体の動きと照合したり、分析しやすいですからね。慣れてきたら、簡単な動きからまねる練習をしていきます。

ゆー
ゆー

動作の理解や模倣に重要な、ミラーニューロンシステムが活性化します。

模倣については、別の記事で解説しています。

「言葉にする」 無意識の運動イメージを意識させる

 見て、マネて自分の運動イメージに置き換えました。今度はそれがどんな動きなのか言葉にして説明してもらいます。ことばを使うことによって、無意識で使っている体の運動イメージを意識のもとに引っ張りだしていきます。体の細部にまで注目できるように言葉で表現していきます。

セラピスト
セラピスト

手が上がってる?下がってる?ひじはどうなってる?

 お互いに見えないようにポーズを決めて、それぞれ言葉で説明しあってまねるゲームなんかも面白いですね。

 キャッチボールやフリスビーの遊びをするときも、言葉にする工夫を取り入れると、体への理解や運動イメージが高まるトレーニングになります。

例えば、キャッチボールをする運動では
 「今投げた玉は上にいった?下に行った?右?左?」
 「強めに投げた?弱めに投げた?」
 「上手く投げれたときを思い出して投げてみよう! 」
 「今の投げ方は、上手にできたときとどう違う?」

 色々質問を投げかけると、子どもはそれにこたえるために、自分自身の運動イメージを使って、体と内なる会話をし始めます。


 ちなみに、会話が難しいお子さんに対しては、遊びのなかに感覚的な変化、つまり「差」をつけていきます。たとえば、ボールを穴に入れる遊びをしていたとします。

 最初は、ボールより大きめの穴にいれるようにします。抵抗なくボールは穴に入っていきます。
 次に、ボールより少し小さめの穴を用意します。すると、ちょっと力を入れないとボールが入らないんですね。自分がイメージしていた「抵抗なくボールが入る運動イメージ」と、いま実際にやっている「力が必要な運動」。この「差」によって気づきが生まれます。

 この気づきが生まれたときに「かたいね」とかこちらで言葉で返してあげると、そこに注目がしやすくなりますし、言葉と運動がつながってきます。

触覚などの体性感覚を与える

 運動をイメージするときに、その動作に必要な道具に触れることで、鮮明にイメージができるようになると言われています。
 たとえば、わたしの四男は野球を始めましたが、バッティングのイメージをするときに、バットを持つ、触れることで、バッティングのイメージがしやすくなるということです。

 その運動に必要な感覚を用いることで、運動イメージの質を高めることで、イメージトレーニングの効果を高めるようです。

ゆー
ゆー

さっそく、わが子に実践しました!!
運動のイメージを意識して練習することで、動きが変わってきました。


 これらポイントを遊びのなかに取り入れることで、遊びながら自分の体の動きを知るようになります。自分の動きがわかってくることで、良い運動イメージを作り出すことができます。

 実はこの効果を一番感じているのが私自身です。仕事のなかで、この3つを子供たちと一緒におこなっていたら、少しずつ自分の体の動きがわかってきました。体の使い方がわかると、いろんな運動にチャレンジしてみたくなるものです。
 でも、やはり小さいときの運動が苦手という印象が強すぎて…。いまだに苦手意識は消えません。

ゆー
ゆー

小さいうちに、苦手意識を作らない! 
体を動かすことが楽しいとか喜びを感じれるように、教育もやってほしいですね…。

運動イメージができているかをチェックする方法

 運動をイメージしたかどうかを他人が客観的に知るための代表的なチェック方法をいくつか紹介します。

・心的時間測定法
 同じ動作を行っている時間とイメージしている時間を比較することで、確認できますから、わたしもよく臨床(リハビリの現場)で使うことが多い方法です。
ある程度知的に問題がなく、運動をイメージできるようなお子さんには例えばバットを振るとき、フリスビーを投げるときなど動作する前にイメージしてもらうときに、その時間をある程度測定しながら行っています。

・心的回転
 もともとは心理学分野で発展してきた手法で、3次元空間で回転された図形や文字を、あたまのなかで元の位置に戻してそれがなんであるかを特定したりするものです。ようするに、図形を頭の中で回転させるっていうことです。
 これを身体イメージや運動イメージの評価につかうことができます。体の動きを写真や映像などで患者さんにみせ、それが右か左かを判断させるという方法です。
 わたし自身、臨床現場ではイラストをみて自分の体に置き換える、あるいは左右を特定するなどのリハビリはよく使います。以前紹介したポーズかるたが近しいものがありますね。

発達障害とイメージとの関係

 身体図式は、身体イメージをつくるための土台となる要素です。たとえば、ボールをさわって「かたさ」「おもさ」を実感した経験があるから、ボールをさわらずとも「おもさ」「かたさ」をイメージすることができます。
 自分の手がどのようにうごくのかとか、足がどのように動くのか、関節がどのようにうごくのか、自分の体の位置はどこなのか、これらは胎児の頃から経験して積み重ねてきているわけです。

 これらの経験が作り出した(学習された)自分の体や運動をもとに、いま目の前にある外部環境に対して自分の体をイメージしたり、運動をイメージすることができます。

では、このベースとなる自分自身のイメージが上手にできないと、どうなるでしょう。

誤った自分の体の情報をもとに、身体イメージを作ります。結果として、誤った運動を作り出してしまうということになります。

たとえば、自分の体の大きさを正しく把握できていない人がいるとします。
この人の目の前に隙間が現れました。体よりも狭い隙間です。しかし、この人は「通れそうだ!」と判断しました。誤った自分の体の認識をもとに、狭い隙間を通れる自分の体をイメージしたわけです。
実際に通ってみました。案の定、体が引っかかって通ることができませんでした。

自分の体をきちんと把握していれば、狭い隙間を見たときに「ここを通れそう」というイメージを作り出すことはありません。

 発達障害のお子さんたちは、感覚の過敏さ、鈍感さなどがあると、偏った感覚情報をもとに自分の体を認識していることがあります。つまり、ベースとなる身体図式が誤って出来上がっている、あるいは曖昧であると言えます。

 だからこそ、色々な場面でエラーが生じてしまうのです。
たとえば、理科の実験で使うビーカーを机の上に置くという行動を考えてみましょう。
 
 自分の手の長さや体の位置関係を誤って学習している場合、ビーカーをもつ手の位置と机の位置関係を見誤る可能性があります。そうすると、自分がイメージしていた距離感よりも、実際のビーカーと机の距離が近かったとなれば、ビーカーが思いのほか早く机に到達し割ってしまうでしょう。

 力の加減を誤って学習している場合も考えてみましょう。自分では「よわい」と感じている力加減でビーカーを机に置いたとします。しかし、実際はビーカーを割ってしまうほどの力が出ていた。

 こういった理由を背景に、発達障害のお子さんの様々な問題と言われる行動があるかもしれません。

まとめ

 ちなみに、子どものリハビリを行うセラピストは、これをより効果的に行えるように、運動を専門的かつ客観的に分析してアドバイスします。筋肉の動き、関節の動き、動きのタイミングや協調性、感覚、実に様々なことを観察します。
 冒頭にもお話しましたが、目に見えている「運動」がすべてではありません。
 その奥にある「脳の働き」を知ることが、重要なのです。
お読みくださってありがとうございました。

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