ひらがなは「覚えるもの」じゃない?
── 手の発達と“なぞり書き”が大切な理由
「何度書いても、ひらがながうまく書けない」
「お手本を見ているのに、形が崩れてしまう」
そんなお子さんの様子を見て、
練習が足りないのかな?
まだ早いのかな?
と悩んだことはありませんか。
実は、ひらがなが書けるようになるかどうかは、
“覚えたかどうか”よりも、“手がその動きをできる準備が整っているか”
がとても大きく関係しています。
文字を書く前に、手はどんな発達をしている?

ひらがなを書くためには、
ただ鉛筆を持てればいいわけではありません。
必要なのは、
- 線をまっすぐ引く力
- 曲線をなめらかに動かす力
- 方向を変える力
- 力を入れすぎず、止める力
つまり、**細かく調整された「手の動き」**です。
これらは一気に身につくものではなく、
遊びや日常動作の中で少しずつ育っていきます。
研究が教えてくれる「ひらがなの正体」

ここで、少しだけ研究のお話を紹介します。
近畿大学の研究では、
ひらがな46文字の形を詳しく分析し、
どんな動き(運筆)で書かれているかを調べました。
すると、こんなことがわかりました。
- ひらがなの 8割以上に「回す動き(回転運動)」 が含まれている
- 特に 右回りの動き がとても多い
- 多くの文字が、直線ではなく 曲線の連続 でできている
つまり、ひらがなは
「止めて、引いて、回して、またつなぐ」
という、なめらかな動きの集まりなのです 平仮名の字形に含まれる構成要素
ひらがなは「一文字」ではなく「動きの組み合わせ」

この研究では、ひらがなを
**いくつかの「構成要素」**に分けて考えています。
たとえば、
- くるっと回る「わ」の動き
- 線をつないで終わる「むすび」
- 内側に空間をつくる「ふところ」
- 向きを変える「ターン」
私たち大人は無意識に書いていますが、
子どもにとっては、
どれも初めて経験する難しい動きです。
それを、いきなり
「はい、今日は“あ”を書きましょう」
と言われたらどうでしょう。
実は、かなり大変なのです。
「なぞり書き」は、ただの下書きではありません

なぞり書きというと、
「写すだけ」「意味がないのでは?」
と思われることもあります。
でも、発達の視点から見ると、
なぞり書きはとても大切な役割を持っています。
- どこから始まるのか
- どちらに回るのか
- どこで力を抜くのか
を、目と手と身体で一緒に体験できるからです。
特に、ひらがなのように
回転や曲線が多い文字では、
この「動きを体でなぞる経験」が欠かせません。
だから「構成要素ごとのなぞり」が意味を持つ

ひらがなを一文字ずつ練習する前に、
- 曲線だけ
- 回る動きだけ
- つなぐ動きだけ
を取り出してなぞることで、
手は少しずつ準備を整えていきます。
これは、
書けない → 練習不足
ではなく
書けない → まだ準備の途中
と考えるアプローチです。
ご家庭でできる、やさしい文字の準備

このブログでは、
ひらがなの構成要素を取り入れた
なぞり書き練習シートを無料で公開しています。
✔ 文字を「形」で覚えさせない
✔ 手の動きを先に育てる
✔ 書くことが苦手にならない
そんな思いで作っています。
「まだうまく書けない」
それは失敗ではありません。
手と脳が、これからつながっていく途中なのです。
まとめ

ひらがなは、身体と仲よくなる文字
研究からもわかるように、
ひらがなはとても身体的な文字です。
回して、つないで、整えて。
その一つひとつの動きが、
子どもの成長と一緒に育っていきます。
焦らず、比べず、
まずは「なぞるところ」から。
ひらがなとの出会いが、
楽しく、やさしいものになりますように。
引用文献
野村正人,村井義洋.
平仮名の字形と運筆の関係.
近畿大学工学部研究報告.2019;53:23–26.
山口堯二.
日本語学入門―しくみと成り立ち.
京都:昭和堂;2005:35–36,60–61.
松本道弘.
「FEN」を聴く:リズムで学ぶリスニング.
東京:講談社;1982:92–95.
梅原猛.
日本の深層.
東京:集英社;1994:234.
高柳ヤヨイ.
文字のデザインを読む.
東京:ソシム;2005:124–126.




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