「うちの子、なかなか文字が覚えられなくて……」
何気ない会話で出てきたこの一言。周りの子どもたちがスラスラとひらがなやアルファベットを読み始めているのを見ると、自分の子が遅れているのではないかと不安になること、ありませんか?
実は、文字の学習は子どもにとってとても複雑なプロセス。視覚、音声、運動など、脳のさまざまな領域が関与するため、個人差が大きいのです。でも、大丈夫!学び方を少し工夫するだけで、子どもたちが楽しく文字を覚えられるようになります。
この記事では、脳科学や心理学に基づいた具体的なアプローチをわかりやすくご紹介します。きっと、今日からお子さんの文字学習が変わりますよ!
文字の学習(文字認識や読み書き能力の発達)は、神経科学や心理学の分野で広く研究されています。以下に、文字の学習に関連する重要なポイントを医学的な観点から解説します。
1. 脳の発達と文字学習
文字学習は脳の複数の領域の協調的な活動に基づいています。
- 視覚野: 視覚情報処理を担う後頭葉の領域が文字の形状を認識します。特に左後頭葉の「文字選択領域」(visual word form area, VWFA)は、文字や単語の認識に特化して活性化します。
- 音韻処理領域: 側頭葉や前頭葉が連携し、文字と音声を関連付けます。
- 運動野: 書く動作に関与し、文字を書く運動スキルを支えます。
MRI研究(例えば, Schlaggar & McCandliss, 2007)によると、文字学習の初期段階では、視覚的特徴の認識が強調されますが、学習が進むにつれ、音韻情報との統合が進みます。
文字を認識する脳の仕組み
1. 文字を見るための「視覚野」
文字を認識する最初のステップは、目から入ってきた情報を脳の「視覚野」が処理することです。視覚野は後頭部(頭の後ろ)にあり、見たものの形や線、サイズを判断する重要な役割を果たします。
特に、左側の後頭葉にある**「文字選択領域(VWFA)」**という部分は、文字や単語を見分けることに特化しています。
- この領域は「文字らしい形」を素早く認識し、数字や記号とは違うと判断します。
- 「a」や「A」のように形が異なる同じ文字も、VWFAが「同じ文字」として理解します。
VWFAは、文字学習が進むにつれてその機能が強化され、熟練すると一目で単語全体を認識できるようになります。
2. 音と文字をつなぐ「音韻処理領域」
文字を見ただけでは「音」を理解することはできません。たとえば、「c」を見たときに「シー」や「ク」、「ア=(音声の)あ」という音を連想できるのは、脳の「音韻処理領域」のおかげです。
- 側頭葉(耳のあたりに近い部分)では、音の特徴を記憶し、音韻(音の最小単位)を処理します。
- 前頭葉(おでこ側)では、その音と文字を結びつける働きをしています。
学習の初期段階では、この結びつきは練習によって形成されます。たとえば、何度も「a = ア」と教えられることで、音韻処理領域が文字と音のペアを覚えていきます。ひらがなやカタカナも、同様に「あ=音声のあ」といったように、ペアを覚えていきます。
3. 書くための「運動野」
文字を書くときには、脳の「運動野」が手の動きを細かくコントロールします。
- 運動野は前頭葉の一部にあり、「どの指をどう動かすか」を指示しています。
- また、筆圧や文字の大きさ、書き順なども調整します。
繰り返し練習することで、脳は文字を書く動きを「自動化」します。これにより、意識しなくても文字がすらすら書けるようになります。
学習が進むときの脳の変化
MRI研究では、文字学習の初期段階では視覚野が主に活躍することがわかっています。初めて文字を学ぶとき、子どもたちは「文字の形」に集中しています。たとえば、丸い形の「o」と、棒がある「l」の違いを細かく見分けようとします。
しかし、学習が進むにつれ、音韻処理領域や運動野が視覚野と連携するようになります。この連携が深まることで、文字を見た瞬間に音が頭に浮かび、さらにはその音に応じた手の動きがスムーズに出るようになるのです。
わかりやすい例え
文字学習を脳の「チームプレイ」に例えると:
- 視覚野が「監督」として文字を見つけ出し、形を認識します。
- 音韻処理領域が「通訳」となり、その形を音に変換します。
- 運動野が「実行チーム」として、その音を元に実際に手を動かして文字を書きます。
このように、脳の各部分が連携して働くことで、文字を「見て」「聞いて」「書く」能力が発達します。
子どもの文字学習をサポートするには
- 視覚の助け: 文字を大きく、カラフルにして見やすくすると、視覚野の働きを促進できます。
- 音韻の練習: 音と文字をセットで教えることで、音韻処理領域の成長を助けます(例:「あ」の文字を見せながら「あ」と発音する)。
- 書く練習: 指先を使う遊び(粘土遊びや迷路を指でなぞるなど)を取り入れると、運動野が活性化します。
2. 文字学習の発達段階
文字学習は段階的に進行します(Ehri, 1995)。
- 前読み書き段階: 子どもは文字を単なる記号として認識し、意味や音と結びつけることができません。
- 初期デコード段階: 文字と音を結びつける能力が発達します(例: “a” や”あ”を「ア」と読む)。
- 熟練段階: 語彙が増え、文脈を理解しながら読むことが可能になります。
脳の可塑性が高い幼少期には、これらの学習が効率よく進むことが知られています。
1. 前読み書き段階:記号としての文字認識
最初の段階では、子どもは文字を「絵や記号」のように捉えています。
- たとえば、「あ」や「い」の形を見ても、それが何を意味するのか、どんな音と結びつくのかはまだ理解していません。
- この段階では、文字そのものを楽しむような活動が役立ちます。たとえば、ひらがなやカタカナ、アルファベットがデザインされたカラフルなおもちゃや本を使うと、文字に親しみを持つことができます。
例
子どもが「STOP」と書かれた標識を見たとき、赤い色や形に注目しますが、それが「ストップ」という意味を表していることまでは理解できません。
2. 初期デコード段階:文字と音をつなぐ力が育つ
この段階では、文字と音を結びつける能力が発達し始めます。
- たとえば、「あ」を見たときに「ア」という音を思い浮かべられるようになります。
- 音韻認識(文字の音を分解したり、組み合わせたりする能力)もここで重要になります。
- この段階の学習には、「文字を見せて、対応する音を発音する」活動や、歌やリズムに乗せてアルファベットを覚える方法が効果的です。
例
子どもが「c」「a」「t」と書かれた文字を見て、「k」「æ」「t」と音をつなげて「キャット」と読む練習をする。
ひらがなやカタカナでも同様に、「り ん ご」を「(発音の)り ん ご」と読む練習をする。
3. 熟練段階:文脈を理解しながら読む
熟練段階に進むと、文字や単語を一つずつ分解して読む必要がなくなり、単語全体をすぐに認識できるようになります。
- 語彙が増え、文章の意味を考えながら読む力がつきます。
- たとえば、文章を読むとき、単語を個別に解釈するのではなく、全体の意味を瞬時に理解します。
この段階では、物語の本を読んだり、実際に文章を書いてみることでさらなるスキルアップが期待できます。
例
子どもが「犬が走っています」という文章を読み、文脈から「犬が元気よく動いている」というイメージを思い浮かべる。
発達段階を支えるポイント
脳の可塑性が高い幼少期にこれらの学習を進めることが重要です。脳の可塑性とは、脳が新しい情報を学び、それに適応する能力のことです。この期間に多くの経験を積むと、効率よく学ぶ力が高まります。
日常でできるサポート方法
前読み書き段階のサポート
- 文字遊び: ひらがなやカタカナ、アルファベットをパズルやブロックで遊びながら学ぶ。
- 視覚的な刺激: 絵本や看板などで文字の形に触れる機会を増やす。
初期デコード段階のサポート
- 音と文字を関連づける練習: フラッシュカードで「文字→音」のペアを覚える。
- 歌やリズム: 歌や韻を使った遊び、しりとりなどで音韻意識を高める。
熟練段階のサポート
- 読み聞かせ: 親が本を読んであげると、子どもは文脈の理解力を高められる。
- 自分で書く活動: 短い文章や好きな単語を書かせてみることで、実際に使う力を伸ばせます。
子どもの発達を見守る心構え
子どもがそれぞれの段階を進む速さは異なります。焦らずに、一つの段階をじっくりと支援し、次の段階へ進む準備が整うのを待ちましょう。こうした成長のプロセスを理解することで、より効果的に子どもをサポートできます。
3. 音韻認識の重要性
文字学習には、音韻認識(phonemic awareness)が重要です。これは、音を分析し、それを文字に対応付ける能力です。たとえば、「りんご」という単語を「り」「ん」「ご」に分解し、それぞれを文字と関連付けます。
音韻認識が低い子どもは、読字障害(dyslexia)のリスクが高いとされます(Shaywitz et al., 1998)。このため、早期に音韻認識を高める活動(例: 音韻操作ゲームやリズム遊び)が推奨されます。
音韻認識とは何か?
音韻認識は、言葉を構成する「音」に注目し、それを細かく分析・操作する能力です。
具体的には、次のようなスキルが含まれます:
- 音の分解: 「cat」という単語を「k」「æ」「t」の3つの音に分ける。
- 音の結合: 「b」「a」「t」の音をつなげて「bat」と読む。
- 音の置き換え: 「hat」の「h」を「c」に変えると「cat」になる。
- 音の削除: 「cart」から「c」を取ると「art」になる。
音韻認識のスキルは、日本語でも同様に、言葉を構成する「音」に注目し、それを分解・操作する能力として捉えることができます。ただし、日本語は音節(モーラ)を基本単位とするため、少し異なる形で音韻認識を考える必要があります。
1. 音の分解
「さくら」という単語を、音節ごとに分解すると「さ」「く」「ら」になります。
また、「しお」なら「し」「お」の2つの音節に分けられます。
2. 音の結合
個々の音を結合して言葉を作るスキルです。
例: 「あ」と「め」をつなげて「あめ」と読む。
また、「た」「ま」「ご」の音をつなげて「たまご」と読む。
3. 音の置き換え
一部の音を別の音に置き換えて、新しい言葉を作るスキルです。
例:
- 「あめ」 の「め」を「か」に変えると → 「あか」
- 「たけ」 の「け」を「な」に変えると → 「たな」
- 「いぬ」 の「い」を「き」に変えると → 「きぬ」
4. 音の削除
言葉の一部の音を取り除き、残った音で新しい言葉を形成するスキルです。
例:
- 「たまご」 から「ご」を取ると → 「たま」
- 「さくら」 から「く」を取ると → 「さら」
- 「はるまき」 から「はる」を取ると → 「まき」
日本語の音韻認識の特性
- 日本語は**モーラ(拍)**を単位とするため、英語よりも「音の単位」が比較的大きいです。そのため、音の操作は「モーラ単位」で行うことが多いです。
- 日本語は「ひらがな」「カタカナ」など文字と音の対応が比較的簡単なため、音韻認識の発達が視覚的な文字認識と結びつきやすいと言えます。
これらのスキルは、言語の基礎能力を高めるために非常に重要で、ひらがなやカタカナの学習、さらに読解力の向上に役立つと言われています。音韻認識を日本語で育てるための遊びや活動を考えることが、子どもの言語発達に効果的です。
音韻認識は「文字を読む力(リテラシー)」の土台を築くスキルであり、子どもが文字と音の関連性を学ぶうえで非常に重要です。
音韻認識が文字学習に与える影響
1. 音から文字への橋渡し
文字はそれぞれ特定の音を表しています。音韻認識が高いと、子どもは文字を見るだけでその音を思い浮かべやすくなり、スムーズに単語を読むことができます。
2. 単語の構造を理解する
音韻認識が発達していると、単語の音の並びや構造を理解しやすくなります。たとえば、「はな」と「たな」は最初の音だけが異なると気づけるので、言葉のパターンを学ぶ力が強化されます。
3. 読み書き障害(ディスレクシア)の予防
研究(Shaywitz et al., 1998)によると、音韻認識が低い子どもは文字と音を結びつけるのが難しくなり、読字障害(ディスレクシア)のリスクが高まります。ディスレクシアのある子どもは、単語を分解して音ごとに処理する能力が弱いため、文字を読むことが困難になります。
音韻認識を高めるための方法
音韻認識を育むためには、日常生活で楽しく取り組める活動が効果的です。以下は具体的なアイデアです:
1. 音韻操作ゲーム
音の追加ゲーム
目的: 言葉の最初や最後に音を足して新しい言葉を作る。
例:
- 「ね」に「こ」を足すと何になる? → 「ねこ」
- 「み」に「ず」を足すと何になる? → 「みず」
- 「たま」に「ご」を足すと何になる? → 「たまご」
バリエーション:
- 最後ではなく途中に音を足す(例:「いし」に「か」を足すと? → 「いしか」)。
4. 音の並べ替えゲーム
目的: 言葉の音を入れ替えて新しい言葉を作る。
例:
- 「さか」→ 音を入れ替えると? → 「かさ」
- 「たま」→ 音を並べ替えると? → 「また」
- 「はし」→ 音を並べ替えると? → 「しは」
5. 音の分解・結合ゲーム
目的: 言葉を分解したり、音をつなげて新しい言葉を作る。
例:
- 「たまご」を分解すると? → 「た」「ま」「ご」
- 「く」「つ」をつなげると何になる? → 「くつ」
- 「は」「な」「び」をつなげると何になる? → 「はなび」
6. リズム音あてゲーム
目的: 音の数(モーラ数)を聞き分ける力を育む。
例:
- 「さくら」は何拍? → 3拍
- 「たんぽぽ」は何拍? → 4拍
- 「ねこ」は何拍? → 2拍
バリエーション:
- 拍数を手で叩きながらリズムで遊ぶ。
7. しりとり+音操作
目的: しりとりに音操作を加える遊び。
例:
- 「ねこ」→ 最初の音を「た」に変えると? → 「たこ」
- 「ふね」→ 最後の音を「る」に変えると? → 「ふる」
8. モーラあてクイズ
目的: 言葉を音の単位で分けて、その音を考えさせる。
例:
- 「はなび」は何音? → **「は」「な」「び」**で3音。
- 「かさ」は何音? → **「か」「さ」**で2音。
- 「たけのこ」は何音? → **「た」「け」「の」「こ」**で4音。
9. 音のパターン探しゲーム
目的: 同じ音を含む言葉を探す。
例:
- 「はな」と同じ「は」で始まる言葉は? → **「はし」「はち」「はこ」**など。
- 「ねこ」と同じ「こ」で終わる言葉は? → **「たこ」「ふとこ」「あこ」**など。
2. リズムや歌を活用
- 子どもと一緒にリズミカルな歌や手遊び歌を歌うことで、言葉の音のリズムやパターンを自然に学べます。特に歌は効果的です。
3. 音と文字の結びつけを練習
- 文字と対応する音を繰り返し練習します。フラッシュカードを使った活動が便利です。
4. 音を探す遊び
- 家の中や外で「何か”あ”の音で始まるものを見つけよう!」というように、特定の音が入った言葉を探す遊びをします。
音韻認識が低い場合のサポート
音韻認識が低い場合でも、適切な支援によって改善が可能です。たとえば:
- 段階的に学ぶ: 最初は簡単な押韻遊びから始め、徐々に音の分解や結合などの高度なスキルに進みます。
- 専門的な支援: ディスレクシアが疑われる場合、音韻認識を向上させる専門的な教育プログラムを利用することも効果的です。
T式ひらがな音読支援協会が提供する音読アプリがあります↓
https://t-shiki.jp/ondoku/
日常生活での簡単な例
たとえば、朝食を用意しながら「パンの ‘パ’ は何の音で始まるかな?」と子どもに問いかけてみる。子どもが「パ」と答えたら、「そうだね!じゃあ ‘パン’ の後ろの音は?」とさらに掘り下げることで、音韻認識を遊びの中で自然に高めることができます。
音韻認識は、文字と音を結びつける力の基盤です。この力がしっかり育つことで、子どもはスムーズに文字を読み、単語を理解し、やがて文章を楽しむことができるようになります。幼少期から楽しく取り組める方法でサポートしていきましょう!
4. 学習障害と文字の学習
読字障害(dyslexia)は、文字の学習に特有の困難をもたらす障害です。
- 読字障害の子どもは、VWFAの活動が低いことがfMRI研究で確認されています(Gabrieli, 2009)。
- 遺伝的要因や環境要因が読字障害の発生に寄与します。適切な支援により、文字学習を補うことが可能です。例えば、マルチセンサリーアプローチ(視覚・聴覚・触覚を統合した学習法)は効果的とされています。
学習障害の一つである読字障害(dyslexia)について、特に文字の学習に関連する課題と支援方法をわかりやすく解説します。
読字障害(ディスレクシア)とは?
読字障害は、文字を正確に読む、書く、または綴ることが難しい特性です。ただし、知能や視力、聴力には問題がない場合がほとんどです。
- たとえば、「cat」という単語を読むとき、文字(c, a, t)を音に分解して結びつけるのが難しいため、「cap」や「tat」など、別の単語と混同することがあります。
- 文字そのものを認識しても、それを音に変換したり、スムーズに読むプロセスでつまずきます。
日本語では、文字や音の混同は、特にひらがなやカタカナを学ぶ初期段階で起こりやすいです。
1. 似た形のひらがなやカタカナの混同
- 「ぬ」と「ね」: 形が似ているため、「ぬこ(猫)」を「ねこ」と誤読する可能性があります。
- 「る」と「ろ」: 「ころ(転がる)」を「こる」と読むことがあります。
- 「ソ」と「ン」: カタカナで、「ソックス」を「ンックス」と誤認する例。
2. 似た音の混同
- 「た」と「だ」: 「たまご」を「だまご」と読むなど、濁音の区別がつきにくい場合があります。
- 「は」と「ば」: 「はし(箸)」と「ばし(橋)」を混同する例。
- 促音の認識ミス: 「かった(買った)」を「かた(方)」と読んでしまう。
3. 拗音の誤認
- 「きょ」と「きお」: 「きょう(今日)」を「きお」と読む。
- 「しゅ」と「しゆ」: 「しゅうまい」を「しゆまい」と発音してしまう。
4. 言葉そのものの意味の混同
単語を誤って関連付けてしまうこともあります。
- 「かく(書く)」と「かく(隠す)」: 同音異義語が混乱を招く場合。
- 「つくえ」と「つくる」: 文字が似ているため、意味の混同が起こる可能性。
脳と読字障害の関係
VWFA(文字選択領域)とその役割
脳の左後頭葉にある「文字選択領域」(Visual Word Form Area: VWFA)は、文字や単語を素早く認識する重要な部位です。この領域が適切に働くことで、私たちは文字を「見た瞬間に」意味や音と結びつけることができます。
- 読字障害のある子どもでは、VWFAの活動が低いことがfMRI(脳機能画像)研究で確認されています(Gabrieli, 2009)。つまり、脳が文字を効率的に処理できない状態です。
遺伝的・環境的要因
- 遺伝的要因: 読字障害は家族内で遺伝的に受け継がれることがあります。親や兄弟に読字障害がある場合、子どもにもその可能性が高まります。
- 環境的要因: 幼少期に文字や音声に触れる機会が少ない場合、読字障害のリスクが高まる可能性があります。
読字障害がある子どもへの支援
読字障害は完全に治すことは難しいとされていますが、適切な支援で文字学習の困難を大きく補うことができます。
1. マルチセンサリーアプローチ
視覚、聴覚、触覚を統合して文字を学ぶ方法で、多くの研究で効果が示されています。
- 視覚: 文字を見て、その形を覚える。
- 聴覚: 文字の音を聞き、その音と形を結びつける。
- 触覚: 砂や紙の上で文字を書いたり、指で文字の形をなぞる。
具体的な活動例
- 文字を書きながらその音を声に出して読む(例: 「あ」と言いながら書く)。
- アルファベット型のブロック、ひらがなの形のパズル等や、触ると凹凸がある文字カードを使う。
- 「め」と「ぬ」のように混乱しやすい文字の形を、指でなぞって区別する練習。
2. 個別化された読み書き支援プログラム
専門家による指導プログラムが効果的です。たとえば:
- オルトン・ギリンガム法: 言語を音韻、意味、文法などに分け、それぞれを段階的に学ぶ方法。個別対応が特徴です。
- リンドムード・ベル法: 音韻認識を強化するための訓練プログラム。
T式ひらがな音読支援協会が提供する音読アプリがあります↓
https://t-shiki.jp/ondoku/
3. 補助技術の活用
読字障害を補うためのデジタルツールやアプリも役立ちます。
- 音声読み上げソフト: 文章を音声で読み上げてくれるツール。
- 文字認識アプリ: 書かれた文字をスキャンして、テキストをデジタル化して読むのを助ける。
日常生活でのサポート方法
読字障害のある子どもを支えるには、忍耐と工夫が必要です。
家庭でできる支援
- 成功体験を増やす
簡単な本や、子どもが興味を持つ内容の絵本を一緒に読み、達成感を感じさせる。 - 褒めることを忘れない
たとえ小さな進歩でも、努力を見つけて褒めることで、学習への意欲を引き出します。 - ゲーム感覚で学ぶ
フラッシュカードやアプリを使い、文字と音のマッチングゲームを楽しむ。
読字障害の子どもの強みを引き出す
読字障害のある子どもは、文字学習で苦労する一方で、創造力や空間認識、問題解決能力が高い場合もあります。この特性を生かして、絵や音楽、プログラミングなど、他の分野で成功体験を積むことも大切です。
読字障害は、文字学習を難しくする特性ですが、マルチセンサリーアプローチや専門的な支援を取り入れることで、子どもが文字に触れることへの自信を持てるようになります。忍耐強く支えながら、子どもが学ぶ楽しさを感じられる環境を作りましょう!
5. 文字学習を支援する方法
文字学習を促進するには、以下のようなアプローチが有効です
- 明確な文字形の提示: 大きく、はっきりとしたフォントを使用します。
- 視覚と音声の統合: 文字に対応する音声を同時に提示することで、脳の統合的な処理を促します。
- 反復練習と肯定的フィードバック: 短時間で頻繁に練習し、成功を強調します。
これらは、神経科学や心理学の研究に基づいた実践例です。
明確な文字形の提示
なぜ重要なの?
脳の「視覚野」は、文字の形を識別して処理します。しかし、小さすぎたり、複雑な書体では認識が難しく、脳が混乱してしまいます。特に学び始めの子どもには「わかりやすく、はっきりした文字」が重要です。
具体的な支援方法
- 大きな文字を使う: 最初は大きく書かれた文字を使いましょう。たとえば、A4サイズの紙に1つの文字を書くなど、視認しやすい形にします。
- シンプルなフォントを選ぶ: 「ゴシック体」のような直線的でシンプルな書体を使います。手書きなら「読みやすく大きく」を意識します。
- 文字の色を工夫する: 白い紙に黒や濃い色で文字を書くと、視覚的に認識しやすくなります。重要なポイントは「くっきり見えること」です。
2. 視覚と音声の統合
なぜ重要なの?
文字は「目で見る(視覚)」だけではなく、「耳で聞く(音声)」ことで初めて意味を理解できるようになります。脳の「視覚野」と「音韻処理をする領域」が連携することで、文字と音が結びつくのです。
具体的な支援方法
- 音を出しながら文字を見る
たとえば「a」という文字を見せながら、「ア」と音声を出します。このとき、子どもにも声に出させることで、脳の連携が強化されます。
例: 「Aはア、Bはブッ」と言いながら一緒に文字カードを見ます。 - デジタルツールの活用
最近では、文字をタップすると音声が流れるアプリや教材が多くあります。これを使えば、視覚と音声を自然に統合できます。
例: 絵本アプリや電子フラッシュカード。 - リズムや歌を使う
アルファベットやひらがなを学ぶとき、音楽や歌に合わせて覚えるのも効果的です。音とリズムが加わることで、楽しく自然に学べます。
例: 「A-B-Cの歌」「ひらがな50音の歌」。
3. 反復練習と肯定的フィードバック
なぜ重要なの?
脳の神経回路は「繰り返すことで強化される」という特性があります。反復練習によって、文字の形や音が記憶に定着しやすくなるのです。また、肯定的なフィードバックは学ぶ意欲を引き出し、脳の「報酬系」を刺激します。
具体的な支援方法
- 短時間の練習を繰り返す
一度に長時間取り組むよりも、「1回5分程度」を1日に何回か繰り返す方が効果的です。脳は短い刺激を何度も受けることで、効率よく学びます。
例: 朝・昼・夕方に5分ずつ、文字カードや書き取り練習を行う。 - 楽しく練習できる工夫
ゲームや遊びの要素を取り入れると、子どもの集中力が続きやすくなります。
例:- 文字を見て「これは何の音?」とクイズを出す。
- 「ひらがな探しゲーム」(家の中で特定の文字を見つける)。
- 必ず褒める
少しでも正解したり、努力した場合は「よくできたね!」「すごいね!」と褒めましょう。ポジティブな言葉は子どもの脳に「学びは楽しい」という感覚を植えつけます。
例: 「今日『あ』が書けたね!すごい!」、「前より上手に書けるようになったね!」
日常生活に取り入れるヒント
- 日常の中で文字に触れる機会を増やす
たとえば、スーパーで商品名の文字を一緒に読んだり、絵本の文字を指でなぞりながら読むのが効果的です。 - 書く動作を取り入れる
砂場やお絵描きボード、クリームの上など、遊びながら書く練習をすると、運動感覚も刺激されて記憶に残りやすくなります。
まとめ
文字学習を支援するためには、「視覚」と「音声」を組み合わせ、繰り返し楽しく取り組むことがカギです。そして、何よりも「成功体験」を重ね、肯定的にサポートすることで、子どもは自信を持ち、意欲的に学ぶようになります。日々の小さな積み重ねが、大きな力になるので、焦らず楽しく続けていきましょう!
参考文献
- Schlaggar, B. L., & McCandliss, B. D. (2007). Development of neural systems for reading. Annual Review of Neuroscience, 30, 475-503.
- Shaywitz, S. E., & Shaywitz, B. A. (1998). Dyslexia (specific reading disability). Pediatrics in Review, 19(4), 79-86.
- Gabrieli, J. D. E. (2009). Dyslexia: A new synergy between education and cognitive neuroscience. Science, 325(5938), 280-283.
- Ehri, L. C. (1995). Phases of development in learning to read words. Journal of Research in Reading, 18(2), 116-125.
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