あなたは書き取り好きでしたか?私は嫌いでした。
書き取りはやみくもに書かされているだけのもはやの紙と鉛筆を使った「筋トレ」状態。
漢字を覚えるための工夫は様々なサイトや本などでも紹介されています。ですが、なぜその方法が効果的なのでしょうか。
今回は、漢字に関する文献を読み解きながら、効果的な漢字を学習するための方法に迫っていきたいと思います。
この記事はこんな方におススメ
✧٩(ˊωˋ*)و✧
・効果的な漢字の学習方法を知りたい
・効果的な学習方法の理由をしりたい
漢字に関する文献
漢字に関する文献のなかで、漢字の認識の仕方、漢字を構成する要素、漢字の学習方法についていくつか紹介していきます。
漢字の認識に関する文献
ひらがなは図形として単純なため、視覚的な構成よりも手の運動、運筆のほうが重要である。運動覚に強く依存していると述べられている。
一方、漢字は書く数が多くなるにしたがって、視覚的なイメージに依存してくる。
漢字は、いったん全体の形をイメージして、改めて視覚的に構成しなおす必要があると報告してる。
断片的な視覚情報から、全体としての形を認識する能力が影響していたと報告があり、漢字は全体と細部の両方を正確に認識する必要があるために、関連性が示唆されている。
漢字形態の構成要素を視覚的に分節化してとらえることやそれらを空間的に配列する構成行為のまずさが、漢字視写の困難をもたらしていることが示された。
これらの文献から考えますと、漢字の認識には次のようなポイントがありそうです。
・視覚的なイメージに依存する
・全体⇒細部をイメージする
つまり、頭の中で視覚的なイメージを作るための手がかりになる方法があるとよいということがわかります。また、全体をとらえる事と細部をとらえる事、この両方が必要な事から、漢字の細部をとらえるための「分解」と全体をとらえる「合成」が有効であると考えられます。
漢字の指導や学習に関する文献
漢字を構成する要素に注目して漢字の形態をとらえさせるとともにこれらの要素の運筆技能を習得させたところ、漠字視写や直接練習の対象としなかったかな書字に大きな改善が見られた。
(漢字の)分解の仕方を提示する場合は、対象児が知っている構成要素を用いて分解を行うことが必要である。
漢字の書き取りの困難は、視覚的な記憶の問題と深い関わりがあることが示唆された。そこで、漢字一つ一つについて構成要素を言語化させることによって視覚的記憶のまずさを補ったところ、書き取りの成績が向上した
視覚よりも聴覚、音声言語で記憶が良い場合は、漢字を音声化すると効果が認められた。
筋運動感覚的な表象がその既往(漢字を思い出す)の一助となることが示唆される
漢字の構成要素を書字で練習すると、かな書字が上達したという興味深い文献もありますが、漢字の学習ポイントは次のことが考えられます。
・子どもが知っている漢字の構成要素を用いて分解を行う
・漢字一つ一つについて構成要素を言語化させる
・手の運動感覚は、漢字を思い出すための手がかりになる
視覚的にとらえやすくするために漢字を分解しますが、子ども自身が知っている構成要素を使わないといけないことがわかります。
目で見て記憶することが苦手なお子さんには、構成要素を言語化することで効果が得られたという文献がいくつかあり、漢字を覚えるときのヒントになりそうです。
書き取りは嫌いです…。ですが、たしかに空書といって字を思い出す時に、指で机に書いたりしますよね。ですから、書字で覚えるということも、記憶を補うための一つのポイントになると考えられます。
漢字の構成に関する文献
10 種類の基本的な画を参考に指導した「漢字の基本は 10 画」(1)横線「一」(2)縦線「木」(3)斜め線「気」(4)角かぎ「西」(5)斜めかぎ「去」(6)手かぎ「手」(7)つりばり「元」(8)くの字「女」(9)あひる「九」(10)「丶」
漢字を構成するおおもとの画を示したものです。この画の組み合わせによって字は形を成しています。もちろん、上記にあてはまらない形も実際にあります。これに関しては、諸説あるようです。そのなかでわかりやすいものをピックアップしました。
すべてに共通しているのは「分解」と「合成」
いくつかの文献を読み解くと漢字を覚えるには、合成と分解がポイントのようです。
楽しくゲームやパズル感覚で学べる教材がたくさんあります。
「へん」と「つくり」を合わせるゲーム 漢字はかせ
部首トランプ (「漢字がたのしくなる本」教具シリーズ)
参考サイト
漢字 書き順辞典
書き順をアニメーションで見るのも、効果的です。分解から合成、細部にわたって確認することができます。
これらをヒントに、お手製の部首カードを作ってクイズを作ったり、あるいはタブレット、スマホのアプリなどで学ぶのもよいでしょう。
書くための工夫
書くためにも一工夫することで、漢字を構成している要素がわかりやすくなります。漢字を呼び覚ます手がかりとしても、ある程度手の動きを記憶しておくことも必要ですからね。
漢字を構成する基本的の要素を書けるようにしましょう。
縦線、下線、横線といった漢字の基本となる線を練習したり、小学校の低学年で習う基本的な漢字をしっかりと書けるようにしておくと、その字を応用して複雑な漢字がかきやすくなるでしょう。
形のイメージから手の運動イメージを思い出しやすいようにすることで、漢字だけでなく書字全体の動きが向上すると考えられます。
色付きのマスでバランスや構成する文字をわかりやすく
漢字を構成するものに色を付けてあげることでわかりやすくなります。さらにマスを4つにわけて、そこに(青、赤、黄、緑)などで色分けをしてあげると、大きさのバランスについてもわかりやすくなります。
リハビリでは書字以外のこともします。
手と目の協調動作が上手くいかない場合も、上手に字が書けない場合があります。その時は、書字以外のあそびや課題で手と目の協調を促していきます。目の動きが手に追いつかない場合は、ビジョントレーニングなどを合わせて行うことがあります。
それでも漢字が苦手ならば…いまはパソコンやタブレットの時代です。直筆のサインはべつとして、他者に伝えるために書くのであればパソコンやタブレットを活用するのもひとつの手立てになります。
漢字を分解し、音声化
漢字を記憶するために、漢字を分解して自分が知っているものに変換します。
窓=ハ ム 心
尋=ヨ エ ロ 寸
ハ ム 心は、むかし私自身がおばあちゃんに教えてもらった覚え方です。こうやって、いくつかの要素に分解して、自分が知っているイメージに置き換えて覚えていきます。
また、漢字それぞれの意味を理解して分解しても、字に結びつきやすくなります
・川は水が流れる様子
・晴は、日が出て、空が青いから、はれ
文字の成り立ちや、文字が意味することを言語化してイメージしやすくすると覚えやすくなります。
音や耳で聞いた情報を覚えるのが得意なお子さんには、特に有効な手立てです。
まとめ
「書き取り」は、それなりに運動感覚を覚えるという点では意味があるのかもしれません。ですが、効率よく漢字を覚えるという点では、違った視点で学習する必要がありそうです。
最近では、タブレット学習の発展によって、書き順を教えてくれたり、一文字ずつきちんと学習できるようになっています。子どもたちにとって、楽しく学べる工夫をしたいですね。
お読みくださって、ありがとうございました。
引用文献
・岩田誠:文字.神経内科.10:542-552.1979
・野崎浩成他:漢字学習支援システムの開発 漢字の構造理解と筋運動感覚の獲得.日本教育工学雑誌.21(1).25-35.1997
・佐藤 曉:構成行為および視覚的記憶に困難を示す学習障害児における漢字の書字指導と学習過程の検討(実践研究特集号). 特殊教育学研究 34(5), 23-28, 1997
・春原則子他:発達性読み書き障害児における実験的漢字所書字訓練-認知機能特性に基づいた訓練方法の効果-.音声言語医学.46.10-15.2005
・五十嵐靖夫他:漢字の書字に困難を示す児童に対する聴覚記憶の強さと継次型方略を活用した漢字指導.北海道教育大学紀要.教育科学編.70(1).103-115.2019
・原田種成:『漢字の常識』三省堂.1982
・菅野陽太郎他:常用漢字の構成要素とその筆順構造の分析. 書写書道教育研究 第 32 号.31-40.2018
・河野政樹:発達障害コミュニケーション 初級指導者テキスト.一般社団法人日本医療福祉教育コミュニケーション協会.2016
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