「運動が苦手、、、」
「体の使い方が、不器用って言われた…。」
今回は、発達性協調運動障害の基本的な知識について解説します。症状だけでなく、なぜそれが起こるのかという要因や実際の症例も載せてみました。
運動が苦手!発達性協調運動障害のきほん
英語表記では[Developmental coordination disorder : DCD]です。(以下、DCDと表記します)
協調運動障害の協調運動とは、手足をタイミングよく動かす、目と手を連携させて動かすといったように、自分の体を思い通りのタイミングで動かすこと、あるいは体の各部分を思い通りに連携させて動かすことと言い換えることができます。
いわゆる「不器用な子ども」「運動が苦手な子ども」とも言われることがあります。最も頻繁に報告された有病率は、小児の5〜6%ですが、2〜20%の範囲とされています。また、ADHDのお子さんの33%、ASDのお子さんの47.5%にDCDが認められたという報告があります。
DCDの診断基準は次の通りです
・その人の年齢や経験から期待されるよりも明らかに協調運動技能の獲得や遂行が劣っている
・運動技能の問題が日常生活(セルフケア、学習、遊び等)を阻害していること
・発達段階早期から運動技能の獲得や遂行が劣っている、日常生活を阻害している事
・運動技能の欠如が知的能力障害、視力障害によって説明できず、運動に影響を与える神経疾患(脳性麻痺など)が原因でないこと
セルフケアとは、食事、着替え、トイレの後始末といった身辺処理のことをいいます。
どのような症状がでるのか?
協調運動の障害から「体の使い方が不器用さ」や「運動が苦手さ」が小さいうちから現れてきます。具体的にどのような影響がでるのか見てみましょう。
・服を着るときに自分の体をどうやって服に合わせるかわからなくなる、着替えが遅い
・ランドセルの背負い方がわからない、背負うのに時間がかかる
・お箸やスプーンの操作が苦手
・トイレでおしりをうまくふくことができない
・階段の上り下りが苦手、時間がかかる
・遊具でうまく遊べない
・三輪車や自転車にうまく乗れない
・縄跳びや鉄棒などが上手くできない、体育が苦手
・リコーダーなどの楽器演奏が苦手
・書字が苦手
などなどたくさんあります。
運動の苦手さによって日常生活のさまざまな活動に影響が出る事はもちろん、字を書くことやリコーダーの操作などの楽器演奏、体育といった学業面の影響が出ることも報告されています。
DCDのお子さんは、セルフケアや遊具遊びなどのほか、特にチームスポーツに参加する機会が少ないという報告があります。運動の苦手さによって、自己肯定感の低下とも関係があるという報告もあり、こういった運動の苦手さから引き起こされる自信の低さによって、チームプレイなどの集団運動を避ける傾向があると考えられます。
体の使い方の不器用さによって、失敗体験が積み重なり、自信や意欲をも低下させてしまうのです。
DCDを引き起こす要因
DCDのお子さんはどうして協調運動が苦手になるのでしょうか。これにはいくつかの要因が考えられています。
・上手に感覚や運動をイメージすることができない
・自分が予測した感覚や運動イメージと、実際の運動したときの感覚の照合が上手にできない
・きちんと運動が行えたかどうかのモニタリングが頭の中で上手にできない
これらのことが要因として考えられます。
感覚に関する問題
DCDの子どもたちは、通常発達の子どもたちと比較して、感覚刺激に対する反応が低いか、あるいは感覚の過敏さが見られ、不快な感覚を避ける傾向があることが明らかになりました。特に聴覚、前庭、触覚、口腔(口や唇)などの領域で、彼らがより多くの感覚の課題を抱えていることが報告されています。言い換えれば、彼らが必要な運動に関連する感覚情報を効果的に取得できないことが、DCDの一因と見なされています。
この感覚処理の異常は、彼らが運動活動や日常の活動において適切に反応できない可能性があり、それがDCDにおける運動の困難や課題に寄与していると考えられます。この理解は、DCDに対する支援や治療戦略の開発において重要であり、個々の子供たちに合わせたアプローチの検討に役立つでしょう。
小脳が関与する機能ネットワークの異常
小脳が関与する機能ネットワークの異常が明らかになっています。小脳は主に運動の調節や制御において重要な役割を果たしています。しかしこれにとどまらず、小脳は運動を制御するだけでなく、運動を予測し、また運動を言葉や概念に変換する大脳の領域とも密接に結びついています。このため、小脳の異常が適切な運動の予測にも影響を与えると考えられます。
運動の予測においては、小脳が動作の流れやパターンを把握し、それに基づいて将来の動作を予測する機能が重要です。小脳の異常がある場合、この予測機能が十分に機能せず、運動の制御や調整に支障が生じる可能性があります。また、小脳と大脳の結びつきが影響を受けることで、運動を言葉や概念に変換するプロセスにも異常が生じ、運動の経験や感覚が適切に処理されなくなることが予測されます。
運動主体感が変質している
研究において、発達性協調運動障害(DCD)の子供たちにおける運動主体感の変容が注目されました。通常、我々は自分の行動が自己によって引き起こされたものだと感じる際、予測された運動イメージや感覚フィードバックが実際の運動と同時に発生することが一般的です。しかし、DCDの子供たちにおいては、この時間的な一致が通常の発達を遂げた子供たちよりも長くかかることが明らかになりました。
言い換えれば、DCDの子供たちは運動の予測と実際の運動が一致するまでに時間がかかり、その結果として運動主体感が変質する可能性があります。この遅れがあることにより、彼らの運動の制御や認識において通常の発達を遂げた子供たちと異なる経験をしているとされています。
この研究結果は、DCDの理解と支援に向けて新たな知見を提供しており、特に運動や感覚統合において問題を抱える子供たちに対する適切なアプローチの開発に寄与しています。
わたしたちは運動するときにかならずイメージをします。
また、運動の予測と実際の運動との照合は、無意識化の頭の中で常に行われていることです。
DCDの小児リハビリテーション
運動に必要な感覚情報を適切に得られない事、そこから運動を適切に予測することができないこととされていることから、運動をやみくもに繰り返し練習しても時間がかかるばかりか、失敗体験ばかりで運動に対する意欲が低下してしまう可能性もあります。これを解決するため、いくつかの提案があります。
小児リハビリのポイント
・生活に必要な道具を工夫する
・好きな遊び、楽しい遊びを通じて、体の使い方を学習する
・予測した運動イメージと実際に行った運動を言葉に表現する、振り返る
道具の工夫
苦手さを克服するのではなく、物によってその運動の苦手さを補います。お子さんが自信をもって活動に取り組むことができ、成功体験を積み重ねることができます。
例えば、リコーダーです。下のリコーダーは押さえる穴がシリコンでできており、非常に抑えやすくなっています。(写真をタップするとリンク先に飛べますのでみてください)
体の使い方を学ぶ、運動を言葉にする
これは実際の症例を紹介してみましょう。(掲載に当たりご家族の許可を得ております)
なわとびがにがて…。
なわとびが苦手だった女の子です。私が出会ったときは、運動だけでなくいろいろな事に自信がないようでした。運動の機能は問題ありませんでしたが、からだがぐにゃぐにゃして、関節が柔らかい特徴がありました。また、苦手だと感じることはあまり練習しない傾向がありました。
そこで私が小児リハビリでおこなったことは次の通りです。
・なわとびは練習しない!
・好きな遊びから体づくりと体の使い方を学ぶ。
例)トランポリンやジャングルジムを使ったアスレチック遊び
苦手な縄跳びの練習はいっさいしないことに決めました。そのかわりに、縄跳びに含まれるジャンプするという動きに注目して、トランポリンを行いました。これはとても楽しんで遊んでいました。
また、ジャングルジムなどを使ってアスレチックのようなコースを一緒に作って遊びました。自分でコースを作るということは、まず頭の中で動きをイメージしなければなりません。自分の動きをイメージした後に、それをコースを作る作業を通じて具体化させていくわけです。くわえて、出来上がったコースを言葉で説明してもらいました。つまり自分がイメージした動きを言葉に変えるわけですね。
実際にコースであそぶことで、自分がイメージした通りにうごけるかを照合させていきます。
さて、小児リハビリを始めてからしばらくして変化が表れてきました。
なわとびが飛べるようになったよ!
学校で縄跳びを飛んだところ、飛べることに気がついたようです。おかあさんにもいっぱいほめてもらった女の子は、そこから飛べる自分に気がつき自信を取り戻しました。
難しい飛び方もできるようになったよ
縄跳びを飛ぶことが楽しくなった女の子は、次々に交差飛びなど難しい応用技にも挑戦して飛べるようになりました。私の前で、披露してくれましたよ!
苦手な縄跳びからではなく、好きな遊びを通じて体の使い方を学んだことをきっかけにして、縄跳びが飛べる自分に気がつくことができました。そして次のような良循環が生まれたと考えられます。
お母さんの声かけや励ましも、この循環を作るうえで重要なポイント!!
まとめ
DCDのお子さんは、体の使い方の苦手さから、活動の様々な場面で失敗を繰り返していたり、上手にできないことで自信を失っています。運動や活動に対して、楽しみながら運動する、苦手意識を作らないようにする、失敗体験をさせない、成功体験を通じて自信を失わないようにすることが大切です。
そして、早くから小児リハビリなどの力をかりて体の使い方を学ぶことも大切です。
お読みくださって、ありがとうございました。
引用文献・参考文献
・American Psychiatric Association Diagnostic and statistical manual of mental disorders: DSM-5. American Psychiatric Association, Arlington, VA .2013
・Cairney J, Hay J, Faught B, Mandigo J, Flouris A :Developmental coordination disorder, self-efficacy toward physical activity, and play: does gender matter? Adapt Phys Act Q 22(1):pp67–pp82. 2005
・Smyth MM, Anderson HI: Coping with clumsiness in the school playground: social and physical play in children with coordination impairments. Br J Dev Psychol 18(3):pp389–pp413. 2000
・Cairney J, Hay JA, Faught BE, Wade TJ, Corna L, Flouris A:Developmental coordination disorder, generalized self-efficacy toward physical activity, and participation in organized and free play activities. J Pediatr 147(4):pp515–pp520. 2005
・Mathiak, K., Hertrich, I., Grodd, W., and Ackermann, H:Cerebellum and speech perception: a functional magnetic resonance imaging study, J. Cognitive Nerosci. 14 .pp 902-pp912.2002
・Satoshi Nobusako,Michihiro Osumi,Kazuki Hayashida,Emi Furukawa,Akio Nakai,TakakiMaeda,Shu Morioka: Altered sense of agency in children with developmental coordination disorder.2020
(https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0891422220302262?via%3Dihub)
・Atypical Sensory Processing Profiles and Their Associations With Motor Problems In Preschoolers With Developmental Coordination Disorder. Child Psychiatry & Human Development volume 52, pp311-pp320 .2021
(https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs10578-020-01013-5)
・池田千沙他:発達性協調運動障害のアセスメントと支援の視点.総合リハ 第49巻7号.pp653-pp661.2021
コメント
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