もっと知りたい小児の知識

発達はグラデーション──“定型”と“非定型”のあいだで

目次
  1. 第1章:「“定型発達”とは誰が決めたのか?」
  2. 🔍 ここで注目:ICDやDSMの限界とは?
  3. 第2章:脳の中にも“グラデーション”がある──Pellicano & Burr(2012)より
  4. 第3章:グレーゾーンの子どもたちをどう理解するか
  5. 第4章:“神経多様性”という視点──違いを力に変える発達理解
  6. 第5章:実生活のヒント 「境界線を引くより、“凸凹の地図”を描こう
  7. 【まとめ】
もっと知りたい小児の知識

「診断はついていないんです。でも、やっぱり“何か”が気になっていて…」

これは、私たちが保護者の方からよく耳にする言葉です。
子どもが集団行動になじめなかったり、些細な音に過敏に反応したり、人との距離感が少し独特だったり――。発達障害とまではいかないけれど、“育てにくさ”や“周囲とのズレ”を感じて悩んでいるご家庭は、決して少なくありません。

けれど、病院で検査を受けても「特に問題は見られません」「様子を見ましょう」と言われて終わってしまう。支援の対象にもなりづらく、周囲からは「親の育て方のせい」などと心無い言葉をかけられることも…。

このような“グレーゾーン”の子どもたちは、いったいどこに位置づけられるのでしょうか?
そもそも、「定型発達」とは何なのでしょう? 発達障害とは、白か黒かで語れるものなのでしょうか?

近年、発達は“線”ではなく“スペクトラム”として理解すべきだという考えが広まりつつあります。医学・脳科学の世界でも、私たちの脳の発達には“グラデーション”があることがわかってきました。

この記事では、まだあまり知られていない「定型発達と非定型発達のあいだ」に焦点を当て、最新の科学的知見をもとに、「境界線が揺らぐ時代の子どもたち」をどう理解し、どう支援していけばよいのかを考えていきます。

  1. 第1章:「“定型発達”とは誰が決めたのか?」
    1. 発達は「平均値」からのズレ?
    2. 「カテゴリー」ではなく「連続体」としての理解
  2. 🔍 ここで注目:ICDやDSMの限界とは?
    1. 「発達の多様性」を前提にした理解へ
  3. 第2章:脳の中にも“グラデーション”がある──Pellicano & Burr(2012)より
    1. ◆ 自閉スペクトラム症は「脳の感じ方・考え方のスタイルの違い」
    2. ◆ 感覚の“違い”は、誰にでもある
    3. ◆ 「普通」の感覚は本当に“普通”なのか?
    4. 🌱 発達を理解する新しい視点
  4. 第3章:グレーゾーンの子どもたちをどう理解するか
    1. ◆ 「診断」がないと支援できないという制度的な限界
    2. ◆ 困難さは、“診断の有無”とは別に存在する
    3. ◆ 困りごとに目を向ける支援へ
    4. ◆ 診断名に依存しない“支援のあり方”を考える
  5. 第4章:“神経多様性”という視点──違いを力に変える発達理解
    1. ◆ 神経多様性(Neurodiversity)とは?
      1. ◆ 平均に合わない=“異常”ではない
      2. ◆ “違い”を活かすという視点
    2. ◆ “普通”の基準は社会が決めている
      1. ◆ 多様性を前提にした支援へ
    3. ◆ 神経多様性は“社会モデル”の発想から生まれた
    4. ◆ 脳の「違い」は脳科学でも裏付けられている
      1. ◯ ASD(自閉スペクトラム症)の脳は“予測”が苦手?
      2. ◯ADHDの脳は報酬系が独特に働く
    5. ◆ 「脳の多様性」はすべての人に当てはまる
    6. ◆ “配慮”ではなく“前提”としての多様性
  6. 第5章:実生活のヒント 「境界線を引くより、“凸凹の地図”を描こう
    1. 境界線を引くより、“凸凹の地図”を描こう
    2. ■「発達の地図」を描くという考え方
    3. ■Oi-SKiPAとは?
    4. ■診断よりも、「生きやすさ」の視点を
  7. 【まとめ】
    1. 「定型」と「非定型」は、境界ではなく連続体の中の点
    2. 「白黒」で判断する時代から、「色合い」で見る時代へ
    3. 医学と教育のあいだで、“多様な育ち”への橋をかけていこう

第1章:「“定型発達”とは誰が決めたのか?」

「定型発達」って、そもそも誰が、何を基準に決めているのでしょうか?

私たちは普段、何気なく「この子は定型発達」「この子は発達障害」といった言葉を使います。けれど、ふと立ち止まって考えると、「定型発達」って、そもそも誰が、何を基準に決めているのでしょうか?

実は、こうした分類には**医学的な「診断基準」**があります。その代表が、「ICD(国際疾病分類)」や「DSM(精神疾患の診断・統計マニュアル)」と呼ばれるものです。日本の医療現場でも使われている、世界的な診断マニュアルです。

たとえばDSM-5では、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)などについて、行動や発達の特性が「どのくらい強く、どのくらい日常生活に支障をきたしているか」によって診断が下されます。

でも、ここで大切なのは――
これらの診断は「明確な境界線」で人を分けているわけではない、という点です。

発達は「平均値」からのズレ?

発達の診断は、ある意味で「平均」に基づいています。たとえば、「3歳でこれくらい話せるのが普通」「小学校1年生でこれくらいの集中力があるのが平均」…といった基準です。

そして、この平均からの“ズレ”が大きいと「発達障害」とされます。逆に、平均に近いと「定型発達」とされる。

でも、ここには大きな落とし穴があります。人の発達は、本当に平均値で測れるものなのでしょうか?
私たちの成長や行動には、個性や環境、文化的な背景など、さまざまな要因が影響します。平均からの“差”があっても、それが必ずしも「異常」や「障害」とは限りません。

「カテゴリー」ではなく「連続体」としての理解

近年、こうした問題を受けて、発達を「カテゴリー(二分法)」でとらえるのではなく、連続体(スペクトラム)として理解すべきだという流れが強まっています。

これは、医学や脳科学の分野でも支持されています。
たとえば、アメリカの小児精神科医Constantino, 2011は、「自閉スペクトラムの特徴は、“ある・ない”ではなく、“多い・少ない”という連続的な特徴である」と述べています。

この考え方に立てば、発達障害とされる人々の脳の特性は、「定型発達」とされる人々の特性と連続したグラデーション上にあると考えられます。つまり、誰しも多かれ少なかれ“発達の凸凹”を持っているということなのです。


🔍 ここで注目:ICDやDSMの限界とは?

ICDやDSMは確かに国際的に広く使われていますが、以下のような限界も指摘されています。

問題点内容
白黒の区別「診断がある/ない」という二択に偏りがち
支援の対象グレーゾーンの人が見逃されやすい
環境との関係個人の“困りごと”が環境に左右されるのに、診断は個人の特性だけに注目しがち

つまり、診断基準に合わなければ“問題なし”とされてしまう現実がある一方で、実際には困りごとを抱えている子どもたちがたくさんいるのです。


「発達の多様性」を前提にした理解へ

私たちは今、「定型発達」と「発達障害」をきっぱり分ける時代から、「一人ひとりが違う」という前提で子どもを見つめ直す時代へとシフトしています。

発達は、“平均”や“正常・異常”といったラベルで決めるものではなく、その子の特徴を知り、その子に合った関わり方を考えることが求められているのです。

第2章:脳の中にも“グラデーション”がある──Pellicano & Burr(2012)より

 自閉スペクトラム症は「脳の感じ方・考え方のスタイルの違い」

「この子は発達障害です」「あの子は定型発達です」
こうした言い方は、まるで発達を白と黒に分けているように聞こえます。

しかし、最新の脳科学では、こうした二分法の考え方に疑問が投げかけられています。
その代表的な研究の一つが、神経科学者PellicanoとBurrによる2012年の論文です。この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)を理解するうえで、今もなお大きな影響を与え続けています。

◆ 自閉スペクトラム症は「脳の感じ方・考え方のスタイルの違い」

Pellicano & Burr は、ASDの子どもたちは「まわりの世界をどのように予測し、意味づけるか」という“認知スタイル”に独自の特徴があると述べています。

私たちはふだん、音や光、人の表情など、さまざまな刺激に囲まれています。それらの情報を処理する際、脳は「今までの経験からの予測」を使って、スムーズに理解しようとします。たとえば、誰かが顔をしかめたら「怒ってるのかな」と推測する、といった具合です。

ところが、ASDの子どもたちは、こうした予測や一貫性の構築が苦手だという研究結果があります。
つまり、目の前の情報が、毎回“まっさら”に感じられることがあるのです。毎回、世界が「予想外」に感じられる――それは、本人にとって非常に疲れることでもあります。

◆ 感覚の“違い”は、誰にでもある

Pellicanoたちはさらに重要なことを指摘しています。

「定型発達とされる子どもたちの脳にも、同じしくみがある。ただし、その“程度”が違うだけである」

つまり、ASDの特徴は、まったく異質なものではなく、脳の基本的なしくみの“量的な差”にすぎないということです。

この視点は、発達を“スペクトラム(連続体)”として理解するうえで非常に重要です。
発達の違いは、境界線で分けられるものではなく、誰もがそのスペクトラム上にいる。ASDの子どもたちは、たまたまその特徴が強く表れているだけ――そうした理解こそが、科学的に正しい見方になりつつあるのです。

◆ 「普通」の感覚は本当に“普通”なのか?

この研究は、私たちにある問いを投げかけます。
「“普通”とされる感覚や行動は、誰にとって普通なのか?」

たとえば、ある子が些細な音に敏感だったり、人の視線を避けたりすることは、「問題」とされがちです。けれどそれは、“違い”であって、“障害”と決めつけるべきものではありません。

脳のしくみは人それぞれ。Pellicanoたちの研究は、それを裏付ける科学的根拠を提供しています。


🌱 発達を理解する新しい視点

このように、脳の中にも“グラデーション”があるという考え方は、子どもたちの個性を受け止めるうえで大きな助けになります。

「ちょっと育てにくい」「他の子と違う」と感じたとき、それは障害の有無という二択ではなく、その子がどのような感覚や認知のスタイルを持っているかに目を向けるきっかけになります。

そしてそれは、支援のあり方にも変化をもたらします。診断名に頼らず、「目の前の子どもに今、どんな支援が必要か」を考える――そんなアプローチが、これからの社会には求められています。

第3章:グレーゾーンの子どもたちをどう理解するか

「診断」がないと支援できないという制度的な限界

「育てにくさを感じるのに、どこに相談しても“診断がつかない”と言われてしまう」
「発達障害の診断がないと、学校でも支援を受けられない」

こうした声は、子どもに関わる現場でとてもよく耳にします。
この「診断がつかないと支援が受けられない」という現状は、多くの“グレーゾーン”の子どもたちにとって、大きな壁になっています。

◆ 「診断」がないと支援できないという制度的な限界

現在、日本を含む多くの国では、医療や教育の場で支援の対象となるには、**DSM-5(アメリカ精神医学会の診断基準)ICD-11(WHOの国際診断基準)**などに基づいた「診断名」が必要とされることがほとんどです。

しかしこれらの基準は、あくまで**“カテゴリー的”**(あるか、ないか)に分類するためのものです。前章で見たように、発達の特性は本来“スペクトラム”であり、「診断がある/ない」で線引きできるものではありません。

そのため、診断の基準にはギリギリ届かないけれども、生活に困りごとが生じている子どもたちがたくさんいます。

こうした子どもたちは、医療の側から見れば「診断なし」とされ、教育の場では「特別支援の対象外」となりやすいのです。

◆ 困難さは、“診断の有無”とは別に存在する

近年の発達神経科学では、診断基準にとらわれない形で、子どもたちの**「機能的な困難さ(functional difficulties)」**に注目する動きが強まっています。

たとえば、脳画像研究や実験心理学の知見では、診断がついていなくても、感覚過敏・注意の切り替えの苦手さ・言語の発達の遅れなど、発達特性にともなう“困りごと”は、定型発達とされる子どもたちの中にも見られることがわかっています(Gillberg, 2010; Levy & Perry, 2011)。

これは、発達上の困難さと、診断名は一致しないことを意味します。
つまり、「診断名がないから支援はいらない」ではなく、「その子にどんな困りごとがあるか」に注目すべきなのです。

◆ 困りごとに目を向ける支援へ

たとえば、ある子が教室で集中できずに立ち歩いてしまうとき、「発達障害じゃないから様子を見ましょう」ではなく、「この子はどういう場面で集中が続かないのか」「どんな環境調整があれば過ごしやすくなるか」と、実際の困りごとに即した支援が必要です。

実際、「診断ベース」から「ニーズベース」の支援への転換推進されています。
この流れの中では、診断名ではなく、個々の機能的な困難(functioning)に基づいて支援を組み立てるという考え方が中心になります。

日本でも一部の自治体では、診断がなくても「育てにくさ」を感じる家庭への相談窓口が設けられるようになってきています。

◆ 診断名に依存しない“支援のあり方”を考える

子どもが何らかの困難を抱えているとき、私たちにとって本当に大切なのは、「診断があるかないか」ではありません。

それよりも、

  • この子は、どの場面で困っているのか?
  • 何が負担になっているのか?
  • 周りの大人ができるサポートは何か?

といった視点で、目の前の子どもに寄り添うことが大切なのです。

診断はあくまで“ひとつの目安”に過ぎません。

第4章:“神経多様性”という視点──違いを力に変える発達理解

「脳の発達や働きにはもともと幅がある。誰もが同じである必要はない」という視点です。

「発達障害」と聞くと、多くの人が「どこかが欠けている」「治さなければいけない」といったイメージを抱きがちです。

しかし、ここ十数年で世界中の研究者や当事者が提唱してきたのが、“Neurodiversity(神経多様性)”という新しい考え方です。これは、「脳の発達や働きにはもともと幅がある。誰もが同じである必要はない」という視点です。

この章では、神経多様性という概念の意味と科学的根拠を、最新の知見とともに見ていきましょう。


◆ 神経多様性(Neurodiversity)とは?

神経多様性という言葉は、1990年代に自閉スペクトラム症(ASD)の当事者であるオーストラリアの社会学者、Judy Singerによって提唱されました。

この考え方は、「発達障害は脳の“病気”ではなく、人間の多様性のひとつである」という立場を取ります。つまり、定型発達だけが“正解”ではなく、ASDやADHDなども自然な神経発達のバリエーションとして存在しているということです。

医学や心理学の世界でも、こうした考え方に賛同する研究が増えており、診断や支援の在り方にも影響を与えつつあります。


◆ 平均に合わない=“異常”ではない

発達障害が「障害」とされる背景には、「“平均”や“多数派”と違うこと=問題である」という暗黙の前提があります。

しかし、たとえば視覚情報の処理を例にすると、ASDの子どもたちは、

  • 細かい図形の違いに気づく
  • パズルのような課題に強い
  • 一部の領域では定型発達児を上回る性能を示す

という特性が数多く報告されています(Mottron et al., 2006)。

また、ADHDの子どもたちについても、

  • 即時に反応する力(即応性)
  • 新しい刺激への敏感さ
  • 刺激の少ない場面でも独自のアイデアを生み出す柔軟さ

といった特性が研究で示されており、必ずしも「欠けている」のではなく、「違った戦略をとる脳」と捉えることができるのです(White et al., 2011)。


◆ “違い”を活かすという視点

こうした脳の特性は、社会の中でうまく活かされることもあれば、逆に困りごととして現れることもあります。

たとえば、静かな教室でじっと座って聞くことが求められる学校の場面では、ADHDの子は「落ち着きがない」と言われやすいかもしれません。

一方で、変化の多いプロジェクトや危機対応のような場面では、その即応性や柔軟な発想が大きな力になることもあります。

神経多様性の視点に立てば、

「どうしてできないのか?」ではなく
「どうすればその子の強みを活かせるか?」
という問いかけが可能になります。


◆ “普通”の基準は社会が決めている

神経多様性の考え方は、ある意味で社会にとっても問いかけを投げかけます。

「“普通”って誰が決めたのか?」
「“正しさ”とは、どんな基準で測られているのか?」

私たちが「育てにくい」と感じる子どもたちは、本当に“問題”なのでしょうか?
それとも、私たちの社会が**“多数派に合わせすぎている”**だけなのかもしれません。


◆ 多様性を前提にした支援へ

医療や教育の現場では、少しずつこの考え方が取り入れられ始めています。

たとえば、

  • ASDの子どもに、細かい構造化されたスケジュールを提示する
  • ADHDの子どもに、動きながら学べる教材を用意する
  • 感覚に敏感な子に、静かなスペースやノイズキャンセリングを提供する

といった支援は、“欠けている能力”を補う”のではなく、“その子のスタイル”を活かす支援です。

そしてこれは、「支援される側」だけでなく、私たち「支援する側」もまた、多様な理解と柔軟な発想が求められているということでもあります。

◆ 神経多様性は“社会モデル”の発想から生まれた

神経多様性の概念は、医学モデル(「個人に問題があるから治療すべき」)に対抗する形で登場しました。

この背景には、身体障害や精神障害の世界で広がった**「社会モデル」**の考えがあります。
これは、「障害とは個人の欠陥ではなく、社会の側がその人に合った環境を用意していないことによって生じる」という立場です(Oliver, 1990)。

たとえば、車椅子の人が階段を登れないのは「本人の機能障害」ではなく、「スロープやエレベーターを設けていない社会構造」にこそ障害があるという考え方です。

この視点を脳や発達の多様性に適用したのが、Neurodiversityの発想です。


◆ 脳の「違い」は脳科学でも裏付けられている

神経多様性の主張が単なる社会運動ではなく、科学的根拠を持つ主張であることは重要です。

たとえば、次のような脳科学研究が報告されています。

◯ ASD(自閉スペクトラム症)の脳は“予測”が苦手?

Pellicano & Burr (2012) は、ASD児は視覚や聴覚などの感覚刺激に対して「予測モデル(predictive coding)」を作るのが苦手であると指摘しました。これは、周囲の情報の「一貫性」をとらえて、先を見越す力が弱いということです。

一方で、ASD児は感覚刺激に対してより生のままに、鮮明に知覚するという強みもあります。

例:ノイズの中でも特定の音を聴き分ける
例:わずかな図形の違いに気づく

これは単に「困難さ」ではなく、「処理スタイルの違い」であり、脳機能の“スペクトラム”上にある量的な差と考えられます。

◯ADHDの脳は報酬系が独特に働く

ADHDの子どもたちは、「今すぐ報酬が得られるもの」への反応が強く、「遅れて報酬がくる活動」へのモチベーションが低くなる傾向があります。これは脳の報酬系(とくにドーパミン系)の働きが関係しているとされます(Volkow et al., 2009)。

これも“欠如”ではなく、“報酬処理の敏感さ”という認知スタイルの違いとして理解できます。


◆ 「脳の多様性」はすべての人に当てはまる

神経多様性という言葉はASDやADHDなどの診断を受けた人々の文脈で語られることが多いですが、実際にはすべての人に脳の違いは存在します

  • 視覚的な処理が得意な人
  • 聴覚的な情報に敏感な人
  • 計画的に行動できる人、衝動的にひらめく人
  • 一度にたくさんの情報を処理できる人、ゆっくりじっくり型の人

このように、脳の働きや学習スタイルには、生物学的にも文化的にも個人差があり、その“差”は連続的につながっています。

神経多様性は、特定の人にだけラベルを貼るものではなく、すべての人の“違い”を尊重する土台となる考え方です。


◆ “配慮”ではなく“前提”としての多様性

これまでの社会では、「困っている人に配慮する」という姿勢が中心でした。
しかし神経多様性の観点では、

「誰もが違って当たり前」
「全員が学びやすく働きやすい環境をつくることは、すべての人のメリットになる」

というユニバーサルデザイン的な発想へと進化しています。

実際に、多様な学習スタイルを前提にした教育(UDL:Universal Design for Learning)や、刺激に配慮した職場環境づくりなど、神経多様性の考えは具体的な実践にもつながっています。


第5章:実生活のヒント 「境界線を引くより、“凸凹の地図”を描こう

境界線を引くより、“凸凹の地図”を描こう

境界線を引くより、“凸凹の地図”を描こう

「この子は発達障害ですか?」「グレーゾーンですか?」
──そうした問いは、現場でもよく聞かれます。けれど、私たちが本当に知りたいのは、「この子は何に困っていて、どうすればもっと生きやすくなるのか」ではないでしょうか。

発達は白か黒かの話ではなく、本来“グラデーション”でできています。できること・できないこと、得意なこと・苦手なことが、分野ごとに凸凹になっている。だからこそ、必要なのは**「診断名を付ける」ことではなく、「この子の発達のプロフィールを知る」こと**です。

■「発達の地図」を描くという考え方

発達検査や診断は、あくまで現時点の特定の能力を切り取るものにすぎません。けれど子どもたちは、生きた存在であり、時間の中で発達していく存在です。その成長を支えるためには、一人ひとりの発達の“分布図”を描くことが有効です。

たとえば、「言葉は得意だけど、人とのやりとりは少し苦手」「運動が苦手だけど、細かい手先の作業は得意」など、その子の特性を立体的に理解する視点です。

こうした視点を助けてくれるのが、**Oi-SKiPA(Scale for Kid’s Personality & Aptitude)**のような評価ツールです。

■Oi-SKiPAとは?

Oi-SKiPAは、幼児期の“個性”と“適性”を可視化するためのスケールで、Shizuo Oi博士によって開発されました。このスケールの根底には「発達脳経年成熟因子」という視点があります。これは、「将来発揮される能力や技能は、小さい頃の好きなこと・得意なこと・興味関心と深く結びついている」という考え方です。

Oi-SKiPAの後方視的研究からは、幼児期の興味・個性と、成人期の職業・趣味との関連性も示唆されています。
つまり、「小さい頃に好きだったこと」から、将来の可能性を読み解く──そんなアプローチが、今求められているのです。

リハビリや教育の場だけでなく、保護者が家庭で子どもの特性を捉え、支援や関わり方を考える上でも活用できるのがOi-SKiPAの強みです。

■診断よりも、「生きやすさ」の視点を

社会的支援は診断名によって動くことが多いため、「診断がつくかどうか」は現実的には大きな意味をもちます。けれど、“支援が必要かどうか”と“診断の有無”は、本来イコールではありません。

困っているなら、支援する。
苦手があるなら、工夫する。
この子にとって「どうすれば生きやすいか?」という問いを、私たちはいつも軸に置いていたいのです。

凸凹の地図を一緒に描くこと。
それが、子どもたちの「ちがい」を理解し、「未来」へとつなげていく道なのです。

【まとめ】

「定型」と「非定型」は、境界ではなく連続体の中の点

「定型」と「非定型」は、境界ではなく連続体の中の点

これまで、「定型発達」と「発達障害」は、まるで白と黒のように対立するものとして扱われがちでした。しかし、脳や発達のあり方は、本来**グラデーション(連続体)**であり、誰もがその中のどこかに位置しています。

人にはそれぞれ、感じ方・考え方・動き方に“色合い”があるのです。

「白黒」で判断する時代から、「色合い」で見る時代へ

私たちが目指すべきは、「普通」か「異常」かという診断やラベルに頼る支援ではなく、一人ひとりの違いを理解し、その子に合った環境や関わり方を見つけることです。

ASDやADHDなどの診断名があってもなくても、**「どんな場面で困っていて、どうすれば力を発揮できるのか」**に注目することが、子どもを支える第一歩になります。

医学と教育のあいだで、“多様な育ち”への橋をかけていこう

子どもの育ちは、医療だけでも、教育だけでも支えきれません。だからこそ、医療と教育がつながり、親や専門職、地域が一緒に「この子らしさ」を支える社会が必要です。

そのために、まず大人が「多様性は欠陥ではなく個性」だと理解し、一人ひとりの発達の“凸凹”を温かく見守るまなざしを持つことが、何より大切です。

-文献-
Pellicano, E., & Burr, D. (2012). When the world becomes ‘too real’: a Bayesian explanation of autistic perception. Trends in Cognitive Sciences, 16(10), 504–510.
American Psychiatric Association. (2013). Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (5th ed.).
World Health Organization. (2019). International Classification of Diseases, 11th Revision (ICD-11).
Happé, F., & Frith, U. (2020). Annual Research Review: Looking back to look forward – changes in the concept of autism and implications for future research. Journal of Child Psychology and Psychiatry, 61(3), 218–232.
Jaarsma, P., & Welin, S. (2012). Autism as a Natural Human Variation: Reflections on the Claims of the Neurodiversity Movement. Health Care Analysis, 20, 20–30.
大井静雄:”発達脳経年成熟因子”の概念の提唱と「幼児の”個性”と”適性”評価スケール」(Scale for kid’s Personality & Aptitude [Oi-SKiPA])の開発.サピエンチア 聖トマス大学論叢.第48号.49-62,2014

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