ここにあてはまるものはありますか?
学習障害のリハビリテーション
学習障害は、知的な遅れなどがないにもかかわらず、読みや書き、算数など特定の能力の習得に困難さをしめす障害です。くわしくは、記事の後半に解説しています。
学習障害の読み書き、算数をリハビリではどのように支援していくのでしょうか?実際にリハビリでおこなっている遊びの一部を紹介します。
ひらがなあそび・絵カード
ひらがなの文字や読みを一致させたり、絵柄をみてその絵の名称のひらがなを順番に選択して文字を構成していく、言葉の音をひとつひとつ分解していく、もしくはひとつひとつのものを合成するなどです。バラバラのひらがなを組み合わせて単語を作るクイズをつくって遊ぶのもよいでしょう。
ほかにもあいうえおレースなんかもおもしろいですよ。
あいうえお盤、あいうえおタブレット
50音がひとつずつ磁石になっている「あいうえお盤」はリハビリでよく使う道具のひとつです。カードに描かれている絵柄をひらがなにして、磁石を並べ替えていきます。
それを読むことで、ことばを一つのまとまりとしてとらえることを促します。
以前紹介したことばの知育玩具(あいうえおタブレット)は文字をおすと文字を読んでくれます。あるいは、絵柄をみてそれに必要な文字を選択させる、文字をひとつひとつ打ち込んで読ませるとつなげて読んでくれるなどの機能があります。
しりとり、ぐりこなどの昔からあるあそび
子どもの頃、やりませんでした?グリコとかいうあそび。「ぐりこ」なら3つ、「ちよこれいと」6つ、階段をのぼっていく遊びです。ことばを分解して、その数をつかってあそぶわけです。
しりとりは、ことばのボキャブラリーをふやしたり、相手が言ったことばを覚えておかなければならない、自分が言ったことばを覚えておかなければならないというワーキングメモリーという記憶力を使います。
なぞなぞ、クイズ
なぞなぞやクイズは語彙を増やすのにも効果的です。べつにとんちをきかせたなぞなぞじゃなくていいんです。
Q「あかくて、あまいたべものなんだ?」 A「りんご」
もしかすると、リンゴ以外にも答えがあるかもしれません。ストロベリーチョコとか、そうれもよいです。たくさんの言葉を知っているということですから。
こういったクイズは聞いた情報を、頭の中で意味に置き換え、それを言葉に変えて、音声化する。音のイメージをつくるという脳の機能をたくさん使います。
お父さんやお母さんがクイズを出して、子どもが答える。親子のコミュニケーションにも一役買いそうです。
書くことを練習するなぞり書き
ひらがなや漢字の形を分解し、それぞれ構成するパーツごとに練習します。
漢字パズル
漢字を分解して、それをまた合成させたりする課題。漢字パズルなどがそれにあたります。
偏とつくりを組みあわせて漢字を合成するパズルは、紙に書いて自作することもできますし、いまはパソコンやスマホのアプリなどでも豊富にあります。
手や目の動きを練習する
書字ではないあそびを使って目と手の協調や手の運動発達を促す。これは、いろんなおもちゃや手遊び、お絵描きでもよいです。自分が思った通りに手を動かせるようにする。
指先のトレーニングに洗濯ばさみを使うこともあります。お洗濯を干すといったお手伝いも良いのではないでしょうか。
ビジョントレーニングもリハビリでは行うトレーニングのひとつです。
数のおけいこ
もの(ビー玉、車のイラスト等)をつかって、数字とそれがあらわす量をイメージする練習をします。小学校にはいると購入する算数ボックスなんかを使っても良いですし、オリジナルで作ってもいいかもしれません。
ひっ算などの見やすい工夫
情報を整理するのが苦手であったり、注意力や記憶力が弱かったりすると、どこを計算しているのかがわからなくなります。ひっ算するときに「枠」をつけてあげたり、色分けをしてあげると見やすくなり、自分がどこを計算しているのかという記憶の苦手さを補うことができます。
パソコンやタブレットの時代だからこそ!
そもそも字を書くことが苦手であるならば、パソコンを使うという手があります。
自分の考えを文字にすることに時間がかかってしまい、結果的に頭の中でよい文章がうかんでも書ききれなくて内容が薄くなってしまう可能性もあります。
そんな時は文明の力、タブレットやパソコンをつかって打ち込むことも必要な支援です。思ったことを思ったスピードで書くことができる、それが自信につながります。
また、板書などに時間がかかるなら、写真で撮ってしまう手もあります。もちろん、使うためには学校の理解を求める必要はありますが…。
近年では、タブレット学習が当たり前になってきています。学校側の理解も変化していくことでしょう。学習障害の子どもたちにも学びやすい環境に変化してきていることは、たいへんうれしく思います。
ここからは、学習障害の基本的な症状などについて、解説していきます!
学習障害(LD:Learning Disabilities:LD)
学習障害とは、英語にするとLearning Disabilities:LDとよばれています。ちなみに、ICD-11では、学習障害が「発達性学習障害」と名称が変更されました。
*ICD-11とは疾病及び関連保健問題の国際統計分類(国際疾病分類)。WHOが定めた病気の診断に関する国際的な基準
学習障害は、知的な障害や遅れ、視覚障害や聴覚障害がないにもかかわらず、聞く、話す、読む、書く、計算するまたは推論する能力のうち特定のものの習得や使用に困難さをしめす障害をさします。
とうぜんながら、不適切な家庭や教育環境のせいでもありません。脳の機能障害と考えられています。
医学分野では、学習障害は「特異的読字障害」・「特異的書字障害」・「特異的算数障害」など3つの領域に絞った定義となっています。
文部科学省の報告によれば、普通級に在籍する児童のうち2.5%程度に読みと書きの困難さがみられると推定されています。また、他の文献によれば「0.7~2.2%の間にあり、およそ1%程度と推測される」とあります。
いずれにせよ、
100人いたら、1~2人は読み書きに障害がある可能性がある。
ということができます。
ちょっと難しい脳の話
字を読むには、脳の脳の左頭頂側頭移行部、左下後頭側頭回、および左下前頭回がかかわることが知られています。また、発達性読み書き障害のお子さんは左上側頭葉の活動低下がみられたという報告があります。
算数障害では、右半球の頭頂皮質後部にある頭頂間溝(intraparietal sulcus: IPS)の機能異常や形態
異常があるという考えがあります。ワーキングメモリーや注意機能が影響しているとも考えられています。諸説あり詳しい脳の働きはわかっていません。
学習障害の特徴
発達性学習障害には読み書きの問題と算数の問題があります。どれも知的には問題ないけれど、学習に支障が出ていることが前提です。
読みや書き、算数において、具体的にどのような問題や症状がみられるのか詳しくみていきましょう。
「読み」の問題
ディスレクシアは、音韻認識(phonological awareness)や文字の音との対応(phoneme-grapheme correspondence)の困難を中心とした障害です。読みの習得が遅れたり、正確性や流暢性に著しい困難を伴うのが特徴です。
言葉をひとまとまりとして認識するための「言葉のボキャブラリー」の少なさや、字や行を見るための眼球運動、視知覚の苦手さなどがあります。また、文字をみて、それを頭の中で「音」に変える、音から口の動きにかえるところの苦手さがあるお子さんもいます。
医学的な背景
ディスレクシアは神経発達障害の一種であり、脳の特定の部位の機能や構造の違いに起因すると考えられています。以下は主な医学的見地です。
- 脳機能と構造
MRI研究によると、ディスレクシアのある人は左半球の言語処理領域(特に後部上側頭回や角回)の活動が弱い傾向があります。
神経回路の効率的な接続が不足していることが、言語処理や文字の認識に影響を与えます。 - 遺伝的要因
ディスレクシアは遺伝的な影響が強く、家族内での発生率が高いことが知られています。
遺伝子研究では、DYX1C1やROBO1などの遺伝子が関与している可能性が示唆されています。 - 音韻処理の障害
音韻処理の効率が低下しており、これが単語の読みや意味の理解に影響します。
音と文字の対応を学ぶ際の脳の「自動化」のプロセスが阻害されることが問題の一因です。 - 視覚処理の影響
一部のディスレクシアでは、視覚処理(例: 文字や単語の並びの認識)にも困難を伴うケースがあります。
「書き」の問題
ひらがなや漢字を構成するパーツが学習されていない、文字の音とひらがなや漢字の形が、あたまのなかでマッチングしていないといったことのほかに、手の運動発達や鉛筆をもつという運動の苦手さ、目と手の協調運動、形をとらえる能力とそれを運動に変換する能力に苦手さがある場合があります。
算数の問題(算数障害)
数字を見ても表す量をイメージできず、計算をしても量の変化として掴みにくいことが中核として考えられています。
学習のもんだいだけではない!?
さまざまな研究や論文の報告により、学習障害のお子さんは学習面だけではない問題を抱えている場合があることがわかりました。
次のような報告があります。
発達性読み書き障害は、他の発達障害(ADHD、ASD)と重複することが多くみられる。
特に DD の約30%に ADHDが併存するといわれている。
*ADHD:注意欠如多動症 / ASD:自閉スペクトラム症
算数障害には、ADHD や ASD などの発達障害を合併することに注意がいる。
その他にも、学習障害とあわせて、「発達性協調運動障害」をもつお子さんもいます。
学習が進まない要因のひとつに、学習能力以外の「注意能力」や「記憶能力」の問題があると考えられます。
また、このような報告もあります。
・学習障害が疑われる児童のつまづきは、聞く力などの言語面に関することの弱さ、行動水準の問題(多動、集中力の欠如等)、対人関係の弱さの各領域において強く示された。
・学習障害児が示す学校生活上のつまづきを改善するには、学習面のみならず、行動・情緒や対人関係の問題を含めて相対的に対応していくことが必要である。
勉強面だけでなく、情緒面や行動面、対人関係の点からも支援が必要となる場合があります。私が担当する学習障害のお子さんも情緒面に問題を抱えていました。
学習障害と名前がついていますが、学習面以外にも様々な視点からお子さんを見ていく必要があります。
お子さんの特性をきちんと理解したうえで、支援を行う必要性はここにあります。
気になったら、迷わず相談しましょう
LDのお子さんの学習がどのような理由ですすまないのか?理由は子どもによってそれぞれ違います。それを知るには、やはり専門家の分析が必要になります。
わたしたち、作業療法士もこういったおこさんの運動機能と脳の機能の両面から分析できる職種のひとつです。ぜひ、困ったことがあれば相談してください。
わたしたちが運営するYOUTUBEチャンネルでは、毎週水曜日にライブ配信を行っています。
匿名のチャットを使えば、無料でチャットから相談ができますよ!
チャンネルは下の画像をクリック!
引用文献
・稲垣真澄 他:特集 限局性学習症(学習障害) 総論:医療の立場から. 児童青年精神医学とその近接領域 58(2).205-216.2017
・宇野彰:特集 限局性学習症(学習障害) 限局性学習障害(症)のアセスメント. 児童青年精神医学とその近接領域 58( 3 ).351-358.2017
・北洋輔 他:読み書きにつまずきを示す小児の臨床症状とひらがな音読能力の関連─発達性読み書き障害診断における症状チェックリストの有用性─.脳と発達,42, 437-442.2010
・加藤義男他:LD及びその周辺児に対する教育支援の実態と課題.岩手大学教育学部研究年報第60巻第1号(2000.10)11~24.
・菅佐原洋他:学習障害児における読み・書きの困難さと脳機能:介入効果と可逆性の観点から.慶應義塾大学大学院社会学研究科紀要:社会学心理学教育学:人間と社会の探究.No67.pp81-pp98.2009
・細川徹:疫学.特異的発達障害の臨床診断と治療指針作成に関する研究チーム,稲垣真澄(編):特異的発達障害 診断・治療のための実践ガイドライン─わかりやすい診断手順と支援の実際.診断と治療社.pp34-37.2010
・中村好則:算数障害の児童への支援を配慮した教材開発の留意点.日本数学教育学会誌 第93巻 第4号.11-19.2011
・篠野公二 他:学習障害児への眼科診療所による教育支援. 視覚リハ研究 7(2).36-39.2017
・American Psychiatric Association : Diagnostic and statistical manual of mental disorders fifth edition DSM-5 . Arlington, VA, American Psychiatric Publishing.66-74.2013
・WHO:ICD-11.https://icd.who.int/en(2022.2.23access)
コメント